オフィスの書類庫で書類整理をしていたら突然暗闇になり非日常が始まった

ghame

4/日】32.本当に欲しい物は、金では買えません

ーー川内会長?!!

 座っていたのは、私の良く知る顔。
株)榮の会長、その人だった

ーーよく知ってる人って川内会長の事だったんだ

「本日はお招きいただき、ありがとうございます。川内会長もおいででらしたんですね?」

「峰さん、また今日は艶やかな和服姿で、待っていた甲斐がありましたよ。実にお綺麗だ」

「本当だね、ネコさん和服姿もお美しいですね」

「恐れいります」

「ネコさん、先程は野暮用なんて誤魔化してしまってごめんなさいね。3人の密会を私が話して良いのかわらなくてね」

「奥様、密会なんてしておりませんよ。峰さん実はね」

ーー何だろう?

「蒲田くんは、蒲田会長から我が社に預かってるんですよ。まあ、これはココだけの話なんですけどね」

「?」

「わたしは大学を卒業して、蒲田課長と同じ様に蒲田会長の元で修行をしていてね。長くお付き合いをさせて頂いてるんですよ。今回蒲田課長が東京勤務になって、久々に懐かしい話をさせてもらっていた所だったのです」

「あの頃は我々も40代と20代、50年も前の話とは驚かされるね。はははは。色々あったな」

「そうですね、色々難義が終わりませんね」

「まあ、綺麗なネコさんが居る席では会社の話は終わらせて、未来の話でもしましょうか」

「それがよろしいですね。わたしはこれから難義に一つ立ち向かわねばなりません。おいとましまいたします」

ーー何の話だろう?

「蒲田くんありがとう」

「いえ、どうぞ穏便な解決を」

「そうだ、蒲田くんと峰さんは同期でしたね?」

「はい」

「わたしも良く覚えている。奥様が茹で卵を社員に茹でて持って来ていた事を。峰さんは、その面影がありますよ?」

「私がですか?」

「そうなんですよ、ネコさんを見ていると私も若い自分が蘇るんですよ」

「ネコさん、後でお写真を見せてさしあげますよ」

  川内会長がお帰りになると、そこに2人前の握られた寿司が大将によって運ばれて来た

「私達はまだだから、ネコさんいただきましょう?」

ーー ーー ーー ーー

 食事が済むと、部屋を移動して前回食事をした庶民的な部屋へ来ている

 鯛子さんはお茶を出してくれて、私の手土産の苺大福を並べてくれ、それを皆んなでいただいた

 苺大福は、4人共好きだった様で、昔はあんこが貴重だった事、初めて苺大福を食べた時の感動などを話してくれて、場は和やかな空気に包まれていた

「勘吉さんの話を聞きたいですよね?」

 話が一段落して、次の話題に選ばれたのは、私が1番聞きたい事だった

「はい」

ーー私の夢に出てきた勘吉さんとな類似点が多すぎて聞かずにはいられなかった

 鯛子さんは床の間に入るとB4サイズのフレームに入った古い写真を持って戻って来た

「写真はね、これなんだけど。この写真の頃はまだ私も彼も10代で、学生だったんですよ」

  「懐かしいな。その写真は飾ってあるのに久しく見てなかったな」

 声のする方に目を移すと、勘吉さんは眩しい目をしてフレームを手に戻る鯛子さんを目で追っている。
 そのままダイニングテーブルに戻り腰掛ける鯛子さんの手元のフレームから目を離せずに居る

「勘吉さん、私達はいつでも見れますよ?ネコさんに見せてあげてくれませんか?」

ーーこうやっていると大企業の会長夫婦になど見えない優しい一般の老夫婦だな。和む、、

「どうぞ?ネコさん、我々の若い自分を見てやって下さい」

 その時、横見に見えたチロは私達のやり取りをお爺さまの勘吉さんと同じ目をして見守っていた

「おそれいります」

   軽く会釈してフレームを両手で受け取り、テーブルの上にチロにも見える様に置くと、覗き込んで来た

 写真に映る2人は緊張気味ではあったが、まず目に飛び込んで来たのは、黒目がちな目がクリクリとした可愛らしい少女だ。少し釣り目なかんじは、私と似ている気もする。綺麗に空かれた髪を背後に垂らして、柔らかいほっぺとプックリした唇が瑞々しくて、本当に可愛らしいティーンエイジャーの女の子といった感じだ
 一方隣に映る青年は、70年以上経っても一目で勘吉さんだとわかる。すっと通った鼻筋と、くっきりした二重の目元が洋風な顔立ちに見せている。チロとも似ていて、唇が薄く弓を引くラインが顔の印象を優しくしている。かなりの男前だ

