オフィスの書類庫で書類整理をしていたら突然暗闇になり非日常が始まった

ghame

5/月】37.エピローグ.書斎

 
 翌朝月曜日

 「おはよう」

 目を覚ますと、アップのチロの顔があった

 肘枕ひじまくらで横向きに寝そべっている。高い位置から見下ろした顔が更に近づき、シャワーを浴びたのか素直な髪がサラッと落ちた。素肌を包むシーツは心地が良い

 布団の中から私の左手を引き出し、じぶんの唇の上でその指を弄び始めた

ーーくぅぅぅ〜っ。
 昨夜のチロは、もう、、

 思い出してしまって、恥ずかしさから顔から始まって全身が赤面してしまった

「ネコ?もうしんじゃった?」

ーー昨夜、私が連呼した言葉の事だ

「うっっ。その件は忘れて」

「オレも、もうしんだ」

 チロはクスッとして、瞳の色を濃くすると言葉を続ける

「今も、ネコの肌触りに心臓を握りつぶされそうだ」

「プッ。チロは、いつも大袈裟なんだから」

「部屋から出たく無いな、ネコも出したくない」

 私の手の甲や、掌がチロのほっぺに頬擦りされていて、彼が美肌である事も知る

「私も。クスッ」

「ネコ、私もって言ったよな?!これ以上オレの事をどうする気だ?誘惑すんな?」

「どうなんの?」

「おいで〜」

 チロが布団を広げると胸元に絆創膏ばんそうこが貼ってあるのが見えた

ーーまさか、こんな所に印を隠してるなんて……
またしてもチロにやられた……

「そうだ!胸元、怪我?昨夜気になってたの」

  昨夜はっきりとわかった
チロが闇男だと言う事を

「剥がして見る?」

「ネコもいっぱい怪我してるよ?数えても良い?」

ーーそうだった、、私も身体中に付けられてたんだった……
   全くもう


「ところで……」

「ん?」

「なんで、あの時。僕に誓いを立ててくれたんだ?」

「ちょっ……」

「やっぱり、僕じゃなきゃダメだったんだ?」

「…………」

「で?オレに満足出来た?」

「それが…昨夜の事は。……あまり、よく覚えてないの」

「んー。日本語喋れてなかったもんな?」

ーーまた、からかうんだから、、

「で?チロは?」

「ん?」

「何で?倉庫に忍び込んだの?」

「……特殊任務」

「えっ?川内会長との話は、それだったんでしょ?」

「違うよ、会長はお爺ちゃんの友達だからプレイデート」

ーーしらばっくれる気だな?

「ムムムっ」

「ムムムっ。今日は会社を休め!」

「ムムムっ。ヤスムっ。歩けない」

「悪いな!こんな身体にしっちゃって」

「うん。痛い」

「昨夜、痛いって連呼してたなぁ〜。ああっ。ぶるっ」

「…………」

「ごめんなぁ〜。助けてやれなくて……」

ーー変態!

「チロって多重人格者?」

「そう見える?」

「だって、オレって言う時と僕って言う時があるよ?」

「そうかもな?それは自然と、癖かな?、、わたしって言う時もあるゾ?」

「それは会社用でしょ」

「当たり!」

「後でまた来るから、まだ寝てな?」

「仕事中に抜けるの?」

「オレの書斎は、お爺ちゃんトコにあるんだ。抜けんじゃ無いよ仕事だよ」

「ふぅーん」

「疑ってるな?」

「疑ってるよ」

「後で見せてやるよ。でも、書斎の事は誰にも言うなよ?約束出来るか?」

「出来る」

素直にコクリと頷いた

「クスッ。誘惑すんな!」

「して無いわよ!」

「じゃあ、誘惑されんなオレ!」

「会社に行きなさい、オレ!」

「離れたく無い」

「私も」

「誘惑したな?」

「したよ?」

「ムムムっ」

「早く行け!」

「続きは今夜」

「いってらっしゃい」

「体力回復させといてくれ?」


ーーまた、酷い目に遭いそう、、

 ーー ーー ーー ーー

 次に目を覚ますとスーツを着たチロがベッドの脇に腰掛けて寝顔を覗き込んでいた

「お帰りなさい」

「ネコのお帰りなさいと、ネコが寝てるオレのベッドって良いなぁ」

 覗き込むトロけた表情のチロに負けないくらいトロけた表情を返す

「チロのスーツ姿も、良いなぁ」

クスッ
「舐めまわしたいけと、行くか?」

 立ち上がったスーツから清潔なクリーニングの香りがした

ーーぞくっ
 気持ちと肉体が一体となった今、トキメキ過ぎで心臓が痛い

「書斎ね?」

   服を着るとチロの後に続き屋敷へ向かう
到着したのは昨夜4人でお茶を飲んだ昭和の香りがするダイニング。テーブルの上には茹で卵の山が乗っている

「お腹すいてない?」

「空いたかも」

 ダイニングテーブルには2人分の茶碗が用意されていた

「富一郎さま、お吸い物を温めて来ます」

「どうもありがとう」

「お嬢様も、お吸い物でよろしいですか?」

  おかってから出て来たお手伝いさんらしき女性がニッコリと尋ねて来る

「はい。いただきます」

女性はおかってへ入って行った

「お婆ちゃんがお昼ご飯を用意してくれたんだ」

ーー私が泊まった事、バレてる?

