勇者パーティーを追い出された死霊魔術師はリッチになって魔王軍で大好きな研究ライフを送る
80話 人類は愚か回
「エルフさん! 死者蘇生反対派のやつをぶっ殺して来ました! 蘇生してやれば死者蘇生の素晴らしさがわかるはずです!」
元気いいね。家業は蛮族?
死者蘇生推進派にはこういうところがあって、『一度死んで蘇生させられたら、二度と死者蘇生反対なんて言えないはずだ』と思っているふしがある。
今までは死者蘇生の是非や死霊術について声高に語っていても実際に死霊術を扱える者が皆無だったため大人しかった。
しかし実際に死霊術を扱えるエルフッチが仲間に加わったことで過激思想は加速し、今ではもう『逆らうやつは全員殺せ!』という思想にすっかり染まってしまっているので殺しました。
「レイラ〜。レイラ〜。なんとかしてほしいんだけど。君の子分たちが気に入らないやつぶっ殺しまくって、しかも蘇生を全部エルフに押し付けてくるんだよ〜」
「そういうやつはぶん殴っていうことを聞かせなさい」
「ぶん殴るの苦手だからぶっ殺しちゃったよ」
「逆らわなくなった?」
「今は(死んでるので)」
「じゃあそのままにしなさい」
そういうわけにもいかないので、エルフはちょっと時間をもらって、あるものを開発した。
それは『記憶』を素材にしたフレッシュゴーレム式の人体である。
ただし通常の人体と違うのは、それに手足と頭と内臓がないということだ。
サイズも手の平に乗る程度の、一見して黒いボールとしか見えないこれは、死霊術的には『人体』としての要素を備えている(※生物学上はアウト)。
リッチは命というリソースそのものの貴重さを理解しているが、死霊術を傘に着て暴れ回る蛮族は全員死ねばいいとも思っているので、こうして命だけ『動けない、しゃべれない』『人体』に保管しておく方法をとることにしたのだ。
これは長年リッチが苦心していた『生命の保管方法』の確立であり、はからずも死霊術推進派の無知な人たちがよく言う『はるか未来に、はるか過去の命を蘇らせる』ことを可能にするかもしれないものであった。
ただ、『記憶』を素材にした人体は、生物学的な人体に比べると少々寿命が短い。代謝もなく、自己修復能力もないためだ。
なので『記憶』を素材にした人体は、その耐用年数が相変わらず課題ではあった。
あと。
『記憶』というのは大気中に漂う記憶のことで……
この大気中に漂う記憶というのは、『やべぇ。なにかをしようとしてたのに、しようとしたことを思い出せない』とか『おかしい。十二人の妹たち、一人一人名前を挙げていくと必ず一人だけ名前が思い出せなくなる』とかの、『ど忘れ』と呼ばれる現象の原因だ。
人はちょいちょいこういう『記憶をこぼす』ということをやりがちで、この『こぼれた記憶』が大気中には大量に漂っている。
これを集積、濾過し、押し固めてできるものがエルフやフレッシュゴーレムなどを形作るパーツになる。
現在のところ未使用の『記憶』が大気中には大量に漂っているが、なにぶん有限ではあるので、使い過ぎれば枯渇する可能性が考えられた。
枯渇してなお使おうとすると、人々の頭から強制的に記憶を抜き取る羽目になり、大陸中が忘れっぽくなる可能性も考えられる。
ともあれ色々な可能性を秘めた真っ黒い手の平大のボールが、『死霊術あるから反対するやつ皆殺しだヒャッハー!』とかやってる連中の新しい人体になる。
この人体、日を追うごとに増えている。
━━人々は気付いてしまったのだ。
言葉を尽くして相手を説得し、妥協点を互いに探りながら自分の意見を開陳していくより……
逆らうやつは皆殺しにした方が、話が早いのだと━━
死者蘇生推進派は『蘇生するし』というのを言い訳に、『殺す』という選択が日常会話のかなり上位に来るようになってしまっているようだった。
まあ殺した相手を自分で蘇生してくれるならエルフッチもなにも言わないのだが、殺した相手の蘇生をさせられるのはエルフッチなのだ。
しかも死霊術を教えようとしても、一回二回話を聞きにくる者はあるのだが、『なかなか自由自在に死なせたり生き返らせたりできない』とわかると、来なくなってしまう。