「お2人とも、面影がおありですね?鯛子さんは瞳が大きくて可愛らしい。勘吉さんは歌舞伎の女方の様にお綺麗な顔立ちですね」

  2人揃って嬉しそうに照れ笑いをしている

「お若い娘さんにそんな事を言っていただくとは、参りました。90越しても褒められると嬉しいですよ」

「私も嬉しいわ、もうあれから何十年経ったかしらね?」

  眩しい目をして宙をさまよう鯛子さんの目は、何かを見ている

「私はね、代々この蒲田家に使えていました。
 このお屋敷は先祖を辿ると地主様でね、勘吉さんのお爺様に当たる元一さまは、この蒲田の駅前の開発に力を入れた一人で、後に初のタイプライターが産まれたり、流行の最先端だと言われた頃もあるんですよ」

「あははっ。そうなんだよ、今じゃ考えられないね。垢抜けた街だぢたんだよ?」

「一つね、誤解のない様にネコさんにお話ししておきたい事があるのですよ」

「はい」

「勘吉さんからのプロポーズの言葉なんです」

「おいおい、そんな昔の話を」

「ほほほほ。勘吉さんはね『この屋敷はわたしひとりで維持して行く事はできません。生涯共に屋敷を維持して行くお手伝いをしてくれませんか?』と、こうですよ?私は『はい』とお返事するしかありませんでした」

「まあ、鯛子に『はい』と言わせる為に知恵を絞ったのは確かだ」

「ほほほほ」

「イヤね、代々我が家の家系は社内恋愛なんだよ」

「そうなんですか?良い話ですね、政略結婚でなく恋愛結婚なんですね」

「何故かわかるかな?」

「なぜでしょう?」

「それはね?良き理解者が支えてくれると、仕事へのエネルギーが増して男はへこたれる事がないからだよ」

「職場で頑張る様子が思い浮かぶと、応援したくなる奥様の気持ちがわかる気がします」

「金があったって、わたしの人生で欲しいものは何一つ買えなかったんだよ。命も時間も戦争も金では変えられない」

「『私は、形がありいずれ壊れて無くなるものより、目に見えないけど無くならないものが好みなんだよ』これは勘吉さんのお言葉ですか?」

チロが後に続く

「『コレが金を積んでも手に入らないものばかりで』オレも一番好きなフレーズなんだ。ネコは覚えてたんだ」

「2人共ありがとう。そんな古い話を覚えていてくれたのか」

「富一郎。わたしの想いは伝わっている筈だから託すよ?未来へ引き継いで行ってくれ」

「お爺ちゃん、わかってるよ。茹で卵だろ?」

「はははっ。そうだな、茹で卵を剥くと手先が器用になる。日本人の手先は武器だと思ってるんだよ。この武器で新しい物を生み出し、我々は昭和の時代を戦って来た」

「はい。日本人は、お金より大事なものがある事を魂が知っているんだよね?」

「富一郎さん、そうですよ?それを忘れないで、子供や孫に話して聞かせるのですよ?社会のお役に立って下さい」

「人に必要とされ、社会のお役に立つ時に魂が一番喜ぶんだよ」

「オレも、その感覚がわかるまでになって見せるよ」

「目に見える物は、価値観を狂わす為のマヤカシの道具だ。真実は見えない所にある」

ーー目に見える物はマヤカシ?
 そうかも知れない……
 私は何も見えない暗闇で本当の自分の欲望を知った。
 そして目に見えるチロの外見に惑わされている。ずっと本当の自分を偽って来ていた。

「オレは、お爺ちゃんとお婆ちゃんから大切な事を学んだよ」

「私もです。お二人のお話は心に染みます」


 一通り話が済むと、私と鯛子さんは着物を着替える為に部屋を移した


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