オフィスの書類庫で書類整理をしていたら突然暗闇になり非日常が始まった

ghame

3/火】27.気が付いたらいつも横にはチロが居る

「もう、誤解されても良いんじゃない?」

ーーそんな感じなんだ?
 さすがはサイコパス、気になんないよね?

「チロさ?移動して来たばかりだから、何かと目に付くよ?私とさ、こんなにビアホールばっかり来ちゃっても良いの?」

「そっか?秋山行くか?」

「そっちもすでに誤解されている場所なんですけど、、」

「第一ネコは誰に誤解されるのがイヤなんだよ?彼氏だって居ないくせに」

ーー図星を着く可愛くない奴だ!
 とは言え、昨夜私は闇男と誓いを立ててしまった。チロお坊ちゃまの気まぐれなんかに付き合ってられない。
 ん〜。初めてを捧げるのかぁ〜

「例えば。鈴木さんにね、チロは私の部屋で一晩過ごしてると思われてるんだよ?それも平気なの?」

「それは誤解じゃないぞ?」

ーーん〜。
 迎えに来る鈴木さんの任務上は朝に私のマンションにチロが居る事は確かだし、それに対して鈴木さんが勝手に想像する事にチロは関心がないんだよね?この人らしい。

「チロが理解出来ないなら、私がチロを理解しないといけないわけね。そういう人間だと言う事を!」

「ネコ?」

「何よ?」

ーー全く、何考えてんだか読めない奴!

「まあ飲め!入社式の様に飲め!」

「何ソレ、バカじゃないの?」

「あの日は、オレの進める酒は飲まなかったんだぞ?」

「それは、失礼したわね」

「たがら、今日呑んでまた潰れろ!」

   飲み始めたばかりのチロの目が、もうトロンとしている
 こんなに酔うチロなんて見た事が無い。この状態の美青年は、きっと世の痴女の大好物だろう。例えば私とか?
 
ーーあれっ?

「えっ?チロ?いつもと違う。酔ってない?」

ーー確かチロは、お酒に強いはず。過去にも何度も見たけど、まだ飲み始めたばかりなのに酔うなんておかしい

「イヤ、まだほとんど飲んで無い。先週眠れなくてさ、眠いだけだよ」

ーー酔ってるんじゃなくて眠いのか、、

「家に泊まりたいからとか、演技じゃ無いよね?」

「泊まりたい。外じゃなくて部屋の中で。鈴木さんに誤解されているのは、部屋に泊めてもらっていると思われている点だけだ」

ーーこの発言は、皮肉ね?

「自宅に帰ればデカイ部屋と妄想ベッドルームがあるんでしょ?鈴木さんに迎えに来てもらいなさい!眠いくせに」

「でもオレの妄想ベッドルームには、ネコが居ないんだ」

「私の事、ペットみたく言わないで?」

ーー本当に私の事をペットと思ってるんじゃない?異性と同じ部屋に寝れるとか、チロは絶対おかしいよ

「しょうが無いな、屋上なら寝ても良いから帰るよ?もう飲むな!」

「部屋が良い」

「部屋はダメだけど、チロがここで寝ちゃったら私は家まで運べないよ?寝ちゃだめ」

ーー今なら遺書の事を聞けるかな?

「チロ?何でこんなに私にベッタリなの?私の部屋で何か見た?」

「えっ?見てないよ?」

ーーここは普通なら「何を?」になるはずた。
「見てない」は、既に特定してるって意味になる。
やっぱ見たな

「何を見てないか教えてくれる?」

「いや、見てないよ。絶対に見ない」

「ん?」

ーー見ない?

「見えそうな時は、ちゃんと目を瞑ってたから大丈夫だ」

「うそっ?いつの事?」

「座ってる時はいつも」

「何を何処から?見えるなら、ちゃんとその時に注意してよ?隠すから」

「別にオレは気にならないから、ネコも気にすんな?」

「気にするよ!」

ーーでも、、
 イヤイヤ、Tシャツとスエットに隙間など無いはずだ見えるはずが無い

「チロ?今のウソでしょ?」

「そう、ウソ。見られてるのはオレの方だ!」

ーーそうだね。
 家に男が居るのは珍しいから、つい見ちゃうのよね、、目の保養にもなるし、、

「そーだね。チロがあんまりにも外見が整い過ぎてるから目の保養」

「じゃあ、オレにも目の保養させて?」

「させてあげたいのは山々なんだけど。生憎無いのよ、私には目の保養になる場所が」

「そりゃ気の毒な身体だ」

ーーフォローはないの?!怒

「オレなら見て良いぞ?ネコなら許す」

「ありがとう。見たい所は全部遠慮なく見てるから」

「脱ぐも有りだから、いつでもどーぞ」

ーーヤバイヤバイ
また、乗せられるトコだった。どんなノリよ?

