勇者パーティーから追放された召喚士~2000年間攻略されなかったダンジョンを攻略して、伝説の武器や生き物と契約して楽しくやってます。懇願してもパーティには戻りません

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追放されたけど、空を見上げる

何かに突き動かされるように、魔力を込めスキルを起動した。ハッと気がつくと、手に持っていた魔石は消えている。

何が何だかわからないけど、自分の装いの変化に気がつく。

「これは…」

着ていたコートに魔石と同じ真紅のラインが入っているし、ダインの配色も変化している。黒を基調に所々施されていた白の装飾も同様の色に変化していた。

『どうも、あの竜神の力をお前に降ろしたようだな。色々調べたいところだが、どうやら———やっこさんは関係ないみたいだぜ?』

正面には竜族の王と言われる竜王。神話に語り継がれる力を今にも、僕に向かって繰り出そうとしている。

「———手探りで探していくしかないね」

現状、あのドラゴンに傷をつけることができるのは僕しかいない。ラクスの魔法では突破力に欠けるし、人化したレーヴァでも厳しい。

ダインを構え、集中する。

先ほどまでとは打って変わり、心は凪いでいた。周囲の騒音は次第に意識外へと排除されていき、ドラゴンの一挙手一投足に意識が集中していく。

————来るっ!

ドラゴンの動き出しを一歩早く感知し、先手を取る。

「【暴食一閃グラム】!」

竜王が魔法を発動することを予見し、打ち出される前に対魔法攻撃である【暴食一閃グラム】を打ち出す。

これまでと違い、漆黒の魔力波に真紅の稲妻が走る。

その名の通り【暴食一閃グラム】は竜王の打ち出した魔法を一瞬で飲み込んでいく。

「驚いている暇はないよ!」

地面蹴り上げ、敵の元へと駆ける。

体が驚くように軽い。先ほどまでのダメージは抜けただけでなく、自分の体かと疑いたくなるほど思うように体が動く。

先鋭化された意識が先走り、戦闘を予知しなぞるように体を動かしていく。

凄まじい速度と規模で繰り出される攻撃を危なげなく紙一重で回避、防御していく。

————轟音。

竜王は自らの咆吼に魔力を乗せ、こちらの動きを止めようと試みる。しかし、そんなことで怯むわけがない。

足を止めず、手を止めず、思考を止めずに攻撃を続ける。

「はぁぁぁああ!!!」

『はははっ、こりゃすげぇ!魔力が溢れてやがるぜ!』

ダインが上機嫌になるのも無理はない。これまでダインには魔力の節約を言い聞かせていたが、その要望もこの場では意味がなくなる。

————魔力が魂の底から無限に湧き上がってくる。

「ダイン、もっと行くよ!」

『おうよ!』

相棒と息を合わせ、竜王へ攻撃を繰り出す。

時間が何倍にも引き延ばされたような感覚。周囲の全てが遅く感じて、そして、僕だけが早い。思考速度も、行動速度も、全てが一つ上の次元に引き上げられている。

「もっと、もっと————!」

瞬きすら惜しんで、剣を振るう。意識が導くように、竜王の攻撃を躱し弾き、攻め立てる。

『オラよ!食らっときなぁ!』

ダインの言葉と共に、数多の【暴食一閃グラム】が剣戟と共に生み出される。漆黒の斬撃が魔力を食い荒らしながら竜王直撃する。

僅かに後退した敵の反応を確認するや否や、無意識に竜王との距離を詰める。

狙うは————必殺の一撃。

体内の魔力が外へ、外へと出ようと荒れ狂う。膨大な魔力は渦を巻き、とめどなく黒剣に流れ込んでいく。

その魔力と呼応するようにダインの真紅の装飾が鼓動した。

『これなら、奴の鱗なんて目じゃねぇ!行け、ワート!』

竜王の振り下ろされた右手を回避。予測の通り、その攻撃を交わしたこの瞬間、一瞬だけ隙が生じた。

———ここだっ!

