勇者パーティーから追放された召喚士~2000年間攻略されなかったダンジョンを攻略して、伝説の武器や生き物と契約して楽しくやってます。懇願してもパーティには戻りません

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追放されたけど、未踏破階層に辿り着く

「いたた…」

『大丈夫かワート、嬢ちゃんの魔法がなければ即死だったぜ?』

ダインの声で意識がはっきりと戻ってきた。ラクスに感謝しないと。

体を起こすと、ラクスは少し離れた岩に座っている。どうも表情が険しい。

「ありがとうラクス、おかげ助かったよ。ところでここは…?」

自分とラクスがいる周囲を見渡すと、大小様々な岩が隆起し、その隙間から青白い光が漏れている。おそらく岩に魔力が取り込まれ、蒼く発光しているのだろう。

「ダンジョン、というより洞窟っぽいね…どこまで落ちたんだろう…?」

あのウサギを追って壁に入った瞬間に襲われた浮遊感。落ち続けた時間を考えると相当下まで降りたことになる。

突然、何者からの視線を感じた。警戒を厳にし、腰に携えたダインに手をかける。ラクスも感じたようで、僕のもとへとやってきた。

『ワート、私から離れるな…魔物じゃ』

突然、ラクスから念話が届き、彼女に目配せする。ラクスの表情から、視線の主はかなり上位の魔物である事がわかる。

腰からダインを抜き構えるが、僕を手で制すとラクスは首を振った。どうやらここは手を出すなという事らしい。

ラクスと僕のレベル差は理解している。彼女が警戒するほどの魔物であるなら、僕が相手するのは厳しい可能性がある。

『来るっ、そこから動くでないぞ!』

彼女は僕へ手をかざすと、僕の足元に真紅の魔法陣が展開された。膨大な魔力と見たことのない魔法陣。これまで様々な魔法陣を見たが、彼女のそれはどれにも分類されない。不可解で理解できないが、どこか規則的な美しさを感じさせる。

足元の魔法陣から障壁が展開され、僕を包み込む。

———瞬間、ラクスが消えると同時に強大な衝撃波が周囲に駆け巡った。その衝撃波は一度に止まらず、幾度も発せられる。かなりの速度だけどかろうじて眼で追う事ができる。

中空。ラクスと魔物が戦闘を繰り広げる。

その見たことのない魔物は漆黒の鱗に、巨大な両翼を広げ咆哮を上げる。

「久々に昂ってくるのぉ!」

ラクスの背後に魔法陣が複数個展開される。一つの魔法陣が幾重にも重なり合い、それぞれが一つの魔法を現出させる。

ある陣は巨大な炎を、ある陣は激しい雷撃を。それぞれが独立して操作され、時間差で魔物へ直撃する。

しかし爆炎の向こうにまだ魔物が健在である事が確認できた。

「久々にいい運動をしたぞ、そろそろ———ね」

ラクスの声と共に、爆炎を突っ切って魔物が壁に叩きつけられた。隆起した岩石に体が突き刺さった魔物は、音もなく魔力となって霧散した。

「ふぅ…これで大丈夫じゃな!ワート、魔物から見つからないよう結界を張るぞ。一旦、そこで作戦会議じゃ」




ラクスが魔除の結界を展開し、その中で一息つく。

「さっきの魔物は?」

「竜人、又の名をドラゴニュートじゃ。お主には後者の方が馴染み深いかもしれないな」

「ド、ドラゴニュートっ!?ドラゴニュートって言ったら、最上位ダンジョンに出てくる半ば伝説の魔物じゃないか!」

物語でしか存在を聞いたことないような魔物が普通に現れるなんて、ここはいったい…。

「あれは下っ端じゃ。上位のドラゴニュートじゃと、こうは行くまい。私でもちょっと本気を出す必要が出てくる」

むしろさっきの戦闘でもラクスの全力じゃないことに驚きだ。

「結局のところここは何階層なんだろう…ドラゴニュートがいるなんて、最低でも40階層くらいじゃないと説明がつかないよ…ん?」

様々な思考を巡らせていると、ラクスが結界を張った岩場の影に、何かがあることに気がついた。不思議に思い近づいてみると———そこには白骨死体があった。

「ラクス!こっちきて!」

慌ててラクスを呼び、彼女にも発見したものを見てもらう。

「これは…骸骨じゃな…それもここまで綺麗に白骨化するとなると、相当前の物じゃろう」

『見た目は魔法の職業って感じだな』

骸骨はボロボロのローブを被り、所々に錆び付いたアクセサリーを身につけている。視線を横にズラすと骸骨の脇に一冊の本が転がっていた。

表紙には見たことのない文字列が記載されている。

「ダイン、これ読める?」

『うーん、俺様もこれは読めないな…文字の形から考えると、嬢ちゃんが封印されていたダンジョンの文字と似てる部分はあるな』

本を拾い上げ開く。そこには本の主であろう骸骨が書いたであろう文字が記されていた。しかし、僕が理解できる文字ではない。見たこともない文字なので、別の大陸の文字か、大昔に使われていた文字なのだろう。

