オフィスの書類庫で書類整理をしていたら突然暗闇になり非日常が始まった

ghame

2/土】17.チロと神宮花火を屋上で見た土曜日

 
 今日はチロが5時に来る約束をしていたのでそれまでに家事を済ませておいた
 
 ピンポーン♪

「いらっしゃい」

「お邪魔します」

 本日の男前くんは、水色の薄い素材の綿シャツを羽織って真っ白なデニムパンツを履いている。靴はベルトと同色のキャメルのローファー。浅瀬のビーチの様な爽やかさだ
 手には伊勢丹の紙袋を持っている

 一方私は、ベージュのデニムパンツに白い小さめのTシャツを着ていて肩に合わせてSサイズなので胸が気持ちキツそうだ。インナーは、いつものスポーツブラ
 髪はよくブラッシングして、揺れるチェーンのピアスを耳から垂らすと片側だけ耳にかけた
 その髪とチェーンがドアを開ける時に首筋を擽り、こそばゆい思いと共に胸が小さくキュンとした

「ビール飲む?」

「飲む。つまみに生ハムを色々買って来たよ?生ハム好きかな?」

「ありがと大好きだよ」

 ーーナイスぼんぼん!

「うっ、うまそう」
 デパ地下の包みを開けると思わず感動の声を上げていた

クラフトマンシップ職人気質の物が好みだから、国産にしてみたよ?」

 チロチョイスの生ハムは、種類も豊富で高級感が半端ない

「後で食べ比べてみて?群馬、青森、長野、秋田で1〜3年の成熟期間のものだよ。生ハムは先代から我が家で注目していて商品化もしてるんだ」

「そうだったの?」

「これだよ?鹿児島の黒豚で、オレが商品企画で力を入れたものの一つ。コレ、旨かったから目を付けてマーケティングプラン考えて伊勢丹でも手に入る様になった」

「ウソっ!鹿児島で、そんな事もしてたの?チロ見直した」
 
「ネコは、感動屋だな?何でも喜んでくれるからエネルギーもらえるよ。クスッ。何でも買ってやるぞ?」

ーーこの生ハムに感動しない人は、たぶん居ないはず。

今日は、テーブルを窓際に移動して外を見ながらまったり出来るようにしておいた

 テーブルに向かい合わせに座り、エアコンを入れて窓も開けると程よい温度の風が心地が良い

「始まったみたいよ?屋上行こうか」

 座っている席から窓の外に花火の頭の部分が見え始めたので、屋上へ行く事にした

 屋上へ行くと、家族連れやカップルで20人ほど観客が居た。浴衣や甚平を着た子も居て、毎年ちょっとしたお祭り気分が味わえる。

「すごい人だね」

「でしょ?ここから見る花火は綺麗だから毎年賑やかにになるよ。この時期は他の区が上げてる花火も遠くに見えるよ?」

「あっ、本当だ。遠くにみえる」

「あそこは浅草方面かな?」

 花火側の金網には塊が出来ていたので、逆の金網へ移動して二人は並んで空を見上げた

「毎年見てるの?」

「そうよ。この辺りのマンションは、この日だけ屋上を開放していて、住人の知り合いだと通してくれるの。この中にもチロみたいにマンション以外の人が居るはずよ。」

「ふーん」

「…………」

 花火を見ている間は、沈黙が多かった。チロは何を考えながら、このキレイな花火を見ているんだろう?

「今までは、誰と見てたの?」

ーーそうだな。
 住んで初めの頃こそ、友達を誘って見てたけど何度も見るうちに有難味ありがたみが薄れてたな

「去年は一人で見たかな?花火がある事を忘れていて、部屋から見えて慌てて屋上に登ったんだった」

「勿体無いな。こんなに綺麗に見える場所なのに」


 静かに並んで花火を見つめていると、心も静かで穏やかになって来た

「チロ?何か欲しいものある?」

 花火は左上に上がっていたので、背の低い私は左側に居た。それで右隣に立つチロには振り返る形で声をかけた

「ん?」

  チロは動かず、花火を見つめていて瞳だけを流し見て来た

ーーんー。その視線は、金取れるレベルだ!

 惚れ惚れした

「何かくれるの?」

「ここのところ食費の面でお世話になってるから、お礼したいんだけど、何をプレゼントしたら喜ぶのか思い付かなくって」

「嬉しいな」

「そう?よかった、、何が欲しいかな?」

「欲しいものあるよ?」

「私がお礼出来る範囲でだよ?」

「もちろん。当ててみて?」

「ヒントは?」

「じゃあ、こうしよう。ヒントは5つネコの質問に答えるよ」

「5つもヒントくれるの?面白そう」

「その代わり、5つのヒントで当たらなかったら、それが何かわからなくてもOKするしか無い条件付き」

「このゲーム自体ががチロの欲しい物なんじゃない?面白そうね!受けて立つよ!」
ーーどうせ「部屋に泊めろ」なんでしょ? 

「質問1つ目どうぞ?」

「それは高額?高い物はダメだからね?」

「質問1つ目回お答えします。無料です」
ーー部屋だもんね、無料だよね

「質問2つ目どうぞ?」

「サイズは?すごく大きい物でしょ?例えば、私より大きいもの。と言うより、形がないもの!」
ーー部屋だけに

「質問2つ目お答えします。形が無くて、オレの身体より小さいです」

ーーそれは部屋の中の寝るスペースって意味かな?

