勇者パーティーから追放された召喚士~2000年間攻略されなかったダンジョンを攻略して、伝説の武器や生き物と契約して楽しくやってます。懇願してもパーティには戻りません

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追放されたけど、パーティーには戻りません

「まさか、君がここまでの腕だったとはねぇ」

ギルドマスターのネルソンさんは、目を見広げながらそう呟く。

竜王襲来から二日。魔物に破壊されたリードの町は次第に、これまでの様子を取り戻しつつあった。

しかし、破壊された家屋や広場は次第に修復が進む一方で、魔物たちが人々の心に与えた傷は中々癒えるものでもない。町は元どおりになっても、この事件のことは人々の記憶に深く刻まれ続けることだろう。

一方、僕たちはと言うとダンジョンからの脱出後すぐの戦闘ということもあり、あれから宿に戻り休息に努めた。体調もかなり戻ってきたので、ギルドに顔を出したというわけだ。

「ところで、ダンジョンでは何があったんだい?」

「それが全然覚えていないんですよ…」

二千年間も攻略されていなかったダンジョンを一週間程度で攻略したなんて言ったら、信じられないどころか、笑い者にされて終わりだ。

ラクスと話し合って、この件は僕たちの中で止めることにした。僕たちの旅についてくると言って聞かないカナミには、この二日間で大体のことは共有した。

カナミは何があっても僕の味方でいてくれるとラクスに伝えると、快く事情の説明を許可してくれた。

「記憶喪失か…。またダンジョンの新しいギミックが増えたのかもしれないね」

そうですね、と軽く相槌を打っていると売店から3人が戻ってきた。

「どうだった?」

「うむ!ダンジョンで拾った素材は無事換金終了じゃ。これでしばらくは路銀には困らんじゃろうな」

「それでも油断はできません!しっかり財布の紐は引き締めて行かないと」

「むー、ケチケチするでないわ。せっかくじゃ、豪勢な夕食でも——————」

「夕食だったら私が作りましょうか?」

————ピクっ。カナミの発言に思わず体が震えた。

「カナミ、お前は料理ができるのか?」

「えぇ———簡単なものならできるわ。これもいいお嫁さんになるために修行したもの」

後半の方は尻すぼみになって何を言ってるのかわからない。けど、この話は何として中断させなければならない。

「か、カナミ…。料理は別の機会でいいんじゃないかな…?ほら、ラクスの言うとおり外食でも」

「ダメですよワート。夕食を作ってくださるなら、それが一番————ムグっ!?」

最後まで言いかけたレーヴァの口を塞いで、耳元で語りかける。むむ〜と暴れるレーヴァを何とか押さえつけて、話を聞かせる。

「カナミに料理は作らせちゃダメだ————死人が出る」

「っぷは。そ、それほどなんですか…?」

レーヴァの言葉に頷き、協力するようにと念話を飛ばす。

「ワート、どうかしたの?」

「い、いやっ!何でもないよ!そ、そうだお昼ご飯何にしよっか」

無理やりにでも話を逸らす。

過去何度も僕はカナミの料理で死にかけている。ダークマター、ヘルクッキング、悪魔のレシピ———なんて表現すればいいかわからないけど、それに類する料理であることは間違いない。

あのグランですらカナミの料理で生死を彷徨ったんだ。僕は小さい頃から食べているせいで、なぜか耐性がついてしまった。抗体のない生物にとってあの料理は激物すぎる。

カナミが何かを言いかけたとき、ギルドの扉が勢いよく開け放たれた。

「バルディッシュ・ブリーズ卿のご入場である!」

駆け足で入ってきた兵隊が高らかにそう宣言すると、それに続き数多の兵隊がギルド内へと隊列を組み入場してくる。

隊列を成した兵隊たち二列に別れ、その間を扉の向こうから誰かが歩いていくる。

「ブリーズ卿だ————君たち、早く膝をついて!」

ネルソンが慌てたようにそう告げるので、僕たちもそれに従う。

「なぜ私が膝をつかねば、むぐっ————」

大声で文句を垂れるラクスを、カナミとレーヴァが慌てて押さえ込んだ。

隊列の向こうから一人の男性が歩いてくる。白銀の鎧に身を包み、青紫がかった挑発を後ろで束ねた男性。年は30代くらいだろうか。鎧の胸には王都に居を構える王族の紋章が刻まれており、王族か、それに類する高位の貴族であることが窺える。
見たことない人なので、ネルソンさんに小声で尋ねた。

