勇者パーティーから追放された召喚士~2000年間攻略されなかったダンジョンを攻略して、伝説の武器や生き物と契約して楽しくやってます。懇願してもパーティには戻りません

250yen

追放されたけど、決闘都市へ着く

高天原たかまがはらに設定された転移ポート。年季の入った石畳の上に複雑な魔法陣が描かれており、その上に僕たちが立つとラクスの魔力に呼応して輝いた。

眩い光に包まれたと思うと、次の瞬間———唐突な目眩と倦怠感に襲われる。視界を覆っていた光がなくなるのと同時にその場に膝をつく。

「うげぇ…ぎもぢわるい……」
「だ、大丈夫ですか!?」

レーヴァが慌てて背中をさすってくれる。

「どうやら転移酔いのようじゃな。転移魔法は魂と物質に関与する魔法じゃ。特殊なスキルを持っているワートは過剰に反応するようじゃな」

どうやら単なる乗り物酔いに近い症状らしい。乗り物酔いって今まで経験したことなかったけど、こんなにしんどいんだね。

「ワート、あっとに座れる場所があるから休憩しよ」

カナミとレーヴァに介抱されながら、目についた台座に腰掛ける。

「ごめんね。私が回復魔法が使えたらよかったんだけど…」

カナミのスキルは【魔法(攻)】。攻撃魔法に準ずるものは完璧に使用できるが、防御や回復といった魔法は使用できない。

「大丈夫だよ。おかげさまで回復してきた」

深呼吸して立ち上がる。先程までいた高天原たかまがはらとは異なり、どこか埃っぽい。

「本当に転移してる……あんな一瞬だったのに」
「決闘都市近くの転移ポートであることはわかっていたが……どうやら霊廟のようじゃな」

ラクス自身、この転移ポートを使用することは初めてだったようだ。海の底とか、辺境の土地に転移しなくて本当によかった。

彼女が霊廟と表現したそこには、獣人を思わせる巨大な壁画が描かれており、以前アネモイの下層で見たものと、どこか共通点を感じさせる。

アネモイダンジョン同様に謎の光源が室内を満たしており、はっきりは見えないものの、空間全体を見渡すことができる。

「ワートも回復したことじゃ。そろそろ出発するぞ」

ラクスの言葉に頷き、彼女について行く。転移ポートが設置されていた霊廟を後にし、階段を登っていく。砂埃が募った階段を静かに登っていくと、次第に外界の光が見えてきた。

「かなり登るね……。それに階段の感じからも、人の手は入ってないみたいだ」
「世界中の転移ポートは2000年前に入念に隠匿しておるからな。生半可なスキルや起源魔法では看破できんようになっておる」

ラクスの説明に頷き、外界へと踏み出すと同時に驚きの光景が視界に飛び込んできた。

見渡す限りの荒野。

天には青い空、地には砂と岩。緑と水はなく、どこまでも過酷な環境が続く。永遠に続くような地平線に、隆起した巨大な岩の数々。風は荒び、山肌を吹き上げるように細かい砂が頬を叩く。

過酷な環境下で生き続ける動物達の気配も人大陸とは異なり、どこか張り詰めていて、常に死と隣り合わせな環境と言える。

どうやらこの転移ポートの霊廟は山の中腹に位置していたようで、特に獣大陸の大自然を感じ取れる。

「獣大陸は乾燥地帯じゃ。雨は少なく、水は常に枯渇し、緑はなく動物達は常に飢えておる」
「この環境で生きている獣人は逞しいと言われるはずですね…」

遥か上空を飛ぶハゲワシを眺める。

「どうかしたのワート?」
「いや、ここが次の冒険の舞台かって思うと、緊張するってよりも、ワクワクしてきちゃって」

「それこそ私の契約者じゃ」と上機嫌にうなずくラクス。

知らない土地というのはいつでも心を躍らせてくれる。

勇者パーティーでは獣大陸に訪れたことはなかった。それに生まれた村やその後働きに出された村でも、毎日が変わらない日々だった。それを思うと、知らない土地に来るっていうのは目的や場所はどうであれ、心躍ってしまう。

