オフィスの書類庫で書類整理をしていたら突然暗闇になり非日常が始まった

ghame

4/日】34.チロ視点▶︎オレは決めた

 ◁     ◁      ◁


 今夜またネコが家に来てくれる、食事の後にオレは思いを打ち明ける事を決意した

 先ずはネコが口に出した勘吉さんの話だ。
それは入社式の日に車の中でオレが話して聞かせた祖父母の恋物語だと言う事を

 その時のネコはトロンとした目で興味深く聴き入ってくれた。
 オレも何度祖父から聞かされても好きな話だ。
この話をする時の祖父の切ない眼差しが印象的だったという事もある。皮肉な事に祖父にとっては唯一の兄を失った事で得た幸せ。そんな辛さも滲ませる語り口調が子供心にも深く刻まれた理由だ。
「もし、祖父のお兄さんが生きていたら今のオレは産まれて来る事も無かった。」そう思うと胸が詰まる。

【生と死は背中合わせ、金は本当の幸せにほんの少し近ずく道具でしか無い】

 祖父に刻まれた人生観は、金では手に入らない己の真実の欲求を追求する事が出来た
 
 こんな事まで話たのに、いつから眠りに入ったのか、ネコは寝ていた
「勘吉さん」
寝言で祖父の名を読んだので、ちゃんと聴いてはいた様だ クスッ

 それを裏付けるのは、倉庫で僕を「勘吉さん」と呼んだ事だ。正直驚いた。8年も経ってネコがこの話を覚えていてくれた事は衝撃的だった。
 また、やられた

「やっぱ君を手に入れたい」

 倉庫で乱れたネコを「女として更に開花した肉体を持つ者」そんな風にその時は思った
 そして「明るいところでネコを見たい。顔を見たい。全身を見たい。黒く大きな瞳を見たい、、」そう思ったが、あの状況では無理で、また自分の気持ちには蓋をして諦める事にした

 諦めたはずなのに、3日後の土曜日。運命の悪戯か、彼女を目にした

 そして初めてネコの家に泊まった日。
様子が変だった、オレが背後に立つと逃げる。
髪に鼻を入れると固まって動けなくなる。明らかに身体が反応しているくせに、でもそれを認めたくない様子だ。
 直ぐに身体を許すと思っていた。そんな女だと、ずっと思っていた。

ーーでも、違った。
 まるでウブな子供じゃないか?

 オレは戸惑った。
 思っていた姿とはかけ離れている。倉庫でオレを求めた淫らな一面などまるで見せない

 1番の衝撃は、暗闇の倉庫で2度目を迎えた時だ。
性を解放された様に振る舞い、乱れに乱れた熟れた女の身体にオレは2人が絶頂に達する瞬間を想像しながら爆発寸前まで欲望を溜めた。
 だがどうだ?熟したネコの甘やかな肉体は、いざとなるとオレの指さえ痛がった。彼女は今まで経験が無かったのか?「信じられない!」この乱れ方は、オレの指にだけのものだったのか?
   オレの胸は押しつぶされ、狂おしく。それからはネコの全てを自分のものとしたくなる気持ちを膨らませて行った。
 そしてネコの性癖を知る事となる
ネコは暗い場所では身体が疼いて来るようだ。これは、たぶん僕のせいだ。
 暗い場所であれだけ責め立てられたら、成熟した女の身体は無責任な欲望を解放してしまう事は理解出来る。 
 きっと僕の事はその場限りで終わらせる快楽だと割り切っていたのだろう
 部屋を暗くすると身体が反応してしまうから真面目なネコはオレを避け続けた。
 理由はきっと無責任な欲望でオレと関係を持ちたく無かったんだと思う

 だからネコが欲しくなった時は倉庫へ行くしか無い。
 僕の印が消えない様に、他の男の前では肌を見せられない身体にする為に週一で倉庫へ通った。
 オレではダメだからだ、ネコはスリルから欲望を産んだ、オレにはネコの身体を開く事は出来なかったはずだ。

