ヤンデレ御曹司から逃げ出した、愛され花嫁の168時間

水田歩

結婚式の155時間前〜逃げ出そう〜①

 午前零時。
 日付が変わっても私の大波乱な一日は、まだ終わらない。

「とりあえず、私は結婚式前に情報を手に入れた。このアドバンテージは使うしかないでしょ」 

 私はこっそり起き出すと、めまいがしないか確認してみる。うん、大丈夫みたい。

「さては、どうしたもんかな」

 まずは逃げおおせて、透也くんの出方を確認してみよう。
 ――ナイスアイデアだと思ったんだけど、この部屋を出るだけで脱出ゲームより大変だ。

 脱出経路を見出すために、ゆっくりと室内を見渡す。
 四畳分くらいありそうな天蓋付きのベッドがすっぽり入る、三十畳だかの寝室。
 あとは、衣装室にエステブース併設のメイクルームにバスルーム。
 専用の書庫までついた書斎に、バーカウンターやらグランドピアノが置かれ、シャンデリアまでぶらさがっている応接室。
 以上が私だけの専用空間だ。

 おまけにミニキッチン付きの、ボディガードさんの部屋まである。
 この間取りは嘉島の本宅でも、この別宅でも同じ。

 ――そうだ。
 私と母は居間とキッチン、浴室トイレ付きの2ベッドルームを最初からもらっていた。
 それこそ、婚約前から。
 嘉島家は福利厚生が抜群にいいと聞いていたけれど、いくら母がお義母様の秘書とはいえ、そんな厚遇を受けてよかったのだろうか?

 心臓が嫌な音を立てる。
 透也くんのご両親も、私が『チチ』からもらうことを知っていたから?
 まさか、母も。

 やめよう、誰も信じられなくなる。
 今はまだ、真実は明らかになっていないのだ。

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