勇者パーティーを追い出された死霊魔術師はリッチになって魔王軍で大好きな研究ライフを送る

稲荷竜

1話 魔力最強が肉体も最強になって復活する回

「たくさん人が死にましたね」
「でも魔族も大勢殺せた」
「仲間は死んだけど、私たちが無事でよかったね!」


 勇者パーティーの会話を聞いている死体があった。

 大陸最強の死霊術士ネクロマンサーと呼ばれた男だ。

 さっきまで戦場だった荒野にはネクロマンサー以外にも死体がいっぱいで、ハゲタカとかウジムシとかが元気いっぱいだ。


「……あ、死霊術士が死んでますね」
「えー、いつ死んだんだ……?」
「後衛なのに前に出るから……」


 死体が反論できたらこう言ったかもしれない。


『ネクロマンサーは死んでからが本番だ!』
『あらかじめかけておいた蘇生魔術によって、肉体的にも最強の死霊術士、リッチとして蘇るのだ!』
『禁呪なので今まで秘密にしてたけど、復活しちゃったら「禁呪だから死に直して」とか言わないよね!』


 死体は横たわったまま動かない。
 蘇生の呪文が発動するまで、ちょっとかかる。

 でも、五感はすでに戻りつつあったし、勇者パーティーのみんなの会話も聞こえる。
 このまま連れ帰ってもらえれば、王都に着くころには蘇生が完了している計画だ。


死霊術士そいつ、どうします?」
「今まで一緒に戦ってきた仲間だ。王都に連れ帰るべきなんだろう」
「でも、そいつ、なんかキモいよね」


 えっ。


「ああ、わかりますよ。視線? 雰囲気? なにかこう、ネットリしてますよね」
「こんなんでも連れ帰ったら国葬か」
「……どうしよ、国葬で言うべきコメントとか、特にないんだけど。褒めるところないっていうか」


 ……。


「……気付かなかったことにして、捨てて行きます?」
「気付かなかったことにするのはひどい。――俺たちは、戦いの中で死霊術士を見失ったんだ。今も行方がわからない」
「ああ、本当、どこに行ったのかしら……でも、この激しい戦いだものね。きっと死んでいるわ!」
「だいたい、特技が闇魔法とか、どちらかと言えば魔族側ですよね。あと、回復術得意なのは、わたくしとキャラがかぶりますし」
「死霊を操る攻撃もなあ。敵アンデッド部隊とまじるとどっちが味方かわからないし」
「あと臭いわよね」


 勇者パーティーは去って行く。
 男一人、女二人になった彼らは、信じられないぐらいイチャイチャしながら、敵味方の死体を踏みつけつつ消えた。


 カァカァ。
 ぴゅーひょろろろろろろ……

 ワンワン。
 チューチュ。チュッ!


「……置いて、帰るなよ」


 ネズミのキスで目覚めた死霊術士は、怨念のこもった声でつぶやく。
 実はただの地声だ。滑舌が悪くて妙にこもった声なので、いつでも怨念が付与されているように聞こえるだけ。

 彼の肉体からは次第に皮が剥がれ、肉がそげ落ちていく。

 強化蘇生術式リィンカーネーション

 死霊術と治癒術を極めたのちにのみ習得できる禁呪きんじゅ中の禁呪。

 死者の復活だけでも神に対する冒涜だというのに、復活後、その身を『リッチ』と呼ばれる伝説上の死霊魔術の始祖へと変貌させる。
 その肉も皮もないおぞましき肉体は、見た者の正気を喪わせ、狂乱させるであろう。

 今風に言うなら『死ぬだけで激ヤセ!? 死霊術士の教える簡単で禁忌なダイエット!』というところか。


「――ああ、空が高い」


 すっかり骨だけになったネクロマンサーは、高い高い青空を見上げた。
 ハゲタカが舞い、カラスがそれに道をゆずっている。
 陽光は薄雲で陰っていて、地上はどことなく薄暗い。

 ボロボロのマントの前を合わせる。
 もう冷たささえ感じない体のはずだけれど、吹き抜ける風がなぜか寒々しく感じられた。

 ちなみにマントがボロボロなのは激しい戦いをくぐり抜けたからではない。
 服装に頓着しないので、まとっていた彼の服はすべてボロボロだ。
 見た目がガイコツになった今は非常によく似合うものの、人間状態だった時はただの太った浮浪者にしか見えなかった。


「はああああ!? り、リッチ様!?」


 突然背後から声がかかって、彼は振り返った。
 そこにいたのは、青白い肌をした、少し透けた女性だ。

 たぶんゴースト系の魔物だろう。
 美しく、豊満で、そして透けている。


「リッチ様! 復活なさったのですか!?」
「?」
「覚えておられませんか……無理も、ないかもしれません。今でこそ私はゴースト部隊を率いる六魔将軍の一人ですが、あなたにお世話になっていた当時、私はただのヒラゴースト……すなわちヒラゴー。見た目にも個性はなく、存在も今より透けておりました」
「……」
「まだ復活からまもなく、意識が混濁していらっしゃるのですか? ……とにかく、おいでください。魔王様に、あなた様の復活をご報告申し上げなければ」


 魔王、と聞いて彼は体をこわばらせる。

 人と魔族は戦争をしている。
 そして彼は人側の英雄、勇者パーティーだ。

 どうにも魔物側と勘違いされているようだが……
 姿は魔物側になろうと、心は人のままだった。


「違う、俺は――」
「あなた様が復活されたとなれば、これから忙しくなりますな。数々の研究資料も、あなた様の利用されていた設備も、言いつけを守ってそのまま保存してあります」
「……研究資料?」
「はい」
「設備?」
「はい」
「死霊術士の始祖たる、リッチの研究資料と設備?」
「はい……そうですが……?」
「……行くか!」
「ええ!」


 心は人のままだった。
 でも、彼は考える。

 人って、そんなに素敵か?
 人類の命運は、自分が命を懸けて守らなければならないものか?
 研究より大事か?

 否。
 断じて、否!

 研究より大事なことなど、この世に存在しないのだ!


「だいたいさー、勇者ってムカつくよなー。人類も死霊魔術を馬鹿にしすぎで話合わないと思ってたところなんだよね」
「ええ、人類は死霊魔術を軽視しすぎですね! ……ところで復活されたばかりにしては、世情にお詳しいようですが」
「死ぬ前にはすべて見通していた」
「なんと! さすがリッチ様です!」


 彼はゴースト系の女性と信じられないぐらいイチャイチャしながら去って行く。

 こうして人類は最強の死霊魔術師を喪った。
 その事実が、人対魔の戦争にどのような影響を及ぼすかは、遠からず、わかることになるであろう。

コメント

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  • ブラックファントム

    魔族側に寝返るというのは斬新で面白いです!
    勇者も手強そうですが、どうなるのかな?

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