 ネコは僕に約束してくれた。
僕以外にはその身体に触れさせないと、、
 その呪縛のせいで、オレはネコに触れる事を許されずにいる。真面目なところはあの時と変わっていない。
 その僕はオレだ、ネコの初めてをいただくのはオレじゃなくちゃダメだ。チロとして受け入れてもらう

 今夜は必ずオレがネコに新しい世界を見せる
ベッドルームへ誘い込み、書類倉庫でよりももっと乱してやる、、彼女の身体は僕の指でもう充分に開発されて快楽を求めるようになった

「あっ、やべっ。もう考えるのは止めよう」

 一緒に見る映画でも決めておこう


▷ ▷ ▷  ︎


 祖父母の恋愛ストーリーは祖母の口から夕食の席でネコに伝わった

 オレの部屋へ向かう廊下で歩きながらネコに話の続きをしてやる

「ネコ?その話はいつオレから聞いたか覚えてる?」

「えっ?覚えて無いって言ったら怒る?」

「怒るって言っても覚えてないんだろ?」

「入社当時である事は確かなのよ。それだけわかればセーフ?」

「1日目?2日目?3日目?」

「3択?なら、1番の1日目。入社式の後、飲んで酔った私と話した」

「正解です。ご褒美いる?」

「間に合ってます」

ーーネコはどこまでもオレを拒み、じれったくさせる

  部屋へ入るとネコはソファーへ腰掛けた。

「チロは絨毯ね?電気も消さないで?!」

ーー随分信用されて無いんだな。
それでも今夜は頂くけどね?

「オレ、映画はいつも絨毯に転がって見るの」

「えっ?絨毯に転がるの楽ちんそうで良いわね」

  ネコは少し悩むが、ソファーからは降りて来なかった

「勘吉さんがチロのお爺様だったなんて、知った時は胸が詰まってしまったな」

ーーオレも。
 ネコがこの物語を大切にしてくれていた事を知って胸が詰まった

「お婆ちゃんの写真、ネコに似てんだろ?」

「うん。似てた」

「オレも最初にネコを見た時驚いたよ!」

「鯛子ばあちゃん?って思ったんだ?あははっ」

「ネコさ、あの頃いろんな男とデートしたり合コンしてなかった?」

「してた。私とあかりちゃんしか女の子居なかったじゃない?だから、合コンの幹事を頼まれまくって、大学の友達とセッティングするのが大変だったのよ。無給でやるには働き過ぎた」

「合コンのセッティング?」

「チロだけじゃない?合コンを頼まなかったのは、、後の人は、頼んで来たのよ?」

「マジか?お疲れ様」

ーー合コンの幹事?デートじゃ無かったんだ

「チロはその合コンに誘われなかったでしょ?」

「そーだな。今知った」

ーー誘われても行かねーけど

「理由を知りたい?」

「イヤ、別に興味ねー」

「そっ?」

「じゃあ、あのデートみたいなのは?」

「合コンのセッティングのお礼なんだって。美味しいもの食べれて得しちゃった」

「それ、たぶんデートって呼べないやつだぞ?」

「まあね、そうかもね。キョーミねー」

「真似すんな」

「実はね、言いにくいんだけど」

「何だ?」

「笑わないでよ?」

「笑わない」

「実はね、勘吉さんの物語が印象的過ぎて」

「…………」

「その、勘吉さんが……イヤ。やっぱバカみたいな話だから言えない」

ーー気になる

 絨毯から起き上がりソファーで寛ぐネコの横に腰掛け顔を近づけ威圧する

「吐けっ」

  見る見るネコの顔が赤くなる

「待って、私としてはかなり恥ずかしい話だから、何故ポロッと口から出かけたのか後悔している。途中まで聞いたら気になるよね?」

「なる」

「じゃあ、話すから絨毯に戻って!」

「承知いたしました」

  大人しく絨毯に座り直す。アグラをかいてネコの足元に向かい合わせに座り、圧をかけ話を待ったが、モジモジしたネコはなかなか話を始めない

「モジモジしない!」

「はい。承知いたしました」

ーーどんだけ照れ屋だよ?