身体中の魔力がなくなるほどの魔力がダインへと流し込まれ、真紅の膨大な魔力が吹き荒れる。

「【暴竜一閃グラム・イグニス】!!」

膨大な真紅の魔力を纏った一閃が、竜王を切って落とした。

「———グ————ガッ———」

体に巨大な傷を付けられた竜王は、それでも力尽きず抵抗を示す。が、僅かによろめきその場に崩れ落ちた。

少し間をおき、動かないことを確認して安堵の息をついた。

「————お、終わったぁ…」

ダインを手から話しその場に尻をつき、ゴロンと寝転がる。

久方ぶりの空が見えた。これだけの出来事があったと言うのに、空には雲がいつも通り流れていた。

慌てた様子で駆け寄ってくるラクスに笑顔を向けて頷く。

「ふぅ…どうやら怪我はないようじゃの…。さっきのは一体なんだったのじゃ?」

そう言われ体を見渡しても、いつもと変わらない僕だった。どうやら、その姿はいつの間にかいつもの僕に戻っている。

『俺様にもさっぱりわからねぇが、どうやらその魔石が関係しているようだな』

ダインの言葉で、右手にイグニスの魔石が握られていることに気がついた。

「本当に変なスキルだなぁ…」

とりあえず疲れたので、今回はこれで終わらせておく。

——————ドーンっ。体を起こした矢先、背中に衝撃が襲った。懐かしい匂いが鼻腔を刺激する。

「————カナミ」

「もう、どこにも行かないって約束して」

「僕は———」

「約束してっ!」

珍しく声を荒げる彼女を背中で感じで、自分が大きな間違いをしていたことに気がつかされた。

「………一人で出て行ってごめん。もう、どこにも行かない」

「———うん。分かってるならいい」

これ以上何も言う必要はなかった。付き合いが長い分、カナミの考えていることはわかるし、今回は心配をかけた。今は彼女が満足するまで、背中を貸すことにした。

カナミが落ち着いたのを見計って、なんとか立ち上がる。

「ちょ、カナミ。歩きづらいよ」

「いいの。こんなボロボロになって…支えてあげてるんだから感謝しなさい」

「これ、支えているって言うのかなぁ?」

僕の腕に手を絡ませて、支えていると言い張るカナミに強く言えない僕。なんだか懐かしいやりとりだなぁと感じていると、後ろから不穏な空気を感じた。

「で、そやつは何者じゃ?」

「この女はですね…ワートの幼馴染と言い張って、良いところをすぐに持っていこうとする女狐です」

「ほぅほぅ———それは面白いやつが現れたのぉ。ちょっと面貸してもらおうか、小娘?」

パキパキと拳を鳴らすラクスとレーヴァ。

「何よ、貴女達…とうとう本性を表したのね牛乳うしちち聖剣せいけん。人化できる剣ってだけで怪しいと思ってたけど、私がいない所でワートに好き勝手していたみたいね?」

「う、牛乳うしちちですって!?ふん、私は一人ぼっちになってしまったワートを支えていただけですぅ!」

「いや、お前は燃費悪過ぎてダンジョンの途中からしか使われてなかったじゃろ。すぐに自分の良いように持っていくのぉ牛乳うしちち

「次に私のことをそう呼んだら、貴女たち全員灼き尽くしてあげます」

「へぇ、面白いじゃない。やってみなさいよ。この牛乳うしちち!」

「そこの女狐の言う通りじゃ。元魔王をなめるでないわ!」

「この能天鬼のうてんき!ここは、あの女狐を一緒に倒す流れでしょう!どこまでお馬鹿なんですか!」

「はは、ははは———」

これが姦しいってやつか。

僕が遠い目をしていると、3人の口喧嘩を遮るように誰かの声が聞こえた。

「……本当に久しぶりだな…ワート。ここまで逞しくなっているとは驚かされた」

「ラルクさん!」

二重の意味でラルクさんの登場に嬉しくなる。

ラルクさんは勇者パーティーにいた頃から、お世話になっていたしよく相談にも乗ってくれていた。

「ラルクさんがいるってことは…」

脳内で当然の帰結を導き出す。

ラルクさんの後ろにアーシャさんに支えられたグランがこちらに歩み寄ってくる。

「グラン…」

「けっ…あんなドラゴン、もう少ししたら俺様が倒せていたんだ。余計なことしやがって」

目があった彼は唾を吐き、いつも通りの悪態をつく。

その言葉を聞いたラクスとレーヴァが飛び出しかけるが、手で制してグランへと歩み寄る。

「…いつも通りだね君は。変わっていなくて、ホッとしたよ」

「お前こそ———いつも通りクソみたいな薄ら笑い浮かべやがって。本当に、反吐が出るぜ」

そう吐き捨てて、彼は踵を返した。

そのまま何も言わすに広場を出ていく。姿が見えなくなる瞬間にこちらを振り向いたアーシャさんの姿が、少し印象的だった。

「すまん…あいつなりに感謝を伝えたつもりなんだ」

「分かってますよ。パーティーを追い出されたけど、グランだって人族のために考えていたんでしょうし…」

「それはないと思うが…」

ラルクさんはそう言いかけるけど、僕はある意味でグランを信じている。

彼はいつも自分に正直で、自分で何を貫こうとする人だ。勇者という自分の立場について彼なりに考えもあるだろう。

それに———。

「きっと僕を追い出したのは、アーシャさんだから」

「————気がついていたのか」

「気がつかないほど鈍感じゃないですよ。思い返してみれば、あの時に渡されたレーヴァの鑑定紙は偽装されたものだし、グランがあんな手を込んだことをするわけがない」

彼は自分の直感を信じているからこそ、あんな遠回しな手段は取らない。

「きっとアーシャさんの中で、僕を追い出す理由があったんでしょうね」

「———怒っていないのか?」

ラルクさんの質問に少し考えて、言葉をまとめる。

「怒ってない、というと語弊がありますね。ただ———パーティーを出て良かったかなとも思っています」

ラクスとの出会い、ダンジョンの攻略。あれから色々なことがあった。

「———そうか」

それだけ確認すると、ラルクさんは街の修復を手伝うと言ってギルドの方へ向かった。

最後に「ワート、カナミを頼む。お前を追ってパーティーを抜けたんだぞ」と、爆弾を置いて。

「……そうなの、カナミ?」

僕に抱きつきながら極上の笑みを浮かべ頷く彼女をみて、なぜか空を見上げてしまうのだった。

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