そのくせそういう連中が『死霊術最高! 死霊術素晴らしい! 死霊術支持派の俺様は命を自在にできる!』などと狂乱していたりする。
するとリッチは『命を粗末にするな! ぶっ殺す!』と出て行かざるを得ず……
命を粗末にしないために、死んだ命は『黒いボール状の人体』に入れて保管することになるのだった。
この人体の利点は『管理がわずらわしくない』ことだ。小さいし、しゃべらないし、動かないので。
ちなみに肉体は別途保存してはいる。
そんなわけで。
レイラ軍はいつの間にか、大量の棺桶と黒い球体を従えた、たった二人の軍勢になっていた。
そんなものが王都東門前に布陣しているので、王都の人たちはたいそう恐れた。
◆
「女王ランツァ。王城に人々が連日詰め寄っていますが。東門外のレイラ軍があまりにも不気味すぎるからどうにかしてくれ、と」
謁見の間には金髪碧眼の美しい少女━━女王ランツァがいて、その横には細く鋭い黒い鎧をまとった『近衛兵』がいた。
この女性的な曲線を描く鎧をまとった『近衛兵』、エルフたちの長であり、中の人の顔は女王ランツァにそっくりなので、兜をかぶらされているのだった。
玉座の真横に立つエルフの主な任務は第二に女王ランツァの護衛であり、第一は伝令だった。
各所に放った密偵エルフの記憶はエルフ間で共有されている。
その共有された記憶をまとめて整理してランツァに報告するのが、最近のエルフの長の主な役目だ。
ランツァは玉座の肘掛けに頬杖をついてため息をつくと、玉座と謁見の間入り口をつなぐように敷かれた紫色の絨毯を踏みしめて立ち上がった。
「…………リッチの行動をある程度予測できると考えたのは、思慮不足だったわ」
「そうでしょう」
「なんでちょっとドヤッてるの」
「我らの神なので」
エルフたちは自分たちの創造主であるリッチのことを神と呼ぶ。
ロザリーなどの神にうるさい人の前で呼ぶことはなくなったが、神にうるさくない人の前だと相変わらず神扱いだ。
「あなたたちのリッチに対するスタンス、どういうところにあるのか、ちょっと理解が及んでないのだけれど……尊敬? 尊敬なの?」
「尊敬は人から人に、ようするに『同種』から『同種』に対する感情であると理解しています。よって我らが神に抱いているものは尊敬ではありえない」
「……そのまま『神』なのね。じゃあ、畏怖?」
「それが近いように思われます。ただし、我らが神は昼神教とかいうプロテインなやつらのパチモノと違い、地上におり、その力を奮われるのです。具体的には、逆らうと死にます」
「まあ、うーん、そうね……そうかも……」
ランツァは三年ほどリッチのもとで死霊術を学んでいたため、『後進に教育を施す、教師としてのリッチ』に馴染み深い。
教師としてのリッチは、たまに思考が暴走したり急に思い立って実験を始めたりという点はありつつも、わからないと生徒が述べれば丁寧に付き合い不器用ながら教え、多少生徒が生意気なことを言っても根気強く話し合うという、かなり高い評価をできる人物だ。
少なくとも『逆らったから』という理由で生徒たちが殺されたことはない(※他の理由では殺されたことがあります)。
ただ、まあ、東門のレイラ軍の様子を報告されてると、今のリッチは確かに、『逆らうと死ぬ』って感じだ。
「……現在のリッチは『エルフ』という名前の体を使ってるようなのだけれど、それと記憶の共有はできないのよね?」
「神が『エルフ』と呼称しているだけの、我らとは違う存在なので、できませんね。それに、神の記憶を共有されるなど……とんでもないことです。正気を保てなくなりそうで……」
「まあ……そうね……そうかも……」
「女王ランツァ。我らは神の命令があるのであなたの護衛をしたり、あなたのために諜報をしたりしておりますが、神がもしあなたの敵に回れば、我らも敵に回ることは、どうかご理解ください。あれに逆らうとかとんでもないので……」
「まあ……そうね……そうかも……」
「我らは、他の多くの生命がそうであるように、命が惜しいのです。そして、この地上でもっとも『命』を自在にできる存在がなにかをよく知っている、それだけなのです。だから我らが裏切っても恨まないでください」
