ヤンデレ御曹司から逃げ出した、愛され花嫁の168時間

水田歩

結婚式の156時間前〜謎の女〜①

 午後十一時。
 嘉島家おかかえの医師に私は過労と診断され、結婚式までの分刻みのスケジュールは緩められることになった。

 私は大事をとってベッドに追いやられた。
 手はゆっくりと平らな自分のお腹を撫ぜる。

 おめでたではなかったらしい。
 ちぇ。
 赤ちゃんがお腹のなかにいてくれたら、透也くんになによりのプレゼントになったのに。

 正直、透也くんと初エッチをしてから、いつでも赤ちゃんウエルカムだった。
 結婚前だけど私は新米ママでも、沢山の人の手を借りることが出来るし、なにより愛する人の子供を産みたかった。

「…………」

 ぽつんと、天井をながめる。

 彼の婚約者になってから、いつも人に囲まれている。
 だから独りになれる空間はいつだって、どんなに短い時間でも貴重なのに、今日に限っては寂しかった。

 私の大好きな透也くんはいない。
 彼は私との新婚旅行のために、仕事をギリギリ前日まで詰めていた。
 そのため私が倒れたという報告を聞いて、急ぎ帰ってきてくれることになったんだけど、早くともあと数時間はかかるみたい。

「自覚症状なかったけれど、疲れてたのかなあ」

 健康だけが取り柄だったのに。スタッフの皆様をあたふたさせて申し訳ない。
 寝よう。
 私の仕事は元気になって、スタッフにお礼を言うことだ。
 力を抜いて、目を閉じた。
 
 うつらうつらしていると……誰かが、私の様子をうかがっている? きっとお医者さまから付き添いを命じられたスタッフさんだ。

 私の認識の甘さがこの事態を招いたんだ。
 結果、透也くんの仕事を邪魔しちゃうし。うー、本当にすみません……。

 あとで執事さんに訊いて、超過勤務してくださったスタッフさんの名前を教えて貰おう。
 私付きの方はローテーションだと聞いているから、執事さんに訊けば誰かはわかるはず。寸志を特製ポチ袋に入れて、渡すのだ。
 つらつら考えていると。

「倒れちゃったりしてさあ、なにパフォーマンスしてんの? わざとらしいっての」

 嘉島家にいるときは向けられたことのなかった悪意に、ぎくりとする。
 とりあえず、私は寝たフリをすることにした。

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