「ほらっ帰るよ?寝るな!」

   今夜のチロは眠そうなので、歩かずタクシーを捕まえて帰った

ーーもう寝ちゃいそうだし、部屋に寝かせるかな?
それはたぶん私が無理かも。誓いを立てたばかりだと言うのに。こんなご馳走が一晩中隣にあったら意識しすぎて眠れない

「今夜はコンビニまでトイレ行くの大変でしょ?鍵を持ってて良いから、吐くとか、トイレは私の部屋の使っても良いよ」

「ありがとう」

ーーおぼっちゃまを屋上に寝かせるなんて、、なんか可愛そうになって来ちゃった。でも、部屋に寝るのはダメ!
 結局、私の遺書を見たのか探れなかった。
ビアホールではチロの奴、上手く交わしたな

 そのとき、ふと思った

ーーチロって、いつも私の横に居てくれるんだよな
 おかげで、先月までウジウジしていた自分がウソの様に変化したな

 そこの所は素直に有り難い


  ーー ーー ーー ーー

 ネコのマンションに着いたのは、まだ8時
彼女はガンとして暗くなってからはオレを部屋には入れない。でも洗面所は貸してくれる親切な所も変わらず、そんな所にオレはくすぐられてしまう
 今までもこうやって異性とはキチンと一線を引いて来た事が伺える
 
 貸してくれる洗面所は、いつも清潔で鏡が曇っていたり水しぶきがかかっている事も無い居心地の良い空間だ
 そんな彼女からオレもやはり一線引かれていてる。

 なかなか踏み入る事が出来ないネコの領域に、チクリと胸に針が刺さる様な痛みを感じた
 シャワーを浴びて、太陽の香りがするバスタオルで身体を拭きながら自分の姿が鏡に映る
 
 ネコに借りた短パンを履くと、股上が浅くて腰のボタンは閉まらない。
 しょうがないのでファスナーを上げて固定させる。
それから上半身は裸のままドアを開けて財布を出し、中からバンソウコを1枚出すと針の痛みに貼った。
 それからTシャツを着た

ーードライヤーを貸してくれるかな?

 髪は濡れたままでもすぐ乾くので、ペタンとなって邪魔な事を気にしなければドライヤーなどかける必要は無い。
 でも、部屋へ入る口実として今夜は借してもらう事にした

 廊下から部屋を覗くと、ネコはダイニングテーブルに座ってスマホを操作していた

「シャワーありがとう」

「あっ!出てたの?布団運ぶの手伝うよ」

「ありがと。その前にドライヤーを借りていいかな?」

  トボけた顔を見せて少しポケッと考えたネコは「あっ、そうだね待って」と言ってくれたが、今まで一度も借りた事のないドライヤーを今夜初めて借りるのは意外だったのかも知れない

「チロがドライヤーをかけている間に、アイスを買って来るから、お留守してて?チロもアイス食べる?」

ーー作戦失敗。
 夜に彼女がいる部屋に入る事は今夜も出来そうにない。
 夜は鉄壁で、隙など作らない。

「オレも行く!」
 ネコの居ない部屋で一人でドライヤーをかけるのもつまらない、意味がない

「眠くなくなったの?」

「オレもアイスを選びたい」

「そーだよね?アイスは自分で選びたいよね」

ーーそんなもんなのか?
 ネコはアイスを自分で選ぶ事が好きなんだ。クスッ

 ネコが悩んで選んだのはチョコモナカ、それでオレも同じものにした。
 アイスは屋上に登って2人で食べた

「チロって、茹で卵以外に好きな食べ物とかあるの?」
「お婆ちゃんの手料理と、ネコの味噌汁かな?」

「えっ?私の鶏肉のアレ?気に入ったんだ」

ーー初めてネコが作ってくれた手料理だ、あれはオレにとって特別だ

「美味しかった。大根おろしのうどんも美味しかったから、また作ろう!」

ーー初めて一緒に作った料理だ、アレはオレにとって特別だ

「うん。あれは美味しかったね!」

ーーネコは、オレにとって特別だ。
 ネコが良い。

 それから暫く話をして、ネコが部屋へ降りたら、オレは着替えて路上に降りるとタクシーを拾った
 

 ーー ーー ーー ーー ーー

 タクシーから降りると前回同様ネットカフェへ入った。カバンから関連資料を出して即仕事に取り掛かる。鹿児島に引き継いだもの、海外出張で新規に立ち上げる企画、実家の仕事もずいぶんある。ここのところ寝る時間もまともに取れない

 移動して来て、仕事が増えているので一人では手一杯で営業マンに振り分けたいが、誰にどの企業を担当させるか決めかねる。過去の仕事履歴から適任者を選んで堂園課長に相談をしてみよう。
 
 オレは営業マンだが、商品は売らないで顔を売る。
 企業のキーマンとなる人物を徹底的に調べて、コネクションを利用する。時に父親や祖父の名前を出して圧力をかける時もある
 その為には自宅にある過去の資料から企業間の力関係など把握しておく必要がある
 
 仕事が一区切り付いたら時刻は4時。6時間ぶっ通しで、疲れている自分に気が付く

ーーまた、あまり寝れないな、、

 タクシーを飛ばしてネコの部屋へ帰る途中、明日の迎えの時間を鈴木さんに確認メールを入れておいた。

 彼はここに来て、多忙なオレのドライバーを引き受けてくれていて、長年の仕事の経験からターゲットになる人物の有力情報をアドバイスもしてくれる。
 キーマンの送迎は当たり前、仕事の移動が時短され彼のおかげで効率よく仕事を捌く事が出来ている。
 鹿児島へも付いてくる話もあったが、一営業マンに専属ドライバーが付いている事はおかしいと断って運転は自分で行った。
 でも、オレが忙しい時は駆けつけて来てくれて、九州出張は車で行ったりもした。鹿児島勤務の日々は結構ハードだった。
 鈴木さんは代々我が家に住み込み勤めてくれて、もうゆっくりしてもらいたいと父親は言うが本人は働いている方が好きな様だ。

 着替えて布団を運び、クタクタだったのでネコの布団に潜り込むとすぐに睡魔が訪れた

ーーネコ、君の横に居れたらそれだけで今のオレは満足できるんだ





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