「質問3つ目どうぞ?」

「それは、他の人には出来ない贈り物かな?」
ーー私の部屋だけに

「質問3つ目。お答えします。誰にでも出来る贈り物だけど、オレはネコから欲しいから、、質問の答えはYESだな」

ーー答えが決定しました!やっぱ、部屋に泊めろだ!

「質問4つ目どうぞ?」

「それは私が他人にバレたら嫌な奴でしょ?」

「質問4つ目お答えします。オレはバレても良いけど、ネコはバレたくない事です」

ーーチロは他人に泊まった事がバレても気にしないんだ。

「最後、5つ目の質問どうぞ?」

「それは1度でも良いですか?」

「5つ目のお答えします。1回でも嬉しい。何回もあればなお嬉しい」

ーー1回も泊めないし、何回もない。別のお礼にしてもらおう

「では、お答え下さい!オレの欲しい物は、何ですか?」

「部屋には泊めないよ?それは無し。お礼はそれ以外にして下さい。」

「ちがうよ?」

「ウソ?ちがったの?待って、何だろう」

ーー①無料②形が無くてサイズはチロより小さい③誰でも出来るけど私から欲しい④チロはバレても大丈夫で私は嫌⑤出来れば何回も

「じゃあ、ちょうだい。オレの欲しいもの」

「あっ!なんだ、わかった。ちょっと時間がかかっても良いかな?」

「いいよ?もちろん待つよ」

「出来るだけ急ぐね。今月中に」

「ネコ?何だかわかってるの?」

「うん。でも、見せない事は約束してよ?下手だからマジ恥ずかしいからね」

「いいよ。」

 チロが一歩寄って来て、怪しい瞳に捕まる
その視線に冷やっとした

ーーいちいち何やっててもいい男なんだから、、
もう見んな!

「髪の匂い嗅いだら、それでお礼は終わりだからね?」

 怪しい瞳に睨みを返して釘を刺した

「お礼の方が欲しい」

 チロの目が大人しくなった

「カレンダーは来月用で良いかな?急いで作るね、何の絵が良いかな?リクエストある?」

「えっ。カレンダー?……うん。来月ので嬉しいよ」

「1回じゃなくても、また描くよ?日付の欄は自由に調節出来るから、スペースどれくらい欲しい?」

 指で私の髪を揺らしてから返事を返した

「じゃあ、数字は小さく書き足しておいて欲しいな」

 返事を聞きながらその指を避けて首を逸らすと、その指が私の喉元を掠めた

「絵の希望は?」

 そして次はその指が顎の下にある

「緑が濃い梢で、ネコの描いたキャラが戯れてる感じとか良いな」

 私の顎を持ち上げる

「それ、良いね」

 次の瞬間チロの唇は、私と重なっていた

 フワッとマシュマロの様な心地良い柔らかさが、甘い。
 それがスローで2回続いた。3回目は重なって少ししゃくられた。4回目も重なった後のマシュマロは私の唇を少しだけ持ち上げて感触を楽しんでいる。

「ちょっ」

ーーいったい何回する気なの?!

  のけぞり離れると、チロの悪戯っ子の表情が近くにあった

「ネコ?挨拶の時に声を出したらダメだよ、何か入っちゃうから」

ーー何かって、まさかの舌ですか?
意味わかんないし、、

「明日から1週間出張が入ってる。だから土曜日も迎えにいけないんだ、暫く会えなくなる」

ーーだから挨拶ね?!1週間だから7回するつもりだったの?!
 マジ、紛らわしいルールだな?

「オレが戻った日曜日は、家に遊びに来ない?」

 こんなに何度も唇を合わせた後なのに、チロはあっけらかんとしている

ーードキドキした私がバカみたい!

「良いよ?でも実家だよね?女の子が来たら気まずくない?」

「気まずくないよ。同期が来たら会社に馴染んでると思うだろ?」

ーーああ、そう言う事か。
ちゃんとやってるアピールね?

「じゃあ行く。住所を教えて?」

「迎えに行くよ、5時でも良い?」

「5時、大丈夫」

 9時前になるとバイトに向かう事にした。
チロがネカフェで仕事をすると言い、タクシーで回ってくれた。
 
「後で食べに行くから、閉店前に連絡して?今夜は残業なんだよね、連絡が来るまで仕事してるよ」

ーーへぇ〜。仕事をするってセリフを初めて聞いたかも

「わかった。連絡する」


 バイトが終わり帰りは3時を過ぎていた。
閉店前に迎えに来てくれたチロは、軽い物を食べて私のお弁当用にお持ち帰りをどっさりオーダーしてくれて、帰りもタクシーで送ってくれた

 タクシーから降りる私の後に続き、チロも降りた。

  私の肩の尖ったところに手を乗せると、顔を落としてマシュマロの甘い挨拶をしてくれた

ーー声を出すと何かが入って来るルールね?
この挨拶を少し掴んで来たかも、、

 唇が離れると、間近に寄った笑顔は迫力の容姿をしていた

ーーんー。暫く拝めなくなるには惜しい眺めだ

「あと2回」

ーー言うと思った、、

「はい、はい」

 それはソフトで甘いものだった。チロは私をどこまでも優しく癒してくれる

 それからエレベーターまで見送るとドアが閉まるまで笑顔を絶やさず立っていてくれた

ーー来週の日曜日まで会えないのか、、

「…………」

 カレンダーを仕上げておいてあげよ。


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