元ギルドの受付嬢、転移者に助けられ、お気楽冒険者生活 -どうやら、私にはクビになった受付嬢より冒険者の方が向いていたようです。-

なつきコイン

第8話 黒髪青年

 檻に閉じ込められたまま困っていると、謎の黒髪青年と出逢いました。

「誰かが扉の鍵を持っていたと思うのですが?」
「え、あの残骸から探さないといけないの?」
 そこのあるのは、血だまりと男たちの持ち物の残骸です。

「申し訳ございません。探してもらえますか?」
「えー。血だらけだよ・・・」
「すみません。お願いします」
 私は頭を下げます。

「見捨てるわけにもいかないし、仕方ないか・・・」

 彼は渋々ながら鍵を探してくれます。
 親切な方です。
 普通、警戒するものです。
 檻に入れられているのだから、私のことを犯罪者だとは思わないのでしょうか?
 私が拐われてきたと思っているのでしょうか?

「あった!これかな?」
 鍵はすぐに見つかったようです。
 彼は見つけた鍵で檻の扉を開けてくれます。

「はい、開いたよ」
「ありがとうございます」

 私はお礼を言って、檻から外に出ます。

「ところで、プランタニエちゃんは何で檻に入ってたの?」
「今更それを聞きます?普通扉を開ける前に確かめるものでしょう」

「えー!だって、子供が閉じ込められていたら、理由はさておき、出してあげないと可哀想でしょう!」
「誰が子供か!私はこう見えて二十歳過ぎの大人よ!!」
「え?僕より歳上?本当に?」
「え?私より歳下なの?いくつよ!」
「十八ですけど。というか、急に態度が大きくなりましたね」
「それはそうよ。そっちが歳上だと思ったし。着ている服も上等で家名もあるようだから、貴族の方なのかなっと・・・。
 だけど、よく考えれば、貴族の坊ちゃんがお供も連れずに、こんな森の奥に一人でいるわけないわよね。
 というか、何でこんな森の奥に武器も持たずに一人でいるの?」

「それが僕にもよくわからないんだ。さっきまで学園にいたはずなんだけど、落とし穴?にハマって、気付いたら森の中にいて。ここは日本ではないんだよね?」
「そうよ。ここはジュピタニア王国よ」
「ジュピタニア王国?聞いたことないな」
「私も日本なんて国、夢の中でしか聞いたことないわよ」
「夢の中?」
「うん。子供の頃の見た夢の中でね。私は日本という国で学園に通っていたの!」

「それって夢の中の話?」
「そうよ。
 夢の中では今みたいなストレートな黒髪でなく、茶色いウエーブのかかった髪で、瞳の色は鳶色だったわ。
 現実にそうだったら、捨てられたり、虐められたりしなかったかもしれないのに。
 そう思っていたから、そんな夢を見たのでしょうね・・・」

「それは、この国では黒髪は迫害されるということなのか?」
「そうね。今まで私以外、黒髪で黒い瞳のヒトに会ったことはないわ。あなたが初めてよ」

「そうか。それなら髪は染めたほうがいいかもな・・・」
「え!黒髪って染められるの?」
「今は黒だけど、茶髪にしていた時もあったぞ」
「それ、どうやるの?」
「脱色して、ヘアカラーで染める感じかな・・・」

 今まで、魔法で髪の色を変えようと挑戦したことがありましたが、黒の上にどんな色をのせても、黒いままでした。
 薄い色を濃くすることはできても、濃い色を薄くはできないと思っていました。

「そうか。黒髪でも脱色してしまえば色を変えられるのか。その発想はなかったわ」
 色の変化なら魔力量はさほど必要はありません。
 脱色はやったことがありませんが、魔力操作はSSSの私ならできるでしょう。

 私はどんな髪色にするか考えます。
 夢の中の自分と同じでいいか。イメージしやすいですし。
 ついでに髪質と瞳の色も変えてみましょう。

「脱色、茶髪、パーマ、鳶色の瞳」
 私は自分に魔法をかけます。

「どう、上手くいったかしら?」
「うん、いい感じに茶髪になってるよ。学園時代の美春そっくりだ。って、今の何?どうやったの!」
「驚いた?魔法でやったのよ。魔力操作SSSだからこそできたのよ。すごいでしょ(エッヘン!)」
 髪の毛一本一本に魔法をかけていく、凄く繊細な魔法です。魔力操作SSSでないと難かしいでしょう。

「え!魔法?この国では魔法が使えるのか?国が違うと随分違うのだな・・・」
「えー!驚くところそこからー!」

 日本では魔法は使えないのか。そういえば、夢の中でも魔法は使っていませんでした。

「はー。よければあなたにも魔法をかけてあげるわよ。黒髪ではこの国ではやっていけないでしょうから」
「そうか。なら頼む」

「任せて。脱色、茶髪、パーマ、鳶色の瞳」
 私は彼にも魔法をかけます。

 そこには茶髪になって雰囲気が変わった彼がいました。

「まー兄さま・・・」
 私は茶髪のイケメンになった彼を見てボソリと呟きました。

「美春!僕の事を思い出したのか?」
「いや、そうじゃないの。あなたが、夢の中の私の従兄弟のお兄さんにそっくりだったから」
「それは僕の事じゃないのかい?」
「あなた。夢と現実をごっちゃにしては駄目よ。夢は夢、現実は現実よ!」
「そうかな・・・。そうだよな」

 そうは言ったものの、私自身も混乱していました。
 思い出してしまったのです。夢の中で、私は「ミハルお嬢様」と呼ばれていたことを。


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