勇者パーティーから追放された召喚士~2000年間攻略されなかったダンジョンを攻略して、伝説の武器や生き物と契約して楽しくやってます。懇願してもパーティには戻りません

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追放されたけど、ダンジョンの謎に近づく

「やった…」

あまりもの体力の消費にその場に倒れ伏す。

「ワートっ!」

レーヴァが人化し、慌ただしく駆けつけてくる。

「ふ———この私を倒す人間が現れるとはな…。二千年眠りについてみるモノだ」

イグニスの声に一瞬力が入るが、その声色から敵意はないことを感じ取り、安堵する。

「聖剣、ワートに回復魔法をかけてやれ。私を倒したことで、この階層の制約も解除された。回復が可能だ」

その言葉を聞くと、レーヴァの優しい魔力が僕を包み込む。

———ドンっ!

凄まじい音と共にボス部屋の扉が開け放たれた。 首だけ動かし人影を確認すると見知った少女の姿が見えた。ラクスだ。

階層の制限が取っ払われたことにより、動けるようになったのだろう。

「小僧っ!」

「何ですか貴方は!」

「貴様こそ誰じゃ!私の契約者から———」

『嬢ちゃん!こいつもワートの契約者だ』

危うく仲間割れを初めてしまうところだったラクスとレーヴァをダインが諫めてくれた。

その言葉を聞き、敵意を引っ込めたラクスは心配げな表情を浮かべてこちらにやってきた。そして、膝を付くと僕の頭を撫でた。

「よくやったなワート。貴様の戦いは【召喚】スキルを通じて感じておった。そして、彼奴がこの階層のボスか」

ラクスは立ち上がり、体が徐々に消えかかっているイグニスを見据えた。

「ほぉ…竜神とな。これは久々に見たぞ」

「貴様はっ————くそ、記憶にモヤがかかってうまく思い出せん…しかし、知っているぞ、私は貴様に会ったことがある」

「安心しろ。私もだ!貴様が竜神であることは思い出せるのに、なぜ知っているのか、どこで知ったのか、さっぱり思い出せん!」

何もいばることじゃないのに、偉く堂々としているラクス。

「しかし、私以上にこのダンジョンについては知っておろう?消えるまで可能な限り情報は吐いてもらうぞ」

「ふ、好きにしろ。そこの小僧は神である私を倒したのだ。ワートの望みであれば、できる範囲で答えてやる」

「そ、それじゃいくつか…」

何とか四肢に力を込めて立ち上がる。レーヴァが止めるけど、大丈夫と告げる。このダンジョンを攻略すると決めたからには、可能な限り情報が欲しい。

「まず、この階層は二千年間一度も誰も到達していないはずだ。だけど、この階層に来る前に人骨があった」

「ふむ…まずはワート、貴様の思い違いを指摘しておこう。この階層に足を踏み入れていないのは、二千年ではなく、千年だ。お前たちは1000年ぶりの来訪者だ」

イグニスはそこまで言うと、少し笑った。

「しかし以前の攻略者達は、この階層がたった一人でしか攻略できないことを見抜けなかった。その結果、私に挑むことなく死んでいったがな」

なるほど。ボス部屋に入るには一人でないといけない。この原則を突破できたのは僕が初めてなのか。

「地上では現在51階層までしか攻略が進んでいない。だけど1000年前の地点で、ここまで攻略が進んでいたことになる…。この原因は何なんだ?」

「それは私も知らぬところだな。しかし、1000年ほど前、このダンジョンに異変があったことは覚えている」

「異変?」

「私の目覚めはこの部屋の扉が開くことでしか、解除されない。しかし、あの時ばかりはわずかに意識が覚醒した」

このボス部屋の仕組みはわからないけど、確かに僕たちがここに入るまでイグニスは眠りについていたように思う。

「揺れたのだ。このダンジョンが、いやこの世界が、と言ったほうがいいか」

「揺れた?」

「地殻変動なのか、何なのかさっぱりわからぬが、巨大な振動だ。まるでこの世界そのものが揺れ動いたような」

地震なのだろうか。その揺れが何なのかさっぱりわからないが、とにかく1000年前に何かが起きたことは間違いなさそうだ。

「そして目覚めた———。イグニス、もう一つ聞きたいことがある。このダンジョンは人工物なの…?」

「それは————グガッ!?」

突然、イグニスが苦しみ始める。先ほどまで徐々に魔力化していた体が急激に分解され始める。

「どうやら、このダンジョンの禁忌事項に触れようじゃの!」

そうか。意思を持つボスには提供できる情報の限度が設置されているんだ。

「わ、ワート!私の魔石を持っていけ、うまく使用すれば強力な武器になる。その上、来たるべき時に———」

