勇者パーティーから追放された召喚士~2000年間攻略されなかったダンジョンを攻略して、伝説の武器や生き物と契約して楽しくやってます。懇願してもパーティには戻りません
追放されたけど、絡まれる
カナミの左手を掴み上げた獣人の手に力がこもる。
「痛っ……離しなさいって言ってるでしょ!」
獣人の握力は人間のそれを遥かに凌ぐ。彼女のか細い手首が悲鳴をあげると、カナミは右手で魔法を展開する。
「劣等種族のくせに、この俺様に逆らうだと?身の程を知れ!」
「————きゃっ!?」
カナミの反撃に対応するためか、獣人が力任せに彼女の腕を引っ張る。人とは隔絶した筋力の差によってカナミの体を後方に放り投げられる。
中空に放り投げられた彼女に照準を合わし、地面を蹴り上げる。空中で無防備な彼女のを受け止め、なんなく床に着地した。
「あ、ありがとうワート」
「ごめんね……助けに入るのが遅くなって。3人なら慌てなくても大丈夫かなと思ったんだけど、暴力を振るわれたら話は変わってくるね」
カナミを優しく離し、立ち上がらせる。腰のダインに手を当て、目の前の獣人を睨みつける。
「なんだ……テメェ?」
「こっちのセリフだよ。僕たちは闘技大会の参加申し込みに来ただけだ」
僕を睨みつける狼型の獣人。身長は2mを優に超え、鋭い眼光と牙、隆起した胸筋から凄まじい膂力を感じさせる。
「テメェみてえなチビが闘技大会だぁ?それにその女は俺様が先に狙ったんだよ。外野から口出してんじゃねぇ」
「悪いけど、彼女は僕の連れだ。そっちの二人もね」
周囲の獣人たちに警戒しているレーヴァと、相変わらず椅子に座って呑気にしているラクスに視線を向ける。
僕の言葉を聞いた獣人の口が弧を描く。
「喜べ人間の女ども!このウルフ様が相手をしてやるんだ。死ぬまで弄んでやらぁ」
カナミを足元から舐め回すようにみるウルフと名乗った獣人から、彼女を隠すように視線に割って入る。
「3人は喜んでないよ。悪いけど、僕たちは疲れているんだ。帰らせてもらうよ」
【召喚】スキルを起動し、魔法陣を展開する。魔法陣が組み上がり、蒼色に魔力光が煌めく。
「劣等種族のくせに、この俺様と殺し合うってか?」
「いや、彼女たちをこっちに呼ぶだけさ。———【契約召喚】」
最も初歩的な【契約】スキルを起動する。僕の【契約召喚】は契約した対象を距離関係なく、手元に呼び寄せる。それなら————目の前の仲間を呼び出すことも可能だ。
取り巻きの獣人たちから驚きの声が上がる。それもそうだ。先程まで自分たちが囲っていたラクスとレーヴァが、いつの間にか僕の隣に立っているんだから。
「二人とも大丈夫?」
「あ、ありがとうございますワート。あまり無闇にスキルを使うと———」
「大丈夫じゃよ。この程度であれば分かりはすまい」
現状、僕しか持っていないと思われる【召喚】スキルの行使。リスクはあるけど、この場で事を荒げるのは得策でないと判断した結果の行動だ。
「テメェ……その女どもに何をしやがった」
「簡単なことだよ。ちょっとスキルを使っただけだ」
劣等種族のスキルも見抜けないの?と一言付け足しておく。僕の言葉が癇に障ったのか、ウルフは目を釣り上げ牙をむく。先程までのふざけた様子と打って変わり、警戒の色を強める。
「いい度胸じゃねーか。人間のクソガキ………なぶり殺しにしてやるよ」
「喧嘩だったらいつでも買うよ。その前に———僕たちが劣等種族っていうのはどういう意味だ」
ウルフが現れたことでは変化しなかったらギルド内の雰囲気が、僕の一言によって一気に張り詰めた。どうやら獣人達の琴線触れる質問だったらしい。
「お前たちが劣等種族であることに納得できないだ?…………ガハハハハッ!!」
何が面白いのかウルフは腹を抱えて大声で笑い続ける。
「—————テメェら人間は俺たち獣人に支配されるべきなんだよ!!」
周囲の取り巻きたちも続いて、心ない言葉を吐き出す。
「劣等種族が対等に話してんじゃねぇ!」「お前たち人間は何もできないじゃねぇか!」
確かに僕たち人大陸と獣大陸の関係は良好ではない。それでも其々人格を持った存在として、ある種の尊重はあると思っていた。
「この俺様が獣人が最強であることを世界に知らしめる。手始めに闘技大会だ。テメェら人大陸のゴミどもが、どれだけ集まろうが俺様の敵じゃねぇ!!」