「まあ……そうね……そうかも……」
「女王ランツァ、話は聞いていらっしゃいますか?」
「まあ……そうね……そうかも……」
「王位を私にゆずってくださいますか?」
「あなた、そんな野望があったの?」
「あっはっはっは」
エルフの笑い声は平坦であった。
ランツァは王杖をつきながら、謁見の間を玉座から入り口方向に向けて歩き始め、
「とにかく……とにかくよ。普段通りにやっていいとは言ったけれど、レイラの味方につけたリッチがレイラの味方を皆殺しにするのはさすがに想定外だわ……よほど腹にすえかねることがあったのかしら」
ランツァはリッチと付き合いがあるので、『死霊術を使うやつ』というイメージだけでリッチを語ることはなかった。
イメージだけで語る人はすぐに『命を好き放題にできるという能力に溺れ、暴走した死の軍勢だ!』などと見出しをつけたがるが……
ランツァはリッチがそういった表現からかけ離れた存在であることはよく知っている。暴走しているのは否定しない。
というか『死の軍勢だ!』というのは民衆が騒いでいる内容なのだが、どう見てもただの『死』であり、『軍勢』の体裁は成していない。みんな死んでるから。
「というかレイラ軍に潜入させたエルフ、いなかったかしら」
「一般兵と口論のすえに殺されて、そのままです。私以外は自我が薄いせいか、蘇生もできないので」
「死んだらおしまいだなんて……諜報員がそれでいいのかしら……」
「女王、通常の人類はたいてい死んだらおしまいです」
「……そうだったわね。まあ、とにかく……民衆を落ち着かせましょう。バルコニーに出ます。護衛をお願い」
「女王」
「なに」
「もう無理のようです」
「なにが」
「民衆を落ち着かせるのが」
「なんで」
そこで黒い鎧のエルフはいったん黙った。
それは状況をうまく言葉にするために必要な思考時間のようでもあり、現状を女王にどう報告すれば女王を刺激しないかを悩む逡巡の時間のようでもあった。
しばらく、とはいえ十秒はかからず、エルフは口を開く。
「ロザリーが、出ました」
「出て、どうしたの」
「民衆を先導して、東門への突撃を開始しました」
「つまり」
「今日、これから、ロザリーとレイラの戦いの決戦が始まります」
元気いいね。家業は蛮族?
死者蘇生推進派にはこういうところがあって、『一度死んで蘇生させられたら、二度と死者蘇生反対なんて言えないはずだ』と思っているふしがある。
今までは死者蘇生の是非や死霊術について声高に語っていても実際に死霊術を扱える者が皆無だったため大人しかった。
しかし実際に死霊術を扱えるエルフッチが仲間に加わったことで過激思想は加速し、今ではもう『逆らうやつは全員殺せ!』という思想にすっかり染まってしまっているので殺しました。
「レイラ〜。レイラ〜。なんとかしてほしいんだけど。君の子分たちが気に入らないやつぶっ殺しまくって、しかも蘇生を全部エルフに押し付けてくるんだよ〜」
「そういうやつはぶん殴っていうことを聞かせなさい」
「ぶん殴るの苦手だからぶっ殺しちゃったよ」
「逆らわなくなった?」
「今は(死んでるので)」
「じゃあそのままにしなさい」
そういうわけにもいかないので、エルフはちょっと時間をもらって、あるものを開発した。
それは『記憶』を素材にしたフレッシュゴーレム式の人体である。
ただし通常の人体と違うのは、それに手足と頭と内臓がないということだ。
サイズも手の平に乗る程度の、一見して黒いボールとしか見えないこれは、死霊術的には『人体』としての要素を備えている(※生物学上はアウト)。
リッチは命というリソースそのものの貴重さを理解しているが、死霊術を傘に着て暴れ回る蛮族は全員死ねばいいとも思っているので、こうして命だけ『動けない、しゃべれない』『人体』に保管しておく方法をとることにしたのだ。
これは長年リッチが苦心していた『生命の保管方法』の確立であり、はからずも死霊術推進派の無知な人たちがよく言う『はるか未来に、はるか過去の命を蘇らせる』ことを可能にするかもしれないものであった。
ただ、『記憶』を素材にした人体は、生物学的な人体に比べると少々寿命が短い。代謝もなく、自己修復能力もないためだ。