  やっとおずおずと話が始まった

「笑わないでよ?」

「笑わない」

「勘吉さんの妄想が膨らみ過ぎて初恋の人は空想の中の彼なの。そして彼と婚約して彼の帰りを待ってたの」

ネコは恥ずかしさを隠す為に早口で一気に話した

「ネコ?大丈夫。笑わないからね」

ーー今、何て言った?
 空想の彼と婚約して?彼の帰りを待ってた?と?

「ネコ?……。よくある事じゃない?」

 理解不能で、腹の中とは違う無難な回答だけしておいた。

ーーイヤイヤ。無いから、ネコ。普通無いから

「良かった。チロに笑われたら生きていけない」

「えっ?じゃあ、空想の中の勘吉さんを追う為に遺書を書いていたの?」

「やっぱり見たの?」

ーーやべっ。口が滑った、、

「チロはさ、あの遺書を見ちゃったから私にベッタリしてた訳?」

ーーまずい展開

「心配だった事も少しはあるよ?でも1番大きいのは、一緒にいると楽しいからかな?」

「私も楽しい。嬉しいかも」

ーーセーフ

「でね、勘吉さん以上の人が現れなくて」

ーー重症だ

「うん。よくある事だね」

「そうなのかな??」

ーーねーから。

「でね、リアル恋愛経験0なの」

ーーぶったまげた!

「オレもリアル恋愛0だよ?」

ーーこれはネコのせいね?

「マジか?その容姿を持ってるくせに、おかしいんじゃない?」

ーーお前が言うなよ!!怒

「で?この先もリアル恋愛無しの予定?」

「イヤイヤ無しの予定は最初から無いから」

ーーややこしいな

「勘吉さんを超える魅力的な男性を待っていたせいで、恋愛経験0なのよ」

「じゃあ、0同士くっつく?」

「何それ?」

「良い考えじゃない?」

「じゃない。悪い考え」

「シアタールームの出入り券や、毎週お弁当の具材のサービス券や、鈴木さんカーに乗れます券とか特典いろいろあるぞ?割引きクーポンとか大好きなんだろ?コルクボードにベタベタ貼ってあったぞ?」

「それも見たの?他は?何見たの?」

ーー最大の秘密は倉庫での話だけど言えるかよ!

「それより、あの遺書は何だったんだ?解決したのかよ?金の事ならオレが何とでもしてやるよ。考えたなおさないか?」

「心配させてごめん、アレは本気じゃないの」

「えっ?」

ーー本気じゃない遺書とかあんのかよ?

  またネコが顔を赤くしてモジモジしはじめた

「よくある事だからモジモジせずに話す!」

「うん」

「生まれ変わりたかったの」

ーーまた来たよ?謎の世界観

「気分だけでも一度人生をリセットしようと、そう思った訳」

「なるほど?本気じゃ無ければ良かった」

「そう、本気じゃないと書く事なんて思いつかないもんなんだね?一枚目の会社用ですら手こずって、それから両親や友達に書くなんて無理だと悟っちゃった」

「だから途中までだったんだ」

「周りに不満なんて無いのに綴る言葉なんて無いじゃない?」

「不満が無い事に気が付いて良かったな」

「不満があって書き始めたはずなんだけど、どうやら生まれ変わらない方が幸せみたい」

「そりゃ良かった」

「今の自分が視点を変えるだけで、世界は変わるんだね」

「なるほど?」

ーーネコは生活に不満があったんだ。
 解決したみたいて良かった。

「よし、解決!じゃあ映画見る?」

「見る。楽しみにしてたんだ、この大型スクリーンで見る映画を!」

 それから、映画を見ている最中にネコはトイレへ行った。オレはその後そっとベッドルームへ忍び込み電気を消して待った。
 脅かすだけのつもりだった。しかし暗闇の中でつい暴走してしまいネコの意識を飛ばしてしまうのだった

 どうやらネコは、脳が酸欠して意識をよく飛ばすようだ。パニックを起こしやすい。これは普段、穏やかに流れる日常を過ごしている証拠だ。

 ネコの居る環境は、時間がゆっくり流れている。そのせいで、この子は入社時のまま変わらない。




 

 

「オフィスの書類庫で書類整理をしていたら突然暗闇になり非日常が始まった」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「恋愛」の人気作品

コメント

コメントを書く