ウルフは怒りに任せて拳を振るう。拳一つで風が吹き荒れ、拳を叩きつけられた机だけでなく、拳圧によって床まで抉り取られた。
スキルではなく純粋なる『暴力』。確かに奴が言う通り、僕たち人間とは生物としての作りが違う。
「人間のガキ、テメェも闘技大会に参加するって言ったな……名前は何だ」
「ワート、ワート・ストライドだ」
隠す理由もない。正面切って自分の名前を告げてやる。
「クハッ!おもしれぇ……俺様はウルフ。『名無し』のウルフだ」
ウルフは怒りを発散するように、再度机を叩き潰す。
「———テメェを嬲り殺すのは闘技大会まで取っておく。一万人を超える観客の前で血祭りに上げてやるよ」
「行くぞ」そう呟き、ウルフはその場を後にした。取り巻き達もこちらに暴言を吐き、次第に姿を消していった。
「な、なんだったのでしょう……」
「言うなれば獣人至上主義ってやつね。存在はしているって聞いていたけど、あそこまで露骨に見下されるとは思っていなかったわ」
人大陸と獣大陸。闘技大会を代表する交流が数年に一度行われる両大陸はなぜ数千年にわたり人流が解放されていないのか疑問ではあったけど、その一端を見た気がする。
「なんじゃあの毛むくじゃらは!私は人間ではなくまじん—————むぐっ!?」
プンスカ怒ったラクスが余計なことを言いそうになるのを、慌てて止める。危なかったぁ……人間と獣人が入り混じっているこの状況で魔人を連れているなんて知られたら、闘技大会の開催まで危ぶまれる。
暴れるラクスを抑えながら周囲に意識を向ける。先程のウルフの言動を受けて、心なしか他の獣人達も殺気立っている。
どうやら獣人達の人間への感情は芳しくないようだ。
「早々に出た方が良さそうだね」
僕の呟きに頷くカナミとレーヴァ。僕はラクスを小脇に抱えて、急いでギルドを後にした。
----------------------------------
「へぇ……彼、面白いじゃないか」
同冒険者ギルド2階席。ワートと同世代ほどの人間の少年がグラスを片手にそう呟いた。少年は慌てた様子でギルドを出て行ったワート達を眺めた後、一階から視線を切り、目の前の同席者に視線を戻す。
「あの者が最後の人大陸の代表者ですか………」
目の前の同席者である女性は眼鏡をクイっとあげ、少年に次の言葉を促す。
「君はずっと反対って言っていたけど、彼は彼でアリなんじゃない?あのウルフ相手に引き下がらなかった胆力は見事なものだよ」
明らかに少年より年上の女性。しかし、その佇まいから少年の方が立場は上のようだ。二人がいる冒険者ギルド2階は闘技大会中、人大陸側の賓客に貸し出されており、一階の雰囲気とは打って変わって荘厳な雰囲気が漂っている。
椅子や机は一階のものと全く同じだが、その白髪の少年がいることによって、全ての物がワンランクアップしたように感じる。
切り揃えられた輝くような白髪に、余裕に満ちた表情。身に纏っているものは質素だが、細部に意匠が凝らされており、どこかセンスの良さを滲ませる。
「しかしルーク様。闘技大会は大陸を代表する戦士が集う場。如何にあのネルソンが推したからと言って、横槍で参加できるほど生ぬるいモノではありません。あの男が負けるだけで人大陸の威信が損なわれます」
「レイン、大丈夫だよ。彼は強いさ。それに————」
ルークと呼ばれた少年は柔和な表情から、突如、鋭い目つきへと変貌した。
「あのスキル……僕ですら、知らないスキルだ」
「『当代最強』———その名を欲しいままにする貴方ですら、理解の及ばないスキル……ですか」
レインの言葉に、張り詰めたルークの雰囲気が一気に緩む。
「うはっ………その当代最強ってむず痒いだよねぇ。それにルーク様って言うのも辞めてって言ってるじゃんか」
「それはできません。現国王の三男にして、『当代最強』の二つ名を持つ貴方様に、どうして軽口が言えましょうか」
自分の要求を全く受け付けないレインに膨れっ面で抵抗するルーク。側から見ればその様子は完全に姉弟だ。
「それにあの王家の人間だって言われるのも嫌なんだよねぇ……。父上はまだしも、兄と妹達には困ったモノだよ」
人大陸王家は現在、6人の後継者がいる。ルーク含めた男性3人。そして———。
