真夏生まれの召使い少年

ぢろ吉郎

優しいあの子も、アイスを買いに②



「で?アイスは決まった?ちなみに僕のおススメは、レモン味だよ。ダントツで。ダントツ・・・・・ううん、このオレンジ味とか、柚子味もいいかもね」
「どれだけ柑橘系が好きなの、袖内そでうちくん・・・。うん、でも、そうだね。暑いときはやっぱり、サッパリ系がいいよね」
「うんうん。濃厚バニラとか、リッチチョコとか、そういうのは言語道断だよ」


 なんなら冬季であっても、僕はサッパリ系を選びたいところだ。いや、冬の間はそもそも、アイスを買う頻度はそんなに多くないか。
 でもなー。
 冬にコタツで食べるアイスって、驚くくらい美味いんだよなー。
 なんだかいろいろ矛盾してしまっている食べ方ではあるけど、美味しいんだから仕方ない。


「だけど、袖内くんにも、そういうこだわりみたいなものがあるんだね。ちょっと、びっくりしちゃったよ」


 お互い、目当てのアイスを手に取り、レジカウンターへと向かう途中、牧華さんはそんな話を振ってきた。
 相変わらずのアイストーク・・・でも、ないのか。
 アイス選びに、こだわりも何もないと思うけど。


「別に、こだわりってほどでもないよ。たまには、濃厚なアイスも食べたくなるし」


 ただ今回は、どうしてもサッパリ系を買っていきたかった。
 それは、僕のこうというよりは・・・。


「さっき僕、ゲームに負けて、パシリにされたって言ったよね?」
「言ってたね。悔しそうに」
「悔しそう・・・まあ実際、そうなんだけど・・・・・。ともかくさ、どういう種類のアイスを買ってくるのか、指定はされてないんだよ」
「ふむふむ」
「だから、アイスの種類くらいは、僕が決めさせてもらおうってこと。兄さんは濃厚アイスが好きだから、その逆のサッパリ系を買っていって、僕をパシリにしたことを後悔させてやろう・・・みたいな?」
「なんか・・・地味な復讐だね。そして、小さい」
「ハッキリ言うね。小さいって・・・・・うん。分かってるよ。僕って小さい奴だよなーって自覚は、ありありだよ」


 まあ、小さい奴は小さい奴なりに、行動させていただこう。
 塵も積もれば山となる、だ。
 この諺を考えた人は、さぞ大きな器の持ち主なのだろうけれど、それを使うのは、こんなにも器の小さな僕であっても、不都合はないはずなのだ。
 自由に使わせてもらおう。


牧華まきはなさんだって、妹に意地悪しちゃおうって思うことくらい、あるでしょ?」
「うーん・・・・・それは、あんまりないかな。意地悪なんてしちゃったらあの子、泣いちゃうかも」


 苦笑を浮かべながら、牧華さんは答える。


「泣いちゃうって・・・小学三年生だったよね?牧華さんの妹。さすがに、泣いたりはしないんじゃない?」


 うみちゃん、だったっけ?確か。
 この前のお祭りで会ったときに初めて、名前と年を聞いたのだ。随分と小さい子に見えたから、小学三年生だと聞いたときは、少し意外だった。


「泣いちゃうんだよねー、これが。あの子、極端に弱気でさ。ちょっとしたイタズラでも、本気で捉えちゃったりするんだよ」


 「やれやれ」とでも言いたげに、牧華さんは首を振った。


「さっき、袖内くんたちの兄弟関係が羨ましいって言ったけどさ。私たちの姉妹関係って、ほんっとバランス悪いんだよねー」
「バランスが悪い・・・って?」
「袖内くんたちみたいに、関係性がつり合ってるわけじゃないってこと。海根はさ、何かある度に、『ごめん』って謝ろうするんだよね。今日もさ」


『あの、お姉ちゃん・・・私、アイスが食べたくて・・・もし、買い物に行くなら、ついでに買ってきてほしいんだけど。あ、いや、面倒だったらいいの、ごめん。え?買ってきてくれるの?あ、ありがと・・・ごめんね。種類はなんでもいいの。うん、ホントに。ごめんね、都合悪くなったら、忘れてくれて構わないから・・・。本当に大変だったら、買わなくていいからね、ごめん・・・・・』


「って」
「それは、なんというか・・・ちょっと、鬱陶うっとうしいって思っちゃうかもね」


 僕だったら、話が面倒になっちゃって、まともに会話しないかも。
 この前話したときは、そこまで弱気な話し方はしていなかったと思うんだけど・・・。


「もっとはきはき話さないと、押しに弱い女になっちゃうぞーって、いつも言ってるんだけどね。私も、あんまり強くは言えないから・・・・・たまには強く怒って、矯正した方がいいのかな?あの性格」
「難しいところだね・・・」


 弱気な性格の海根ちゃんに強気な説教をしたところで、それでバランスがとれるとは限らないし・・・。その辺のさじ加減は、本当に難儀なところだ。


 兄と弟。


 姉と妹。


 実際のところ、ゆったりとした会話だったと思う。
 僕は兄に不満があるし、牧華さんは妹を心配しているようだけれど、本気でなんとかしようと考えているレベルの話題ではなかった。「気分が乗ったらやってみよう」、「機会があれば頑張ってみよう」、それくらいの話題だ。
 日常の一幕。
 「学校の外で、クラスの女子とまともに話せてよかった」。その程度の感想しか思い浮かばない、日常会話。
 こんな他愛もない会話の内容なんて、近いうちに忘れてしまうだろう。僕たちの兄弟関係も、牧華さんたちの姉妹関係も、特に進展しないまま、この話題は風化していってしまうことだろう。
 変化があったらいいなー、と思うレベル。
 変化がなくてもまぁいっか、と思うレベル。
 ひとまずこの会話は、この辺で一区切りだろう。楽しかったし、充実した雑談だったように思う。
 僕は笑っていたし。
 牧華さんも、笑っていた。


 もちろん彼女も。


 わらっていたのだろう。





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