「————あの巨大な城壁が決闘都市コロッセウムですか?」

レーヴァは眼下にある巨大な街を指す。

「うむ!あれが数千年間獣大陸の防衛線として機能している決闘都市コロッセウムじゃ!」

ここからでは正確にわからないが、王都の王城に匹敵するほどの巨大な壁。

いつからあるのか、相当な年季は感じるが、何をしても壊れないような不思議な安心感を抱かせる。その巨大な壁はぐるっと円になるように街を囲み込んでいる。

「壁の向こう側に町があるのか…。まるで城壁だね」
「えぇ……でも王都の城壁よりも随分大きい。確かにこんなものが国境にあれば人大陸も迂闊には攻め込めないわね」
「まずは今日中に決闘都市コロッセウムに入り、ワートの闘技大会パラティウム参加を行うぞ」

そうして僕たちは巨大城壁———決闘都市コロッセウムを目指して下山を始めた。

転移ポートの霊廟から歩くこと2時間ほど。決闘都市コロッセウムに到着した。巨大な城壁を目の前にしてひっくり返りそうになるのを我慢しながら関所を通る。

どうやら人大陸との国境線になっている山脈の一部に転移ポートがあったらしく、下山してきた方向と様子から、人大陸代表の参加者一行であると思われたようだ。

加えて闘技大会パラティウム中は獣大陸側の観光客が大勢決闘都市コロッセウムに訪れるようで、街の関所の検問も緩いらしい。

簡単な手荷物検査のみで関所を通れたため、下手な小細工なしで街の中に入れたことは行幸だ。

関所を抜けて城壁の内部に入ると、賑やかな声と街並みが広がっていた。あたりに露天が出ており、様々な冒険者や傭兵が街中を行き来している。ほとんどが獣人だが、一部人間も混ざっている。

「そっそく宿に荷物を下ろしたいところじゃが、忘れないうちにワートの参加申し込みに行くぞ」
「確かネルソンさん経由で申し込みは済んでいるんじゃ?」
「申し込みは終わっているが、到着したことを闘技大会パラティウム運営に伝える必要があるらしい」