「妹君と言いますと……この闘技大会にはアーシャ様もお越しになると伺っております」
「本当に我が妹ながら、あのじゃじゃ馬聖女様には困ったモノだよ」
そう。ワートを勇者パーティーから追い出した張本人である聖女アーシャはルークの妹に当たる。
「どう頑張っても双子なのに、僕にはあの傲慢さは身に付かなかったなぁ」
実家である王城での生活を思い出して、しみじみと呟くルーク。我が双子の妹ながら困ったモノだね、と言いながらルークは「それでも……」と言葉を続ける。
「あの子だけだよ。僕を王家の邪魔者と言わなかったのは」
彼の柔和な笑みに少し影が刺した。そのルークを見て付き人であるレインは思わず頭に血が上る。
「私は今でもルーク様が正当なっ————」
「レイン。それ以上は言っちゃダメだ。いくら僕の付き人だからって、怒られちゃうよ?」
この闘技大会中、どこに人大陸側の人間がいるか分からない。王家への反論は即刻死罪となることを思い出し、レインは青ざめる。
「も、申し訳ありません…私としたことが感情的になってしまいました」
「大丈夫さ。僕のことで本気で怒ってくれるところが、レインの良いところなんだから」
ルークの優しい言葉に思わず赤面してしまうレイン。彼に悟られないように俯き、話題を変えるために咳き込む。
「と、ところで初戦の組み合わせが発表されましたね!」
上擦った声のレインに「相変わらず誤魔化すのが下手だなぁ」とルークは苦笑するし、話に乗ってあげることにした。
「僕は人間の冒険者が初戦の相手みたいだね」
「いきなり人大陸同士の戦いですか……獣大陸側の操作でしょうか?」
各大陸ごと8人ずつ戦士を出す闘技大会は、トーナメント形式であり、人大陸ごとに争わせる方が獣大陸にとっては有利と言える。
「いや、それはないと思うよ。さっきは一階で騒いでいたけど、獣人達も闘技大会には誇りを賭けている。ただの偶然さ。それに————」
自分の意見を証明するかのように、2階の壁にも張り出されたトーナメント組み合わせを指さす。
「さっきの彼。一回戦の対戦相手は————ウルフだ」
いきなり人間と獣人の戦いが見れるね。そう言って彼は静かに微笑んだ。
「痛っ……離しなさいって言ってるでしょ!」
獣人の握力は人間のそれを遥かに凌ぐ。彼女のか細い手首が悲鳴をあげると、カナミは右手で魔法を展開する。
「劣等種族のくせに、この俺様に逆らうだと?身の程を知れ!」
「————きゃっ!?」
カナミの反撃に対応するためか、獣人が力任せに彼女の腕を引っ張る。人とは隔絶した筋力の差によってカナミの体を後方に放り投げられる。
中空に放り投げられた彼女に照準を合わし、地面を蹴り上げる。空中で無防備な彼女のを受け止め、なんなく床に着地した。
「あ、ありがとうワート」
「ごめんね……助けに入るのが遅くなって。3人なら慌てなくても大丈夫かなと思ったんだけど、暴力を振るわれたら話は変わってくるね」
カナミを優しく離し、立ち上がらせる。腰のダインに手を当て、目の前の獣人を睨みつける。
「なんだ……テメェ?」
「こっちのセリフだよ。僕たちは闘技大会の参加申し込みに来ただけだ」
僕を睨みつける狼型の獣人。身長は2mを優に超え、鋭い眼光と牙、隆起した胸筋から凄まじい膂力を感じさせる。
「テメェみてえなチビが闘技大会だぁ?それにその女は俺様が先に狙ったんだよ。外野から口出してんじゃねぇ」
「悪いけど、彼女は僕の連れだ。そっちの二人もね」
周囲の獣人たちに警戒しているレーヴァと、相変わらず椅子に座って呑気にしているラクスに視線を向ける。
僕の言葉を聞いた獣人の口が弧を描く。
「喜べ人間の女ども!このウルフ様が相手をしてやるんだ。死ぬまで弄んでやらぁ」
カナミを足元から舐め回すようにみるウルフと名乗った獣人から、彼女を隠すように視線に割って入る。
「3人は喜んでないよ。悪いけど、僕たちは疲れているんだ。帰らせてもらうよ」
【召喚】スキルを起動し、魔法陣を展開する。魔法陣が組み上がり、蒼色に魔力光が煌めく。
「劣等種族のくせに、この俺様と殺し合うってか?」
「いや、彼女たちをこっちに呼ぶだけさ。———【契約召喚】」