なので『記憶』を素材にした人体は、その耐用年数が相変わらず課題ではあった。
あと。
『記憶』というのは大気中に漂う記憶のことで……
この大気中に漂う記憶というのは、『やべぇ。なにかをしようとしてたのに、しようとしたことを思い出せない』とか『おかしい。十二人の妹たち、一人一人名前を挙げていくと必ず一人だけ名前が思い出せなくなる』とかの、『ど忘れ』と呼ばれる現象の原因だ。
人はちょいちょいこういう『記憶をこぼす』ということをやりがちで、この『こぼれた記憶』が大気中には大量に漂っている。
これを集積、濾過し、押し固めてできるものがエルフやフレッシュゴーレムなどを形作るパーツになる。
現在のところ未使用の『記憶』が大気中には大量に漂っているが、なにぶん有限ではあるので、使い過ぎれば枯渇する可能性が考えられた。
枯渇してなお使おうとすると、人々の頭から強制的に記憶を抜き取る羽目になり、大陸中が忘れっぽくなる可能性も考えられる。
ともあれ色々な可能性を秘めた真っ黒い手の平大のボールが、『死霊術あるから反対するやつ皆殺しだヒャッハー!』とかやってる連中の新しい人体になる。
この人体、日を追うごとに増えている。
━━人々は気付いてしまったのだ。
言葉を尽くして相手を説得し、妥協点を互いに探りながら自分の意見を開陳していくより……
逆らうやつは皆殺しにした方が、話が早いのだと━━
死者蘇生推進派は『蘇生するし』というのを言い訳に、『殺す』という選択が日常会話のかなり上位に来るようになってしまっているようだった。
まあ殺した相手を自分で蘇生してくれるならエルフッチもなにも言わないのだが、殺した相手の蘇生をさせられるのはエルフッチなのだ。
しかも死霊術を教えようとしても、一回二回話を聞きにくる者はあるのだが、『なかなか自由自在に死なせたり生き返らせたりできない』とわかると、来なくなってしまう。
そのくせそういう連中が『死霊術最高! 死霊術素晴らしい! 死霊術支持派の俺様は命を自在にできる!』などと狂乱していたりする。
するとリッチは『命を粗末にするな! ぶっ殺す!』と出て行かざるを得ず……
命を粗末にしないために、死んだ命は『黒いボール状の人体』に入れて保管することになるのだった。
この人体の利点は『管理がわずらわしくない』ことだ。小さいし、しゃべらないし、動かないので。
ちなみに肉体は別途保存してはいる。
そんなわけで。
レイラ軍はいつの間にか、大量の棺桶と黒い球体を従えた、たった二人の軍勢になっていた。
そんなものが王都東門前に布陣しているので、王都の人たちはたいそう恐れた。
◆
「女王ランツァ。王城に人々が連日詰め寄っていますが。東門外のレイラ軍があまりにも不気味すぎるからどうにかしてくれ、と」
謁見の間には金髪碧眼の美しい少女━━女王ランツァがいて、その横には細く鋭い黒い鎧をまとった『近衛兵』がいた。
この女性的な曲線を描く鎧をまとった『近衛兵』、エルフたちの長であり、中の人の顔は女王ランツァにそっくりなので、兜をかぶらされているのだった。
玉座の真横に立つエルフの主な任務は第二に女王ランツァの護衛であり、第一は伝令だった。
各所に放った密偵エルフの記憶はエルフ間で共有されている。
その共有された記憶をまとめて整理してランツァに報告するのが、最近のエルフの長の主な役目だ。
ランツァは玉座の肘掛けに頬杖をついてため息をつくと、玉座と謁見の間入り口をつなぐように敷かれた紫色の絨毯を踏みしめて立ち上がった。
「…………リッチの行動をある程度予測できると考えたのは、思慮不足だったわ」
「そうでしょう」
「なんでちょっとドヤッてるの」
「我らの神なので」
エルフたちは自分たちの創造主であるリッチのことを神と呼ぶ。
ロザリーなどの神にうるさい人の前で呼ぶことはなくなったが、神にうるさくない人の前だと相変わらず神扱いだ。
「あなたたちのリッチに対するスタンス、どういうところにあるのか、ちょっと理解が及んでないのだけれど……尊敬? 尊敬なの?」
「尊敬は人から人に、ようするに『同種』から『同種』に対する感情であると理解しています。よって我らが神に抱いているものは尊敬ではありえない」
