勇者パーティーから追放された召喚士~2000年間攻略されなかったダンジョンを攻略して、伝説の武器や生き物と契約して楽しくやってます。懇願してもパーティには戻りません

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追放されたけど、高天原に辿り着く

『……これは、どういうことでしょうか?』

微動だにしない笑み。

天使様はまるで張り付いたような笑みを浮かべ、ラクスをみる。表情は笑っているが、明らかに神の使いへの冒涜に怒っている。

「私の契約者を、訳わからん魔法で惑わしおって。それが天使のすることか?」

ラクスの言葉にハッとさせられた。

言われてみれば、妙に天使様の言葉を鵜呑みにしていた気がする。

『この者が私へ敬意を感じていただけでは?』

「スキルしか持たない此奴こやつが気がつかない魔法———今で言う【起源魔法】を使ってよく言う」

私にはバレバレじゃ、とラクスが言うと天使様、いや、天使がわずかに表情を崩した。

『———貴女、何者ですか?』

「ふん、言う訳なかろう。ご丁寧にダンジョン攻略者を誘導するために、こんな装置を作りおって」

ラクスの言葉に徐々に雰囲気が変貌していく。

天使の元を離れ、ラクスの近くへと戻る。突然現れた神の使いよりも、ラクスの方が信用できるに決まっている。

『————が』

ぼそっと天使が何かを言った。

『下界の虫けら風情がっ!この熾天使である私に、その口ぶり———神罰を下す!』

「っ!?」

豹変する天使。先ほどまでの態度とは違い、感情を表に出し怒り狂う。

ガブリエルと名乗った天使が、何やら魔法を使おうとした瞬間。

「遅いわ間抜け————【天離法印てんりほういん】」

ラクスが、聞き取れないほどの膨大な詠唱を一瞬で行うと、天使が魔力の立方体に覆われた。

『こ、これはっ!?』

「私の同胞が編み出した対天使封印術式じゃ。しばらく貴様は私たちの手中にいてもらう」

天使にかざした右手をぎゅっと握り込むと、立方体が徐々に縮み始める。

『な、なんだこれはっ!どうして、私の魔法が、天使であるこの私が————』

「虫けらは貴様の方じゃったな。しばらくその虫かごの中で大人しくしておれ」

あっという間に立方体は掌サイズまで縮んでしまった。

「ら、ラクス…これは…」

あまりもの出来事に言葉が出ない。

「このイケ好かない天使を封印したんじゃよ。これは分霊に過ぎんから、本体にはほぼ影響はないじゃろうがな」

「いや、そんなことより————」

「天使様を封印なんてしてよかったのですか!?これを知った天界の神々が怒り狂いますよ!」

僕の言いたいことをレーヴァが代弁してくれた。礼儀正しいレーヴァにとっては、上位存在である天使を封印するなんて、明らかな神への冒涜だ。

「大丈夫じゃ。切り離された分霊の記憶は本体まで反映されん。これで、このダンジョンを攻略した者の情報は天界へ行かないことになる」

地面に落ちたガブリエルの入った立方体を拾う。青色の立方体を覗き込んでもガブリエルの姿は見えない。

とりあえずラクスに手渡す。すると、ラクスの目の前に『穴』が現れ、その中に放り込んだ。

「貴女、アイテムボックスまで使えるのですか!?」

アイテムボックス。様々な物をほぼ無限に収納できるレアスキル。ラクスが使えるなんて知らなかった。

「これも起源魔法じゃよ。さっきの石碑を見て使い方を思い出した」

先ほどからラクスには驚かされっぱなしだ。

「ラクス———全部、話してくれるんだよね?」

戻ったラクスの記憶。天使を封印した理由。その他にもラクスとこのダンジョンは謎だらけだ。

僕の真剣な眼差しを受けて、彼女は頷いた。ついて来いと言われ、ラクスの後を歩く。

「こちらには、何もないようですが…」

少し歩くと、ラクスが立ち止まった。

「———隠しておるんじゃよ」

ラクスが空に手をかざすと、突然、目の前に扉が現れた。

その扉には、この階層に来るまでにあった石碑と同じ文字が刻み込まれている。

「ここが、七大迷宮セブンスタンジョンの一つ。第三迷宮アネモイの攻略者が辿り着くべき真の到達点じゃよ」

ラクスが扉に手を触れると、一人でに開き始める。

「真の、到達点…」