「チロ、話したの?」

「昼に戻るから、昼食を2人分用意しといて?って言ったよ?」

ーーん〜。
アウトなのか、セーフなのか微妙だな?

 運ばれて来たのは、お櫃に入ったチラシ寿司だった

「おっ!お婆ちゃんのチラシ寿司!ネコ、コレは旨いよ?」

 4人前はありそうな彩も鮮やかなチラシ寿司がテーブルに並べられた

ーーチラシ寿司は祝いの席の食べ物……
 さすがは鯛子さん。女の感だな……

「いくらと卵は、昨日の大将から仕入れたんだな」

「蓮根がお花みたいで可愛い」

女性が取り分けてくれて、それをいただいた

 昆布出汁の旨味が効いて、干し椎茸の香り豊かな優しい味がした

「鯛子さんの人柄が出た優しい味ね。すごく美味しい」

「だろ?オレの好物なんだよ。ネコも気に入ってくれて嬉しいよ」

「うん。私も、こんな美味しいものが食べれて嬉しい」

 食後に美味しいお茶を飲むと、いよいよ書斎へ向かう事になった

  その書斎はダイニングから出た直ぐのドアで、扉が洋式になっている

 トン トンッ

 返事は無い

  チロがポケットからキーケースを出して、中から銅色のレトロな鍵を選ぶと鍵穴へ差し込んだ

「事務所?」

 中は昭和の事務所のように見えた

 20畳くらいの板間は、壁が造り付けの書類棚で囲まれていている。その部屋の4つの角にそれぞれ大きな机が置かれていて、それは壁側でなく向かい合って配置されている。
 どの机の上にも何も置かれてない

「お爺さまと、お父様と、チロともう一つの机は誰のもの?」

「あれは、弟の」

「弟が居たんだ」

「話してかなったかな?まだ高校生なんだ」

「聞いたかな?忘れちゃっただけかも」

「オレの机はお爺ちゃんの父親が使っていたものなんだ。ココだよ」

「皆んな綺麗に整理してるね」

「ここにある物は全部、この先も受け継いで行くからね。部屋自体が会社の財産で、それをオレ達家族は管理する役目があるから丁寧に扱ってるよ」

「経営者ってより、会社を存続させる為の一部の駒だって思ってるの?」

「そんな感じかな?会社は誰の物って言われたら創業から関わった皆んなの物なんじゃないか?1人のものでは無いよな?あと、必要としてくれるお客様の物でもあるね」
   
ーー驚いた!
確かに、そんな考え方もあるよね

「それでさっ、お爺ちゃんの机は、オレの子供が座るんだよ」

  チロに机と挟まれて、顔が近づいて来る

ーーそんな会社の神聖な場所で何始めんのかな?

「チロ?部屋が汚れるから我慢して?」

「机が4つしか無いから足りなくなったらどおするの?」

「机なら倉庫にまだまだあるよ?ネコ、何人産む気だ?」

ーーこれって、そう言う意味に聞こえるんだけど。

「誘惑して来んなよ、ここで欲しいのか?」

「冗談は辞めなさい!それより」

「何?」

「いやっ。何でもない」

「ネコ?」

「何よ?」

「オレの子を産んでくれないか?」

ドゥキューん

ーーやっぱりさっきのはそう言う意味?!

「オレは、勘吉さんを超える事が出来たかな?」

ーークスッ

「あれは夢だった。って、もうちゃんと理解出来てる。夢と現実は、まるで違う」

「じゃあ、良い返事をください」

「今?今すぐ決めるの?」

「共に、この部屋と茹で卵を未来に繋いで欲しい。オレ1人では無理だから支えて欲しい」

ーー茹で卵ね。笑
こんなプロポーズ、断れる訳無いじゃない?

「私でお役に立てるなら、、、」

  その瞬間には、チロの唇は私と重なっていた

「ネコ以外に心動かされる人は居ない。ネコだけが欲しい、ネコが隣に居てくれたらそれでいい」

 チロの両手は私の身体の上を滑っている

「私も。私の頭の中もチロで手一杯」

ーーこんな、誘惑されながら会話になんてならない

「ベッド行こうか?」

「そうね……この神聖な部屋をチロから守らなきゃ」

「やっとネコを手に入れた」

「えっ?やっと?」

「そうだよ?初めて会った日から」

「やっぱりチロは変な人!」

「ベッドで、本領発揮してやるよ」

ーー褒めてないから

「今夜、2人の事は皆んなに話そうか?」

「早すぎない?」

「もう、8年も待った。遅すぎる」

「チロ?」

「ん?」

「私、しあわせ」

「たぶん、ネコよりオレの方がしあわせだよ」

 仕事をする為に戻ったはずのチロと一緒に寝室へと向かった

 どうやら、私は暗闇や髪がハザードゾーンだった訳では無くて、心も身体もチロに痺れて反応していたようだ。


ーーチロ……
  甘い罠で私の目を覚ましてくれてありがとう


 この世界は、たった3週間と4日あれば変わる場所だったんだ


ーーそうだ!両親とお友達にも連絡しなきゃ




 


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