勇者パーティーから追放された召喚士~2000年間攻略されなかったダンジョンを攻略して、伝説の武器や生き物と契約して楽しくやってます。懇願してもパーティには戻りません

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追放されたけど、未踏破階層を超えていく

————巨大な爆発が第三ダンジョン『アネモイ』の80階層を揺さぶった。

「最高よ…あなたっ!この私をここまで楽しませる人間がいるなんて想像もしてなかったわ!」

「そりゃ光栄だ!」

可憐な女性。しかしその下半身は鱗に覆われ、魚を思わせる姿。伝説の海の怪物セイレーンが命を刈り取ろうと、数多の魔法を発動する。

部屋中に水が満ちており、所々に陸地が存在する。転々とする陸地を高速で移動し、魔法を躱していく。

「ちっ!」

陸地の行き止まり。水辺に逃げた瞬間にセイレーンの餌食になる。逃げ場は———。

「ワート、こっちじゃ!」

後衛のラクスの魔法によって中空に足場が形成された。素早く地面を蹴り上げ、その場を退避する。

『危ねぇ…間一髪だったな』

「そうだね。やっぱりイグニス同様に手強い」

中空の足場に立ち、セイレーンを見下ろす。彼女は水の中からこちらを見上げ、様子を伺っている。

「二千年ぶりに目覚めて、貴方のような子供が私に挑んでくるなんて驚いたけど…全く退屈させてくれないのね」

「僕もまさか、また神様と闘うことになるなんて思わなかったよ」

70階層を攻略してから3日。僕とラクスは凄まじい勢いで各階層を攻略して行った。というより、70階層以降は簡単だった。

まるで僕らをダンジョンの奥へわざと導くように容易に攻略が進んだ。

「ここに来たということはイグニスは貴方に倒されたのでしょう?」

頷いて肯定を返す。

「彼はどうだった?」

こう質問したセイレーンの表情はどこか哀愁に満ちていて、無視することができなかった。

「強かったよ。こう言うのは変だけど、別の場所で会っていたら、気があった気がする…」

「そう…彼も喜ぶと思うわ」

「イグニスとは知り合いなの?」

僕の質問に頷くセイレーン。彼女は少し俯くと、迸らせていた魔力を納め、穏やかな表情を浮かべた。

「二千年ぶりの会話だもの。少し話してもいいわよね…」

彼女の態度に、僕もダインを腰に戻し、ラクスの元へと戻る。

「彼とは神界で親しくしていたの。私は見ての通り海神だもの。基本的には水がない場所にはいけないの」

「神界…」

神界というのは僕らで言う天界のことだろうか。僕らが住う人大陸、魔大陸、獣大陸の上空に浮かぶ巨大な島。それが天界だ。そこには神々の居城があると言われている。

天界には三大陸の中央に位置する『バベル』と言う巨大な塔を登り切ると、到達できる。

「水辺から動けない私を見かねて、彼は毎日のように私のもとに来てくれたわ」

セイレーンは遠い昔を懐かしみ、わずかに涙を浮かべる。

「ほら、彼って素敵な翼があるじゃない?あれで、ひとっ飛びで来ちゃうのよ」

悲しげだけど、どこか楽しそうにイグニスについて話すセイレーン。

「どうして、イグニスとセイレーンはこのダンジョンでボスなんてやってるの?昔は神界にいたんでしょ?」

やはりこのダンジョンは謎が多すぎる。そうして神界にいるはずの神々がこんな地中深くに冒険者を待ち続けているのだろうか。

「そこに関しては本当に覚えていないの。私の中にある唯一の記憶———それが、彼と神界で過ごした日々」

そっか…とそれ以上は質問しないでおく。これ以上質問してもセイレーンは悲しむだけだし、僕にとっては倒すべき対象だ。悠長に感傷に浸っていられない。

「ごめんなさいね。貴方と私は敵同士。そろそろ再開———っ」

「ワートっ!」

「わかってる!」

瞬間、足元から巨大な魔力を感じた。セイレーンのものでもない。それ以上に巨大で、邪悪な魔力の塊。

轟音共に、こちらに向かっている。これは———。

「巨大な魔力砲じゃ!この規模は私でも防ぎきれん!」

80階層よりも更に地下、遥か地中の彼方より強大な魔力の塊が僕らへ向かっている。

「くそっ!障壁が間に合うか———」

「大丈夫よ、ワート。」