最も初歩的な【契約】スキルを起動する。僕の【契約召喚】は契約した対象を距離関係なく、手元に呼び寄せる。それなら————目の前の仲間を呼び出すことも可能だ。
取り巻きの獣人たちから驚きの声が上がる。それもそうだ。先程まで自分たちが囲っていたラクスとレーヴァが、いつの間にか僕の隣に立っているんだから。
「二人とも大丈夫?」
「あ、ありがとうございますワート。あまり無闇にスキルを使うと———」
「大丈夫じゃよ。この程度であれば分かりはすまい」
現状、僕しか持っていないと思われる【召喚】スキルの行使。リスクはあるけど、この場で事を荒げるのは得策でないと判断した結果の行動だ。
「テメェ……その女どもに何をしやがった」
「簡単なことだよ。ちょっとスキルを使っただけだ」
劣等種族のスキルも見抜けないの?と一言付け足しておく。僕の言葉が癇に障ったのか、ウルフは目を釣り上げ牙をむく。先程までのふざけた様子と打って変わり、警戒の色を強める。
「いい度胸じゃねーか。人間のクソガキ………なぶり殺しにしてやるよ」
「喧嘩だったらいつでも買うよ。その前に———僕たちが劣等種族っていうのはどういう意味だ」
ウルフが現れたことでは変化しなかったらギルド内の雰囲気が、僕の一言によって一気に張り詰めた。どうやら獣人達の琴線触れる質問だったらしい。
「お前たちが劣等種族であることに納得できないだ?…………ガハハハハッ!!」
何が面白いのかウルフは腹を抱えて大声で笑い続ける。
「—————テメェら人間は俺たち獣人に支配されるべきなんだよ!!」
周囲の取り巻きたちも続いて、心ない言葉を吐き出す。
「劣等種族が対等に話してんじゃねぇ!」「お前たち人間は何もできないじゃねぇか!」
確かに僕たち人大陸と獣大陸の関係は良好ではない。それでも其々人格を持った存在として、ある種の尊重はあると思っていた。
「この俺様が獣人が最強であることを世界に知らしめる。手始めに闘技大会だ。テメェら人大陸のゴミどもが、どれだけ集まろうが俺様の敵じゃねぇ!!」
ウルフは怒りに任せて拳を振るう。拳一つで風が吹き荒れ、拳を叩きつけられた机だけでなく、拳圧によって床まで抉り取られた。
スキルではなく純粋なる『暴力』。確かに奴が言う通り、僕たち人間とは生物としての作りが違う。
「人間のガキ、テメェも闘技大会に参加するって言ったな……名前は何だ」
「ワート、ワート・ストライドだ」
隠す理由もない。正面切って自分の名前を告げてやる。
「クハッ!おもしれぇ……俺様はウルフ。『名無し』のウルフだ」
ウルフは怒りを発散するように、再度机を叩き潰す。
「———テメェを嬲り殺すのは闘技大会まで取っておく。一万人を超える観客の前で血祭りに上げてやるよ」
「行くぞ」そう呟き、ウルフはその場を後にした。取り巻き達もこちらに暴言を吐き、次第に姿を消していった。
「な、なんだったのでしょう……」
「言うなれば獣人至上主義ってやつね。存在はしているって聞いていたけど、あそこまで露骨に見下されるとは思っていなかったわ」
人大陸と獣大陸。闘技大会を代表する交流が数年に一度行われる両大陸はなぜ数千年にわたり人流が解放されていないのか疑問ではあったけど、その一端を見た気がする。
「なんじゃあの毛むくじゃらは!私は人間ではなくまじん—————むぐっ!?」
プンスカ怒ったラクスが余計なことを言いそうになるのを、慌てて止める。危なかったぁ……人間と獣人が入り混じっているこの状況で魔人を連れているなんて知られたら、闘技大会の開催まで危ぶまれる。
暴れるラクスを抑えながら周囲に意識を向ける。先程のウルフの言動を受けて、心なしか他の獣人達も殺気立っている。
どうやら獣人達の人間への感情は芳しくないようだ。
「早々に出た方が良さそうだね」
僕の呟きに頷くカナミとレーヴァ。僕はラクスを小脇に抱えて、急いでギルドを後にした。
----------------------------------
「へぇ……彼、面白いじゃないか」
同冒険者ギルド2階席。ワートと同世代ほどの人間の少年がグラスを片手にそう呟いた。少年は慌てた様子でギルドを出て行ったワート達を眺めた後、一階から視線を切り、目の前の同席者に視線を戻す。
「あの者が最後の人大陸の代表者ですか………」