「あの人はバルディッシュ・ブリーズ卿。この国の軍務大臣で、王都内でナンバー3の人物だ。52階層攻略のために先日からこの街にやってきていたんだ」

聞いたことあるような、ないような。そんなもどかしい感覚を覚えていると、ブリーズ卿は僕たちの前で歩みを止めた。

「貴様がワート・ストライドか」

「は、はい!」

貴族相手の話し方なんて全くわからない。慌てながら受け答えしていく。

「貴様が先日この街を襲った竜王を討伐したと聞いた。———よくやった。褒めて遣わす」

「あ、ありがとうございます!」

まさか初めから褒められるとは思っていなかった。全員、立ち上がり面を向くようにと指示されギルド中の人々が立ち上がり、ブリーズ卿に視線を注ぐ。

今にも暴れそうだったラクスが落ち着いたので、後ろの二人もホッと安心したようだ。

「確か勇者パーティーを抜けたのだったな」

「…はい」

さすがは軍務大臣。もうその情報は掴んでいるようだ。雰囲気と言葉尻に圧力を感じるあたり、僕がパーティーを抜けたことが不満なようだ。

「———む、貴様は勇者パーティーの魔法使いではないか。どうしてここにいるのだ?」

後ろのカナミとは面識があったようで、意外そうな面持ちを浮かべる。

「覚えて頂き光栄でございます、公爵様。訳あって勇者パーティーを脱退し、このワート・ストライドと人生を共にしております」

いつもの気の強さとは翻って、気品にあふれた挨拶をするカナミ。やっぱりこう言う人と会話するのは慣れているのだろうか。

うん?待って、人生を共にするってどういう————。

「この度は、貴様たちに命令がありここへ参った」

「命令、ですか…」

嫌な予感しかしないのは僕だけだろうか。これまでの経験上、高圧的な貴族からろくな事を言われた記憶がない。

「ワートさん、あなたには勇者パーティーに戻って頂きたいのです」

ブリーズ卿の背後から聞き覚えのある声が聞こえた。

「その声は———アーシャさん…」

声の主は卿の陰から姿を表すと、怪しげな笑みを浮かべた。

勇者パーティーで僧侶として活躍していたアーシャ・オブリージュ。彼女はこの国の姫であり、聖女として崇拝を集めている。

綺麗なブロンドの髪に、陶器のように白い肌。シミひとつなく美を体現した人物と言っても過言ではないだろう。

しかしその表情から意図は読めず、相変わらず薄気味悪い笑みを浮かべている。

「お久しぶり、いえ————二日ぶりですね」

ボロボロのグランを連れて、どこかに消えていった彼女。僕を勇者パーティーから追い出した彼女が、この後に及んで何の目的があって僕の前に現れたのか。

僕を勇者パーティーから追い出した張本人が、まさか軍務大臣を引き連れてこの場にやってくるとは思わなかった。

「アーシャっ」

「あら、カナミさん。貴女もお久しぶりですね。ワートさんと合流できてホっといたしましたぁ」

思ってもない事言うんじゃないわよ。と吐き捨てるカナミ。その表情は怒りに染まっている。

「自分からワートをパーティーから追い出して、よくそんな事が言えるわね」

「あらあら、あらあら———。彼をパーティーから追い出したのは勇者様のご判断ですよ?」

「貴女ねっ!」

「それ以上の言葉遣い———。次に言った瞬間、その首跳ねる」

憤るカナミにブリーズ卿の殺気が突き刺さる。全身から発せられるその殺気は明らかに貴族が放てる物を逸脱しており、かなりの強さを誇っている事がわかる。

発せられたさっきからカナミを守るように、視線の間に割って入る。

「いいのよ、バルディッシュ。いくら勇者パーティーに所属していたとは言え、この人は田舎出身のただの魔法使い。多少の無礼を許すのも私たちの責務でしょう」

「承知しました、姫様」

ブリーズ卿は手にかけていた剣の柄から手を離し、居直る。

「さて、本題に戻りましょう。ワートさん———勇者パーティーに戻ってくれますね?」

「お断ります」

「————————————————え?」

自信満々に手を差し伸べる彼女は固まったまま、そう言葉をこぼした。

「今の僕には勇者パーティーに戻る理由も、義理もありません」

以前の僕ならいざ知らず、今は素敵な仲間に恵まれている。それにダンジョンの最下層で得た情報————精霊族についても調査していかないといけない。

そもそも魔王が後ろにいる時点で勇者パーティーに戻って、魔王討伐を続けるなんて滑稽にもほどがある。

「な、何を言っているのです?国王の娘、聖女であるこの私が戻るようにと言っているんですよ?」

「だから、それをお断りしますと言っているんです」

目を見て、にっこりと笑みを浮かべる。ラクスの性格が移ったのかな…。何だかとても悪い事をしている気になってきた。

面倒なことになる前に、早くこの場から離脱しよう。

「それじゃ、僕たちは旅の続きがあるので」

固まって動かないアーシャさんの隣を通り過ぎ、ギルドを出た。そこはかとない達成感を感じながらギルドの外で立ち止まる。

「よくぞ、言った!それでこそ、私の契約者だ!」

ご機嫌なラクスと対照的に、不安な表情を浮かべるレーヴァ。

「だ、大丈夫なのでしょうか…。相手は姫様なんですよね?」

「そうね…そこが少し心配かも。あのアーシャって女は、大人しそうな顔してとんでもなく執念深いのよ。変にちょっかいかけて来ないといいけど…」

「なんか、僕のせいでごめん…」

「何言ってんのよ。ワートが言ってくれなかったら私がぶっ飛ばしてたんだから」

カナミの心強い言葉にラクスとレーヴァも頷く。

「ありがとう、みんな」

勇者パーティーを追い出されたから、アーシャさんがムカついたから断ったわけじゃない。

今の僕にはやらないといけないことがある。自分自身のためではなく、誰かのために動きたい。その感情に任せて行動した結果、勧誘を断ったに過ぎない。

空を見上げる。

どこまでも澄み渡るような青空だけが広がっていた。



第1章:完

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