「……そのまま『神』なのね。じゃあ、畏怖?」
「それが近いように思われます。ただし、我らが神は昼神教とかいうプロテインなやつらのパチモノと違い、地上におり、その力を奮われるのです。具体的には、逆らうと死にます」
「まあ、うーん、そうね……そうかも……」
ランツァは三年ほどリッチのもとで死霊術を学んでいたため、『後進に教育を施す、教師としてのリッチ』に馴染み深い。
教師としてのリッチは、たまに思考が暴走したり急に思い立って実験を始めたりという点はありつつも、わからないと生徒が述べれば丁寧に付き合い不器用ながら教え、多少生徒が生意気なことを言っても根気強く話し合うという、かなり高い評価をできる人物だ。
少なくとも『逆らったから』という理由で生徒たちが殺されたことはない(※他の理由では殺されたことがあります)。
ただ、まあ、東門のレイラ軍の様子を報告されてると、今のリッチは確かに、『逆らうと死ぬ』って感じだ。
「……現在のリッチは『エルフ』という名前の体を使ってるようなのだけれど、それと記憶の共有はできないのよね?」
「神が『エルフ』と呼称しているだけの、我らとは違う存在なので、できませんね。それに、神の記憶を共有されるなど……とんでもないことです。正気を保てなくなりそうで……」
「まあ……そうね……そうかも……」
「女王ランツァ。我らは神の命令があるのであなたの護衛をしたり、あなたのために諜報をしたりしておりますが、神がもしあなたの敵に回れば、我らも敵に回ることは、どうかご理解ください。あれに逆らうとかとんでもないので……」
「まあ……そうね……そうかも……」
「我らは、他の多くの生命がそうであるように、命が惜しいのです。そして、この地上でもっとも『命』を自在にできる存在がなにかをよく知っている、それだけなのです。だから我らが裏切っても恨まないでください」
「まあ……そうね……そうかも……」
「女王ランツァ、話は聞いていらっしゃいますか?」
「まあ……そうね……そうかも……」
「王位を私にゆずってくださいますか?」
「あなた、そんな野望があったの?」
「あっはっはっは」
エルフの笑い声は平坦であった。
ランツァは王杖をつきながら、謁見の間を玉座から入り口方向に向けて歩き始め、
「とにかく……とにかくよ。普段通りにやっていいとは言ったけれど、レイラの味方につけたリッチがレイラの味方を皆殺しにするのはさすがに想定外だわ……よほど腹にすえかねることがあったのかしら」
ランツァはリッチと付き合いがあるので、『死霊術を使うやつ』というイメージだけでリッチを語ることはなかった。
イメージだけで語る人はすぐに『命を好き放題にできるという能力に溺れ、暴走した死の軍勢だ!』などと見出しをつけたがるが……
ランツァはリッチがそういった表現からかけ離れた存在であることはよく知っている。暴走しているのは否定しない。
というか『死の軍勢だ!』というのは民衆が騒いでいる内容なのだが、どう見てもただの『死』であり、『軍勢』の体裁は成していない。みんな死んでるから。
「というかレイラ軍に潜入させたエルフ、いなかったかしら」
「一般兵と口論のすえに殺されて、そのままです。私以外は自我が薄いせいか、蘇生もできないので」
「死んだらおしまいだなんて……諜報員がそれでいいのかしら……」
「女王、通常の人類はたいてい死んだらおしまいです」
「……そうだったわね。まあ、とにかく……民衆を落ち着かせましょう。バルコニーに出ます。護衛をお願い」
「女王」
「なに」
「もう無理のようです」
「なにが」
「民衆を落ち着かせるのが」
「なんで」
そこで黒い鎧のエルフはいったん黙った。
それは状況をうまく言葉にするために必要な思考時間のようでもあり、現状を女王にどう報告すれば女王を刺激しないかを悩む逡巡の時間のようでもあった。
しばらく、とはいえ十秒はかからず、エルフは口を開く。
「ロザリーが、出ました」
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