目の前の同席者である女性は眼鏡をクイっとあげ、少年に次の言葉を促す。
「君はずっと反対って言っていたけど、彼は彼でアリなんじゃない?あのウルフ相手に引き下がらなかった胆力は見事なものだよ」
明らかに少年より年上の女性。しかし、その佇まいから少年の方が立場は上のようだ。二人がいる冒険者ギルド2階は闘技大会中、人大陸側の賓客に貸し出されており、一階の雰囲気とは打って変わって荘厳な雰囲気が漂っている。
椅子や机は一階のものと全く同じだが、その白髪の少年がいることによって、全ての物がワンランクアップしたように感じる。
切り揃えられた輝くような白髪に、余裕に満ちた表情。身に纏っているものは質素だが、細部に意匠が凝らされており、どこかセンスの良さを滲ませる。
「しかしルーク様。闘技大会は大陸を代表する戦士が集う場。如何にあのネルソンが推したからと言って、横槍で参加できるほど生ぬるいモノではありません。あの男が負けるだけで人大陸の威信が損なわれます」
「レイン、大丈夫だよ。彼は強いさ。それに————」
ルークと呼ばれた少年は柔和な表情から、突如、鋭い目つきへと変貌した。
「あのスキル……僕ですら、知らないスキルだ」
「『当代最強』———その名を欲しいままにする貴方ですら、理解の及ばないスキル……ですか」
レインの言葉に、張り詰めたルークの雰囲気が一気に緩む。
「うはっ………その当代最強ってむず痒いだよねぇ。それにルーク様って言うのも辞めてって言ってるじゃんか」
「それはできません。現国王の三男にして、『当代最強』の二つ名を持つ貴方様に、どうして軽口が言えましょうか」
自分の要求を全く受け付けないレインに膨れっ面で抵抗するルーク。側から見ればその様子は完全に姉弟だ。
「それにあの王家の人間だって言われるのも嫌なんだよねぇ……。父上はまだしも、兄と妹達には困ったモノだよ」
人大陸王家は現在、6人の後継者がいる。ルーク含めた男性3人。そして———。
「妹君と言いますと……この闘技大会にはアーシャ様もお越しになると伺っております」
「本当に我が妹ながら、あのじゃじゃ馬聖女様には困ったモノだよ」
そう。ワートを勇者パーティーから追い出した張本人である聖女アーシャはルークの妹に当たる。
「どう頑張っても双子なのに、僕にはあの傲慢さは身に付かなかったなぁ」
実家である王城での生活を思い出して、しみじみと呟くルーク。我が双子の妹ながら困ったモノだね、と言いながらルークは「それでも……」と言葉を続ける。
「あの子だけだよ。僕を王家の邪魔者と言わなかったのは」
彼の柔和な笑みに少し影が刺した。そのルークを見て付き人であるレインは思わず頭に血が上る。
「私は今でもルーク様が正当なっ————」
「レイン。それ以上は言っちゃダメだ。いくら僕の付き人だからって、怒られちゃうよ?」
この闘技大会中、どこに人大陸側の人間がいるか分からない。王家への反論は即刻死罪となることを思い出し、レインは青ざめる。
「も、申し訳ありません…私としたことが感情的になってしまいました」
「大丈夫さ。僕のことで本気で怒ってくれるところが、レインの良いところなんだから」
ルークの優しい言葉に思わず赤面してしまうレイン。彼に悟られないように俯き、話題を変えるために咳き込む。
「と、ところで初戦の組み合わせが発表されましたね!」
上擦った声のレインに「相変わらず誤魔化すのが下手だなぁ」とルークは苦笑するし、話に乗ってあげることにした。
「僕は人間の冒険者が初戦の相手みたいだね」
「いきなり人大陸同士の戦いですか……獣大陸側の操作でしょうか?」
各大陸ごと8人ずつ戦士を出す闘技大会は、トーナメント形式であり、人大陸ごとに争わせる方が獣大陸にとっては有利と言える。
「いや、それはないと思うよ。さっきは一階で騒いでいたけど、獣人達も闘技大会には誇りを賭けている。ただの偶然さ。それに————」
自分の意見を証明するかのように、2階の壁にも張り出されたトーナメント組み合わせを指さす。
「さっきの彼。一回戦の対戦相手は————ウルフだ」
いきなり人間と獣人の戦いが見れるね。そう言って彼は静かに微笑んだ。
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