「なんでこの私がこんな面倒なことを……」とぶつぶつ文句を言うラクスに苦笑しながら、ネルソンに渡された地図を頼りに運営事務局に向かう。

どうやら運営事務局は決闘都市コロッセウムの冒険者ギルド内部にあるようで、思いの外あっけなく到着した。

扉に手をかけギルド内に入る。獣大陸の冒険者ギルドといえど、人大陸のものと形式はほとんど変わらず、クエスト受発注のカウンターに食堂も併設されている。

周囲から男達の野太い声が鼓膜を揺さぶってくる。大陸は違えど冒険者ギルドの雰囲気はどこも変わらないようだ。

「む、あれが受付じゃな」

クエスト受発注カウントの隣に、闘技大会パラティウム用のカウンターが設けられていた。

四人で近づき、受付のお姉さんに声をかける。

「人大陸側の闘技大会パラティウム参加者様ですか?」
「はい。ワート・ストライドと言います」

僕の名前を聞いてお姉さんが何やら書類を探し始める。獣人特有の耳があるお姉さん。どうやら兎タイプの獣人のようで、長い耳が可愛い。

「ワートは獣耳が好みなんですか?」

お姉さんの動きを眺めていた僕にレーヴァがそっと耳打ちしてくる。

「い、いやぁそう言うわけじゃ……」
「絶対嘘です。さっきから目尻が下がって破廉恥な顔してます」
「うぐ……」

さ、さすが我らがパーティーの風紀委員……。鋭い観察眼をお持ちで。

「獣人コスプレならできるから、して欲しかったら言ってね?」
「き、機会があればね…」

相変わらず僕が喜ぶなら何でもいいカナミ。確かにカナミのケモミミは可愛いと思うけどさ……。

「てか、獣人のコスプレできるってどういう————」
「ワート・ストライド様。お待たせしました」

受付のお姉さんがどうやらお目当ての書類を見つけたようで、カナミへの追求は中断する。獣人コスプレできるってどう言う意味なんだろうか……。

「ソロランクAランクですので、闘技大会パラティウム参加の最低条件は満たしておられます」

いつの間にかソロランクが上がっている。アネモイに入る前はCランクだったのに。竜王討伐の件でネルソンさんが上げてくれたのだろう。

闘技大会パラティウムの概要はご存知ですか?」
「概要ですか……」

言われてみれば、どう言う大会で、どのような参加者がいるか聞いてなかった。これを機会に説明してもらおう。

お姉さんの言葉に否定で返し、説明をお願いする。

闘技大会パラティウムは10年に1度の戦士達による戦いの祭典です。優勝者は人大陸・獣大陸最強の名前が手に入ります。副賞として毎回聖遺物が進呈されます」

あ、聖遺物って副賞なんだ。その聖遺物が今回の目的であり第五迷宮タルタロス攻略に必要なアイテムだ。

「参加資格者は獣大陸8名・人大陸8名の推薦された戦士による戦いです。推薦方法は多岐に渡りますが、直近10年で各大陸で目覚しい功績を挙げた者が推薦されます」
「………それってその八人が大陸を代表した戦士ってことになりますよね?」
「えぇ。そうなりますね」

その返事を聞いて、一旦お姉さんから遠ざかる。

「ちょっと、ラクス集合」
「うむ?何じゃ?」

すっとぼけた顔をしたラクスの肩を掴む。

「僕、いつの間にか大陸の代表になってるんだけど?」
「うむ!私の契約者じゃぞ?大陸の代表でも生ぬるいわ!」

この子に聞いた僕が阿呆だった。一旦ラクスをリリースして、カナミを呼ぶ。

「僕、いつの間にか大陸の代表になってるんだけど?」
「えぇ。ネルソンがかなり渋ったのだけど、竜王を倒した功績と、その他諸々の条件で無理やりワートを代表にさせたわ」

もはや一番の被害者はネルソンさんな気がしてきた。ラクスに凄まれてカナミに脅されたら、どんな要求でも飲んじゃうよな…。

「わかったよ……ここまで来たんだから人大陸代表として戦うよ」
「本当はワートが嫌がるってわかっていたんだけど……。今のワートの実力なら大丈夫。私が保証するから頑張ってね!」

そう言ってカナミは僕の手を握った。僕を信じて疑っていないカナミを見て、自分を信じきれない僕がアホらしくなってきた。

ここまでみんなが信じてくれているんだ。みんなを信用して、僕を信じてみようと思う。

カナミにありがとうと伝え、受付のお姉さんんお元へと戻る。

「ごほん。では、説明を続けますね。闘技大会パラティウムは全部で4回戦です。初戦は明日。2回戦はその2日後。準決勝と決勝戦はその3日後、同日に執り行います」

なるほど。準決勝と決勝戦だけは同日開催っていうのは要注意だな。準決勝で受けたダメージをそのまま持ち越さないといけない。

「なお準決勝と決勝の間での回復魔法の使用等は禁止です」
「ポーションもダメなんですか?」
「はい。回復する行為は一律禁止としております。」

となると闘技大会パラティウムのスケジュールは以下のようになる。

今日:受付
1日後:初戦
3日後:2回戦
5日後:準決勝/決勝戦

各試合の期間も短いしダメージコントロールが重要な大会になりそうだ。魔力はダインの能力で補えるとして、体力が心配だ。

「なお、試合開始時刻15分以内に闘技場に現れない場合は、自動的に敗退となります。ご注意ください」

お姉さんの言葉に頷き肯定を返す。

「ありがとうございました。あ、初戦の僕の対戦相手ってわかりますか?」
「あちらの掲示板に掲載しております」

お姉さんの指さした方向に巨大な掲示板があった。そこに僕の名前もあるようだ。他の有名な参加者もチェックしておこう。

「ちょっと!離しなさいよ!」

お姉さんに感謝を伝えようとした時、背後からカナミの声が聞こえた。慌てて振り向くと、大柄の獣人がカナミの手を掴み上げている。

「な、何ですか貴方達!」

他複数の獣人がラクス、レーヴァ、カナミを囲い込む。獣人のタイプは様々なだけど、全員が男性の獣人だ。

「こんなところで人間の女が何してんだぁ?俺様が遊んでやるよ」

獣人たちのゲスい笑いがフロアに木霊した。









コメント

コメントを書く

「ファンタジー」の人気作品

書籍化作品