最後まで言い切らずに、イグニスは消え去ってしまった。

『なんだか歯切れの悪い別れだったな…』

「そうだね…。きっと出会う時と場所が違えば、分かり合えたかもしれない」

ボロボロの体を鞭打ち、イグニスの魔石を手に取る。

これまで見たことのないような純度の魔石。この掌に収まる大きさの石に、強大な魔力が込められていることがわかる。

「しかし、あの竜神への処遇をみるに、このダンジョンが誰かしらの手によって制作されたことは間違い無いのではないか?」

「そうだね…僕もそう思う。それにこの階層の特殊な環境。これはきっとイグニスが設定したモノだ」

ボスの好みを階層に反映させるなんて、果たして自然に起こり得るモノなのだろうか…?そんなはずはない。きっとイグニスの意思を誰かが反映させたに違いない。

「確かにそうですね…」

レーヴァがそう呟くと、突然ラクスから不穏な空気を感じ取った。

「むむ、ワートよ。それにしてもこの女はなんだ?」

「この女とは、失礼な吸血鬼ですね。私はワートの愛剣。聖剣レーヴァテインです」

レーヴァが僕の腕に手を絡めてくる。

「あ、あの…レーヴァ、胸が」

レーヴァの豊満な胸が僕の腕に触れる。

「ふふ…頑張ったワートにご褒美です」

僕の反応を見て、レーヴァがさらに胸を押し付けてくる。心なしか体力が回復したかもしれない。

「ほ、ほほーう。そうか、そうか。この私が有りながら、そんな牛乳うしちちに鼻の下を伸ばすのか」

『おいワート。あの嬢ちゃん、馬鹿みたいな魔力垂れ流してるけど、大丈夫なのか…?』

ダインに全力で、大丈夫じゃないと念話を飛ばす。今すぐ逃げ出したいけど、体は疲労で動かないし、それにレーヴァの腕が想像以上に強く僕に絡みついている。

「確かに私はこの階層で役立たずじゃったよ?でも、私じゃって頑張ったもん」

「わかってるよ!わかってる!ラクスが頑張ってくれたのもすっごく伝わってるよ!」

「そうか、本当か!」

ラクスは眩しいほどの笑顔を浮かべる。

良かったと一安心すると、グイッとレーヴァに腕を引っ張られた。

「ふーんだ。私とワートは一緒の布団で寝た仲ですもんねぇ?」

レーヴァが張り付いた笑みを浮かべて僕の顔を覗き込んでくる。

「あれはみんなが寝ている時に、レーヴァが忍び込んでっ!」

ほほう、とラクスはレーヴァの言葉を鼻で笑った。

「一緒に寝ただけじゃと?舐めるなよ、私はワートと手を結んだのじゃ!」

「「………?」」

何やら自信満々に言い張るラクス。しかし、彼女の言葉に僕とレーヴァは首を傾げる。

「ら、ラクス、何を言って———」

「手を結んだと言うことは、結婚に同意したと言うことじゃからな!牛乳女が一緒に寝ようが何も関係ないわ!」

わーはっはっ、と声高々に笑うラクス。顔から血の気がひいたレーヴァが耳打ちしてきた。

「もしかして、あの吸血鬼…性的知識というか、男女関係とか全く知識がないんですか…?」

「ど、どうやらそうみたいだね…?もしかしてラクスが生きた時代と今の常識が違うのかも」

引きつりながら、そう返答する。

ここは今後ラクスと関わるにあたり重要な部分になるぞと思い、質問することにした。

Q. キスってなんですか?
A. 契約するための儀式じゃな。それ以外の感想はないな。

Q. 子供はどうすればできますか?
A. 伝説の魔物フェニックスが運んでくるぞ!

Q. 結婚はどうすれば成立しますか?
A. て、手を繋いだら成立するに決まっておろう?

Q. 手を繋ぐ、とはなんですか?
A. お互いを理解しあった男女が、じゃな…。こう、愛の終着点というか…。

「は、はは…」

もはや乾いた笑いしか起きない。どうやらラクスの中ではキスよりも、手を繋ぐほうが遥かに恥ずかしいモノらしい。

「手を繋いだのじゃ、私とワートはふ、深く結ばれておる」

珍しく、しおらしいラクス。少し可愛いと思ってしまったのはここだけの秘密だ。

「ワート、今すぐこの能天気吸血鬼、今すぐ成仏させていいですか?」

今にも魔法を発射しそうなレーヴァをなんとか止める。魔法を打つ代わりに、このダンジョンを脱出したら、急いで彼女に現代の性知識を教えることをお願いした。

三人で話していると、ボス部屋の奥に巨大な階段が出現していることに気がついた。

「僕の体力が回復し切ったら、次の階層におりよう」

ゆっくりしている暇はない。いち早くこのダンジョンを攻略して、地上に出るんだ。

二人の合意を取り、しばらくの休憩を過ごした。

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