真夏生まれの召使い少年
登校日①
夏は暑い。
それは当然のことだし、何万年も前から変わらないことなのだろうし、これからも変化しないことなのだろう。そんな事実に考えを寄せるのは馬鹿馬鹿しいことだし、そんなことには脳の一部分だって、割く意味はないのだろう。それなのに、何故そんな当然の事実を、頭の中で考えたのかといえば。
僕は、暑いのが嫌いだからだ。
なんで、夏って暑いのだろう。なんでこんな暑い日に、学校に行かなくちゃならないのだろう。この疑問に対する答えもまた、当然で、単純なものである。
まず一つ。
僕こと、袖内粍が学生であるということ。私立火売中学校の、健全なる中学二年生であるということ。
そして、二つ目。
今日が、夏休みの登校日であるということ。夏休みという極楽期間にも関わらず、学校という地獄に通わなければならない日であるということ。
以上、証明終了。簡単で単純で、疑問を挟む余地もない結論だ。
(せめて、夏が暑くなければなぁ・・・・・)
いや・・・暑くなければ、夏じゃないのか。暑いからこそ、スイカやかき氷が美味しいのだし。暑いからこそ、プールや海水浴が気持ちいいのだし。暑いからこそ、花火が綺麗なのだろうし。暑いからこそ・・・・・。
ん?でもでも、そりゃ日本は四季に恵まれているから、夏は暑くて冬が寒いっていう常識が成り立つのであって・・・。季節に偏りのある国は、どうしてるんだ?たとえば、夏が存在しない国。一年中が真冬の国では、スイカもかき氷もプールも海水浴も、文化の中に組み込まれていないんじゃないのか?そういうところは・・・・・じゃあ一年中、スキーやらスケートやらに精を出しているのか?いや、そもそもそういう国では娯楽云々以前に、日常生活が過酷過ぎて、逆にスキーやスケートを知らないって可能性も・・・・・。
(あー・・・・・駄目だ。こりゃ本格的に、暑さで頭がやられちゃってるな・・・)
僕はブルブルと、頭を振る。それで、ボーっとした脳味噌がどうにかなるわけでもなかったけれど。むしろ、クラクラした。
本日8月1日の登校日がどうして設定されたのかといえば、それは、僕ら学生にとっては非常に不都合な理由に基づく。
まず僕たちは、学校の掃除をしなければならないらしい。掃除をしないまま、約二週間放置された教室を、僕たちの手でピカピカにしなければならないそうだ。
・・・・・いいじゃん、そんなん。
夏休み明けに、まとめて掃除すればいいじゃないか。約二週間も、約一か月半も、そんなに変わらないだろう。
そして僕たちは、僕ら学生にとっては夏休みの宿敵ともいえる「夏休みの宿題」の途中経過を、先生に報告しなければならない。なんのために存在するのか、もはや紙の無駄使いとも言えるあの「夏休みの宿題」を、先生に見せなければいけないらしい。
・・・・・僕の夏休みに、休みをくれ。
自由研究って。それそのものが、学生の自由を奪っているじゃないか。そんな体たらくで、「自由」を名乗るんじゃない。第一、なんで中学生になってまで、自由研究なんてしなくちゃいけないんだ。
僕の「夏休みの宿題」の進捗はといえば・・・芳しくなかった。
芳しくないどころではない。
僕は「夏休みの宿題」に、まったく手を付けていなかったのだ。だって、夏休みだもの。ゆっくりしたいじゃないか。学校に行かなくていい期間に、誰が好き好んで勉強なんかするんだ。
この約二週間・・・いや、正確には十日間ほどか。この十日間、僕はダラダラと過ごした。宿題のことなんか忘れて、好き勝手に過ごした。
最初の三日間、溜まっていたゲームをやり込んだ。兄さんと一緒に、楽しくゲームライフを過ごした。
次の三日間、友達の家に泊まって、夏を堪能した。またしても一緒にゲームをしたり、プールに行ったり、夏祭りに行ったり。これでもかというくらい、夏を楽しんだ。ちなみに男友達の家だったので、ひと夏のアバンチュール的な状態には発展していない。せいぜい夏祭りで、クラスの女子委員長にたまたま遭遇したくらいだ。
いやいや、多くは望まない。
夏らしいことができたのだから、それで満足しておこう。
その次の三日間、おばあちゃんの家に泊まりに行った。お盆にはまだ早いが、新鮮で美味しいトウモロコシが採れたというので、それに釣られて行った形だ。・・・本音を言わせてもらえば、お小遣い目当てだったけれど。
そして、昨日。
一日中寝てた。
これが、僕の夏休み最初の十日間である。
・・・あれ。
結構自由だな。僕の夏休み。望むまでもなく、自由気ままなバケーションじゃないか。
閑話休題。
そんなわけで僕は、なんの期待もないまま、なんの夏の成果もないまま、いつもの通学路を歩いていた。まあ、仕方ないだろう。先生には怒られるかもしれないけれど、宿題は明日から頑張ろう。
明日やろうは馬鹿野郎、だっけ。
じゃあ・・・・・馬鹿でいっか。
いつもの道。
いつもの通学路。
いつものペース。
昨日と何も変わらない、夏の空。ミーンミーンと、セミがうるさく鳴いている。
何かが変わってほしいと思っていたわけではない。何か、特別なことが起こってほしいと願っていたわけでもない。
けれど、変化というのは。
別に、望んでいる望んでいないに関わらず、勝手にやって来る。連絡も音沙汰もなしに、日常を破壊する変化は、僕らに襲い掛かってくる。どんなに不変を望んでいたところで、変化するときは変化するし、変化を渇望したところで、変化しないものは、いつまでたっても不変的だ。不変的であり、普遍的だ。
良い変化を進化、悪い変化を退化と呼ぶならば、前者は大歓迎だ。後者は、言うまでもない。
さて。
僕が出会う変化は、進化か、退化か。
非日常は、すぐそこにあった。
・・・・・なんて、ありがちなセリフかな。
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