セイレーンの声。先ほどまでの声と違い、どこか神々しさを感じさせる神としての声。

「セイレーン、何を言って…」

「イグニスを討ち取った者を、誰かに横取りされてたまるもんですか。私の全魔力で貴方達を守るから」

それだけ言うと、セイレーンはこちらに迫っているモノに匹敵するほどの魔力を迸らせる。

「神威魔法:神水蒼壁」

膨大な魔力によってフロア中の水が、一つの指向性を持って舞い上がる。膨大な水が円球状に僕らを包み込む。

「セイレーンっ!」

障壁の向こうのセイレーンに手を伸ばそうとするが、堅牢な水牢によって阻まれる。水牢の表面には数多の魔法陣が浮かんでおり、人知を超えた魔法が行使されていることがわかる。

セイレーンがこちらを振り向き、静かに笑い、彼女の口がわずかに動いた。

———そして。

轟音と共に、漆黒の魔力が全てを包み込んだ。

幾ばくかの振動が水牢を揺さぶるが、セイレーンの魔力によって構築された水牢はビクともしない。

闇が晴れると、唐突に浮遊感が襲った。

「ら、ラクス、これって!」

「あぁ———また落ちておる!」

一瞬にも永遠にも思える間、地中深くに落ち続ける。そして、底に辿り着くと衝撃が襲う。セイレーンの守りによって、今回も守られた。

ようやく水牢が消え、自由に動けるようになる。

「セイレーンっ!」

慌てて外へ出てもセイレーンの姿はない。その代わり、体が押し潰されそうな魔力を感じた。

「———グゥッ!」

這いつくばりそうになりが、両足に力を込めなんとか姿勢を保つ。

「この我の前で首を垂れぬか———」

魂が震える。たったの一言で、魂が、命が萎縮した。それほどまでに強烈な存在感。声の主を確認する。

高さ15mはあるであろう巨大な体躯。二つの巨大な角を生やし、虫けら見るように相貌が僕を捉える。

「上の階で児戯をしていたであろう?我の断りなく、騒ぐとは愚かな人の子が生まれたモノよ」

「お、お前は…」

「ふむ、我名を問うか。———我が名はイフリート。貴様らの観念で答えると魔神と言うやつだ」

「なっ———」

後ろのラクスから驚きの声が上がる。そうか。ラクスは吸血鬼。魔族である彼女の上位存在がこの魔神か…。

「しかし、貴様らのような蝿が、悪戯といえど、我の攻撃を耐え抜いたのは解せぬな。どのような手品を使った」

イフリートという巨大な魔神の一言は、質問ではなかった。魂を屈服させる命令。そう表現するのがいいだろう。

「セイレーン…セイレーンが守ってくれたんだ…」

「ほう、あの醜女か。神を名乗っておったが、所詮はこの程度であったか」

所詮、蝿は蝿であったな。と吐き捨てるイフリート。

「———って言ったんだ」

「む…?」

セイレーンは確かに敵だった。だけど、彼女は彼女で僕に、向き合ってくれた。短い間だったけど、 彼女の心に触れた気がした。

「貴様、先ほどから何を言っておる」

最後、闇の中に消えていく彼女は僕に———。

「『ありがとう』って言ったんだ!敵である僕に、大好きなイグニスを殺した僕に『ありがとう』って言ったんだ!」

『称号【神を殺すモノ】が機能します』

イフリートの魔力による重圧が一気に消えて無くなった。ステータス音が脳内に鳴り響き、身体中に力が漲ってくる。

僕の全てのステータスがイフリートと同等になったことがわかった。

「全部否定してやる」

怒りで手が震える。

セイレーンはきっと悪い神様じゃなかった。僕たち人間を慈しんでくれる心優しい神様だったはずだ。

その彼女が前触れもなく殺され、二千年も大切な人と離れ離れになった。

何もかもが許せなかった。

彼女を殺した目の前の魔神も、セイレーンやイグニスを閉じ込めているこのダンジョンも、全てを守れない僕も。

「———【幻想召喚】」

召喚スキルを起動する。

理想の自分。自分の大切なモノや守りたいと思った全てを守れる自分。自分の意思を通せる僕を、自身に召喚する。

淡い蒼色の魔力光が僕を包む。イフリートと同等になったステータスを自在に変更する。

「貴様は、一体———」

「僕はワート・ストライド。ただの召喚士だ」

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