ヤンデレ御曹司から逃げ出した、愛され花嫁の168時間

水田歩

結婚式の流石に4年前〜初めての夜は二日間〜 ②

 
 嬉し恥ずかし朝帰りどころか一泊二日。
 二泊になりそうなところを説得してチェックアウトさせた。

「……あの。なんで透也くん、二十歳になるまで待ってたの……?」

 屋敷の帰る車の中でそっと訊ねれば、手を重ねられた。

「円佳、未成年に手を出して犯罪者になるの気にしてただろ」

 う。
 確かにそうです。
 ひそかに呼び捨てが嬉しくて、ニヨニヨしてしまう。

 ふう、と彼はため息をついた。

「嘉島の家には、自身で責任を取れれば未成年て観念ないんだ」

「…………はい?」

 なんか常識を覆すような事を言われた?

「シちゃったとしても知事も法務大臣も知り合いだし、僕がないと言えば『なかった』ことになる。ほんと、円佳は我慢づよいね」

 ……なんか、色々ダークな言葉が聞こえた気がする。
 指と指との間のみずかきを撫でられて、ぞくんとなった。
 透也くんは、片方の手でリモコンを取り上げてなにかを操作すると、もう片方の手で私の髪をもてあそびながら囁いた。

「意外と乙女な円佳を髪の毛一筋も傷つけたくなかったしね」
「『意外と』は余計ですー」

 文句言いつつ、婚約者どのに乙女認定されていたとは嬉しい。

「僕が襲ったってことにすれば、円佳としては体裁がつくのかな、とは考えていた」

 たしかに待っていた。
 透也くんが私の目を覗きこんできた。
 黒々と、夜の湖みたい。星を宿してキラキラしているくせ、深さが知れない。

「……でも、いつも僕から欲しがってて、君から求められたことがない。僕だって円佳から欲しがられたい」

 拗ねたように言われて、私は眼をそらした。
 思いっきり心当たりがある。

 彼が『円佳ちゃん好き好き』光線を垂れ流してくれるものだから、私は逃げているフリをして頃合いを見て捕まればよかった。

 そりゃ透也くんだって、恋人としては相手からの意思表示欲しいよね……。
 仕事にかまけていて待ちの姿勢だった私は、いたく反省した。

 そっと透也くんの頬に手を添え、唇にキスをした。 
 離れてからも、透也くんは目を閉じたままだった。
 恥ずかしくなり、彼の胸に顔を埋めながらささやいた。

「ごめん」

「いいよ。まあ、正直言えばシミュレーション上の、僕を涙ながらに本気で詰る円佳はかなりクるものがあったし、最初が無理矢理でも君を説得する自信はあった」

 ……おーい。
 思考が暗黒物質の塊で出来てるの、丸わかりですよー。

 身じろぎしたのを逃げるためと思われたのか、ますます深く抱き込まれる。
 カリ、と耳たぶを食まれた。

「円佳が手を出してくれるのを待っていたのに。僕としては、君を愉しませるための『イメトレ』をたっぷり出来たし? 待った甲斐はあったから、結果オーライにしてあげる」

 なあんちゅうことを言うのお!
 私がアワアワしていると、透也くんは不意に怪しいまでの色香をあふれさせてきた。

「僕が誘ったとき、円佳は『自分がどうしてハジメテだと言い切れるのか』って顔をしていたよね。心外だなあ、円佳を誰かに奪われるヘマをすると思う?」

 耳元でささやかれ、背骨がぞくりとした。
 そっぽを向いていた顎を掴まれて元の位置に戻されると、透也くんが艶めかしい眼で私を覗き込んでくる。

「これから、もっと『仲良く』なろうね」

 言葉と共に覆いかぶさってきた透也くんの唇に、私は陥落。
 体の中から押し寄せてくるピンクの波に溺れて、理性を手放した。……嘉島の家に着くのに、行きより時間がかかったような気がした。

 私たちはそれから何度も体を重ね、お互いを練習台にして気持ちヨくなる技術を習得していき、二人で成長していった。


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