と言うことは、先ほどの台座は本当の到達点ではなかったのだろうか。天界へ案内されるなんて、明らかにダンジョンを攻略した者に相応しい褒美だと思うけど…。

でも、あの天使よりも、契約者であるラクスを信じようと思う。いや、信じたい。それが僕の本音だ。

扉をくぐり、部屋の中へと踏み入る。部屋の中は暗く何も見えない。

「ようこそ———神々の交叉点【高天原たかまがはら】へ」

「———っ」

ラクスがそう言うと、一斉に光が灯った。

人工物と自然の鮮やかな調和が取れた空間が目の前に広がっていた。鳥が囀り、太陽光が滝から流れる水を照らし出す。

白亜の荘厳な神殿。全ての装飾に神々しさを感じるその神殿は、どこか生活空間としても使えそうな雰囲気がある。

僕とレーヴァの驚きを他所に、ラクスは【高天原たかまがはら】と呼ばれたその場所を進む。

「ラクス———これは?」

「このダンジョンを攻略した物が辿り着ける神の居城じゃよ」

神の居城———ってことは…。

「天界ってこと?」

「あんな紛い物と同じにするでないわ」

「ま、紛い物…」

詳しく説明すると言い、ラクスの後をついていく。

見たこともない綺麗な鳥が肩に止まる。

「ワートを気に入ったようですね」

「そう言うレーヴァこそ、動物いっぱい引き連れているじゃないか」

レーヴァの後ろには大量の犬や猫、挙げ句の果てにはライオンまでいる。

「この子たちを世話している人がいるのでしょうか?」

「其奴らは神獣じゃよ。この場の神気じんきをエネルギー源としておる」

「「神獣…」」

ここまできたら、神獣では驚かない僕とレーヴァ。

『俺様、この場所苦手だ…』

先ほどまで黙っていたダインが、ウゲェと声を漏らした。

「お主は特殊な剣じゃからな。しかたなかろう———着いたぞ」

立ち止まると、何やら声が聞こえた。

『ほほう…この子がアネモイダンジョンの攻略者か』

『良い目をしているわね』

『とっても優しそうなんだよね!』

『ふん、人間に頼るなんて俺たちも落ちたもんだぜ』

不思議と心安らぐ声。声色はそれぞれ違うが、どこから僕を歓迎している気がする。

「久々じゃの、お主ら———約束通り、【召喚士】を連れてきたぞ」

ラクスの言葉に、声主達に衝撃が走る。

「「「「〜〜〜〜〜〜〜〜」」」」

四人揃って何やら話し始めるせいで、何を言ってるのかさっぱりわからない。

ラクスに視線をやり助けを求めると、クスッと笑った。

「さて、ワート、お主には話しておかなければならないことが、山ほどある」

ラクスの真剣な眼差しに、頷く。

「これ以上の話を聞けば、お前は引き戻せなくなる。知れば最後、これまでの生活には戻れないと思え」

————これまでの生活か。人生の記憶が走馬灯のように脳裏を駆け巡る。

【召喚】スキルに目覚めて、村を追い出された事。

一人で過ごし続けているところに、勇者グランが現れた事。

勇者パーティーでの生活。

勇者パーティーからの追放。

そして今。

二千年も攻略されなかったダンジョンの最下層に僕は今いる。

このダンジョンでは何度も死にそうになった。ラクスの話を聞けば、それ以上の苦労が襲って来るかもしれない。

だけど、不思議と気持ちは高揚している。

今が一番、僕が僕であると感じる。生きていると感じる。

だから、ラクスの言葉に戸惑いはなかった。

「聞くよラクス」

僕の決心を打ち明ける。

「君がこれから話すことは僕にはわからないけれど、君がこれまで必死に頑張ってきたのは、僕でもわかる。だから協力したいし、協力させて欲しい。それに———」

ラクスを真似て、ニヤッと笑う。

「僕たちは契約で結ばれているんだ。これ以上の遠慮はいらないよ」

「———っ!」

彼女は僕の言葉に驚く。そして———いつものように笑った。

「よし!それでこそ、私の契約者だ!」

「わ、私だって、ワートが協力するなら協力します!」

「ワートが決めたのじゃ。お前は当然じゃろう。牛乳うしちち

キーーーッ!といつも通りの怒るレーヴァ。

『相棒が協力するなら、俺様もやぶさかじゃねぇ』

「ありがとうダイン」

やっぱり僕の相棒は分かっているなぁと安心した。

「では、同意も取れたことじゃ…本題に入るぞ」

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