「これは、こやつの手記じゃの」

「ラクス、この文字読めるの?」

「なんとなくじゃが、理解できる。おそらく此奴はこのダンジョンに挑んだ冒険者のようじゃな」

ラクスは僕から手記を受け取ると、ざっと目を通すとこう読み上げた。

—————————————————————————————————————————

神歴:610年

私達は、ここまできた。

このダンジョンが発見されて既に600年。我々人族はここ70階層まで攻略をようやく進めることができた。長かった。本当に長かった。

無数の血が流れた。数多の命が失われた。

なぜ、これほどまでにダンジョンの攻略に時間を有しているのか。100階層あるこのダンジョン、これほどまでに攻略に時間がかかるものなのだろうか。

確かに、魔物は強い。ダンジョンも広大である。

しかし、しかしである。

600年もの歳月をかけ、攻略できないものなのだろうか…。

否。否である。

我々、人族が英知を結集させて攻略挑んでいるのだ。

これほどまでに攻略に時間を有すること。それ自体が不自然なのである。

私はここに、このダンジョンの違和感・・・を覚える。

ダンジョンは自然に発生したものと言われている。一方で、ここまで我々、知性を持った生命体を翻弄するほどの装置に、自然に、偶発的になり得るのだろうか。

これも否である。

このダンジョンには明らかな製作者・・・の意図が感じられる。

根拠もない。理由もない。例示もできない。

しかし、私はここに確かに「人工的な神」を見るのだ。

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「手記はこのページで終わっておるな…他のページも見たが、おそらくこの最後の部分が現在、最も必要な情報であることは間違いないの」

「そうだね。どうやらここは、未踏破階層である70階層みたいだ」

現在位置がわかったことは僥倖だ。

「そうじゃの…。この手記…疑問が絶えないの。まず、どうして70階層に人がいるんじゃ…?私たちのように謎のトラップで落ちてきたわけでもない。この者は間違いなく、純粋にダンジョンを攻略してここまでやってきておる」

「現在の最高攻略階層は51階層のはず。それに、今は、神歴2000年———ダンジョンが誕生して2000年経過してる。手記が本当に正しいのなら、この人は1400年前にはこの70階層に到達してる」

どうして、今よりも攻略階層が多いのか。この1400年の間に深い層での戦闘を行える冒険者が減ったのだろうか…?

それとも———。

『どこかのタイミングでダンジョン攻略が、振り出しに戻ったか、だな』

ダインの言葉を噛み砕き、考えてみるが、そんなこと起こり得るはずがない。人族全てがこのダンジョンを攻略したいと願っているんだ。それを振り出しに戻すなんて、不可能だ。

「それに、この製作者・・・というのも、気になるのぉ…。なるほど、このダンジョン、自然に生まれたわけでなく、人工物の可能性があるんじゃな」

「そうだね。ただ、このダンジョンが人工物だろうがなんだろうが、やる事は変わらない。今はここの脱出を考えなきゃ。まずは上層への移動階段を探して…」

ダンジョンは攻略された階層なら行き来は自由だ。各階層のどこかにある階段を見つければ、それで移動ができる。

「ワート、ここで残念なお知らせじゃ。この70階層、上層への移動方法がない」

———ガツンっ!今のラクスの言葉で後頭部を殴られてたような衝撃が走る。

「この階層に落ちて、お前が気を失っている間に私の魔法でこの階層全てを探知した。結果、あるのは下層への階段のみで、上層への移動方法はない」

「ほ、ほんと…?てことは、地上に戻る方法は———」

「100階層へ進み、このダンジョンを攻略する他ない」

どうやら僕は、2000年攻略されなかったダンジョンに挑む必要があるようだ。

———ドサッ

突然、ラクスが倒れた。

「ラクス、大丈夫!?」

「だ、大丈夫じゃ…。しかし、魔力が…」

『なぜかわからないが、嬢ちゃんの魔力が垂れ流しになってやがる。いくら魔力量が多い嬢ちゃんでもこのままじゃヤバイな』

ラクスは顔を紅潮させ、息苦しそうに悶える。ラクスを抱き抱え、岩陰に移動させる。

「ラクス、この結界は維持できる?」

「この結界なら何とかなりそうじゃ…。しかし、ワート…」

「大丈夫だから。この階層は僕だけで攻略する。ラクスはここで待ってて」

ラクスに心配かけないために、僕はダインを手に結界を飛び出した。

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