ヤンデレ御曹司から逃げ出した、愛され花嫁の168時間

水田歩

結婚式のなんと6年前〜結婚式リスケ〜 ⑤

「私が断ったらどうするつもりだったの」
「円佳ちゃんは僕をすごーく愛してるでしょ?」

 意地悪な気持ちで訊ねればキッパリハッキリ断言されて、逆に絶句した。

「そっ、それは……そのとおりだけど……」

 とうの本人から指摘いただくと、否定したくなるのが日本人のサガと申しますか、なんというか。

「ありがとう。僕も円佳ちゃんを誰よりも愛してる。証拠に世界を滅ぼしてもいいくらい、円佳ちゃんが好きだよ」

 破顔して恐ろしいことを言われた!
 透也くんが黒曜の煌めく双眸で私を見つめなおす。

「君がためらっている理由は、自分の出自が僕の足をひっぱらないかという懸念だ」

 そう。
 私達には深いへだたりがある。

「ならば僕が円佳ちゃんを説き伏せればいいだけの話」
「そうなの……へ?」

 話のいく末が、思っていたのとは違う方向のような?
 目をぱちくりしたら、艶やかに微笑まれた。

「見くびらないでほしい。嘉島が伴侶の出自を気にすると思う?」

 たしかに嘉島家以上の家格なんて、あとは各国の王族くらいだろう。
 透也くんちくらいすごい家だと、縁戚や閨閥けいばつはむしろ足を引っ張る存在。

「戸籍上、円佳ちゃんが三歳上だけど、僕のほうが精神的に大人で世馴れているから、お姫様を守る騎士としては条件満たしてるし」

 あうあう。
 口を開け閉めしたものの、出て行く音は言葉にならない。
 す、と透也くんの眼が真剣になった。

「円佳ちゃん。僕との婚姻について、誰かにいじめられたの? 誰であろうと、僕が話せば納得してくれるよ」

 私はブンブンと首を横に振った。
 格差によるいじめ・反対はなかった。それどころか。

『透也は最高の息子だけど、わたくし女の子も欲しかったのー。元々円佳ちゃんは娘同様だし、嬉しい〜!』

『円佳ちゃん。未来のパパに、姫君とおでかけする栄誉を与えてもらえないかな?』

 透也くんと両思いになってから、彼のご両親は私を義理どころか実の娘扱いしだした。
 
『だって円佳ちゃん、貴女が六つのときから一緒に暮らしてるのよ?』
『会ったその日に透也は君にプロポーズし、今回晴れて了承してくれたと聞いている』

『『だったら娘じゃない』か』

 ご両親の言葉に嘘はなく。

 いわゆる社交界に透也くんのお母様に連れられて出かけては『嘉島家の総力をもって花嫁修行させた、自慢の娘ですの』と紹介された。

 気が早いと思いつつ、カレシのお母様公認は嬉しかった。

 あるとき、透也くんのお父様になにかのパーティに連れていって頂いた。
 私を透也くんの婚約者だと告げた彼のお父様に、たぬきの焼き物にそっくりなおじさんが自分の娘を紹介した。

(やっぱり私だと透也くんに釣り合わないんだ)

 実感し、部屋から出て行こうとしたら透也くんに止められた。

『僕の婚約者が退室しなければならない理由はないよ』

 透也くんがたぬきおじさんをにらめば、お義父様も。

『円佳嬢は嘉島家の掌中の珠です。貴君の娘に彼女ほどの価値があるとでも?』

 にこにこしながら絶対零度の声を吐いた。

 ……次の日。
 新聞のすみっこに、たぬきおじさんが経営している会社が倒産という記事が載った。
 以来、私は社交界に受け入れられている。

『虎の威を借る狐』とかひそひそ声を発した家も、なぜか翌日以降沈黙する。
 私のことを、どうやら嘉島家の皆様が総力をもってガードしてくださっているらしい。

「両親は僕に命を与えてくれた。嘉島の家に生まれたから、円佳ちゃんに逢えた。感謝してもしたりない」

 もう一度、私の手の甲に頭をたれる。

「僕の最愛は君だ。あらためて家永 円佳さん、君の人生を僕に与えてほしい」

 透也くんの瞳にある私への気持ちは本物で、どんなことがあっても私を守り抜こうと決意している顔だった。

 視界がじわじわとにじむ。
 なんで、こんな人が世の中に存在するんだろう。
 どうして私を好きでいてくれるんだろう。
 好きな人に好かれるっていう奇跡をどれだけの人が体験しているのかな。
 私。
 こんなに愛されて、バチあたらない?

「……だって」
「え?」

 うつむいてたから呟いた声は、聞き取れなかったみたい。

「私だって透也くんが落ち込んでたら慰めてあげたいし、貴方が敵と戦うなら一緒に戦いたいんだからっ!」

 泣きながら叫べば、我が意を得たりというか。
 うちの子でかした!みたいな得意満面な表情をされてしまった。
 くそう、私の考えなんてお見通しか!
 け・ど・ねっ。

「私、自分の脚で立ってからお嫁さんになりたい。だから、明日からの結婚イベントはしばらく延期ね」

 可哀想だけど、ここはきちんと言っておくところだもん。
 透也くんの眼をみつめてあらためて宣言すれば、なにか言いかけたけれど、仕方なさそうに頷いてくれた。

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