勇者パーティーから追放された召喚士~2000年間攻略されなかったダンジョンを攻略して、伝説の武器や生き物と契約して楽しくやってます。懇願してもパーティには戻りません
【sideカナミ】追放された幼馴染を探して
「さて、まずは情報を集めないといけないわね」
ワートがパーティーを追放されて今日で10日目。
カナミは10日かけて魔大陸から人大陸に戻ってきた。今は魔大陸との交流地点街リードのとある宿に居を構えていた。
「魔大陸でワートが助けた男に行き先を聞いておいて正解だったわ」
勇者パーティーを自ら抜け出した彼女は、まずワートに命を救われた男、ハインツの元へと向かった。
ハインツを締め上げ———もとい、質問したことでワートの行き先が人大陸であることを知った彼女は、得意の魔法をぶっ放しながら魔大陸から人大陸へ渡った。
「きっとワートのことだし、一人で寂しがってるに違いないわ!すぐに合流してあげないと」
すでにカナミの脳内にはワートと合流した後の想定は完成している。合流後の行程は以下の通り。
1. 合流する
2. 二人で生活する
3. 結婚する
4. 子供は4人
5. 末長く幸せに暮らす
「完璧!」
端から考えれば完全にアホなのだが、彼女の脳内では完璧な方程式に基づいて算出された狂いようのない計算結果なのだ。
元来彼女は聡明で冷静な性格だ。勇者パーティーでも主に作戦立案、後方からのパーティー陣形の指示などを行っていた。そう、彼女は優秀なのだ。ワートのことになると、少し本能というか、本音的なものが溢れるだけ…なのだ。
「この街に着いてワートがする事といえば、確実にギルドでのクエスト受注かギルドカードの更新———もしくは面白そうな話を聞いてダンジョンにいくかね…」
カナミの脳内には完璧なワートが構成されているため、彼の行動、思考がほぼ全て筒抜けになっている。
「とりあえずギルドに向かうしかないわね」
彼のことを思いながら、カバンを手に宿を後にした。
リードの街は冒険者の街であり、魔大陸との接点にもなる交流都市だ。そのため、魔大陸産の特殊な武器や防具、そのほかにも人族と魔族の文化が微妙に混ざり合い独自の文化を形成している。
賑やかな街中では様々な露天があり、至るところで客引きが行われている。
カナミがギルドに向かっていると、幾つもの家屋が破壊されており、その修繕現場に遭遇した。
「何かが突き抜けたみたいに壊されてるわね…ちょっとあなた。ひどい荒れようね、魔物でも街中に入ったの?」
「ギルドから人が吹っ飛んできたらしいですよ」
破壊現場のすぐ横にあった露天商の女の子がそう答えた。
「なんでもギルドに迷惑をかけていた冒険者が小さな女の子に吹き飛ばされたみたいです」
「吹き飛ばすにしても、こんなに飛ぶものなの…?」
ここからギルドだと500mくらいは距離がある。何が起きたのかわからないが、とりあえず分かることは吹き飛ばされた男が生きてはいないことだろう。
「ありがとう」と伝えて、ギルドへと足を進める。
———相変わらず、人が多い街は視線が鬱陶しいわね…
カナミが街中を歩くと、すれ違う男達はほぼ必ず彼女に振り返っていく。男性だけでなく、女性も彼女に釘付けになる。
カナミは美少女である。それもとびっきりの。
彼女もそのことは理解しているし、利用している。整った顔は人生を有利にすることくらい幼少期には気がついていた。
しかし、どんな顔であろうとワートに気に入ってもらえなければ意味がない。ワートに気に入ってもらえるなら、どんな醜い顔にだってなるし、悪魔にだって魂を売る。
———ワートに気に入ってもらえないと意味がない。それが彼女の自分への本心である。だから美容にだって気を使うし、彼のタイプになろうとする。
「ワートに会いたい」
自然とそう出た。
いつも彼に会いたいし、いつも彼と一緒にいたい。常日頃からそう考えている彼女であるが、ふと、ワートの事を考えたせいで我慢していた思いが溢れた。
ここ1年は毎日彼と一緒にいたのに、10日も会えないなんてカナミにとっては死活問題であり、我慢ならない事柄だ。
「誰に会いたいだって?もしかして僕のことかな?」
「貴方なわけないでしょ、ネルソン」
ギルドへの道中、背後から軽薄な笑みを浮かべた男が現れた。
「久々の再会なのに、相変わらずツレないなぁカナミは」
カナミは、ネルソンの相変わらずの笑みには嫌気がさすが、ワートの情報を得るためにグッと我慢した。
———こいつはこれでも、ギルドマスターよ。何か情報を持っているはず。
「もしかしてワート君をお探しかな?」
「———ッ!?ワートを見たの!?」
思わず大声が出てしまったことに気がつき、慌てて口をつむぐ。知らない人に見られるのは、まだ我慢できるが、軽率口軽男ネルソンに見られたことが恥ずかしい。
「相変わらず彼の話のときは可愛い反応するねぇ。いいよ、情報をあげるから、とりあえずギルドへ向かおう」
ネルソンの提案にうなずき、彼とギルドへと向かった。
ギルドマスター室へ通され、ソファーに腰掛ける。
「貴方本当にギルドマスターだったのね…」
「失礼だなぁ、これでも仕事は真面目にやっているんだよ」
ギルドマスター室はこれまでの歴任者が使用しており、それなりの歴史を感じさせる。壁いっぱいの本に、古い壁掛け時計が印象的だ。
「それで早くワートの情報を教えてちょうだい」
時間がないのよ、とイライラした様子でネルソンにカナミは迫った。
ただでさえ、お人好しのワートだ。この10日で降って湧いたような女に懐かれて惑わされる可能性がないわけでもない。
———早く合流して私が守らないと。
この感情を一般的に嫉妬というのだが、彼女は元来の優秀さから自分が嫉妬していることに気がついていないようだ。
「教えるのはいいけど、何もタダで教えるなんて言ってないよ…?僕のお願いを聞いてくれるなら教えてあげても———」
「いいから、さっさと教えなさい」
カナミの我慢の限界も近いようだ。膨大な魔力がギルドを包み込む。
「いいのかい、そんな態度取って。彼、女の子と一緒にいたよ?」
「———え」
カナミの動きが止まった。
明らかに予想外の衝撃だったようで、ネルソンはここまで戸惑うカナミへの驚きと、興味深さを覚えた。
「僕からの依頼を受けてくれるなら、ワート君の情報を可能な限り渡そう」
「———やるわ」
即答。ネルソンはニヤリと笑うと、
「勇者パーティーの大魔導師にそう言ってもらえて嬉しいよ。でもいいのかい、依頼の内容を聞かなくても?」
「いいわ、なんだってやるわよ。その代わり早くワートの情報を教えて、特に一緒にいた女について教えて」
目がすわっているカナミに軽い恐怖を覚えたネルソンは、これ以上引き延ばすのは下作だと判断した。
「ワート君は今、ダンジョンに潜ってるよ。今、町で噂の黄金のウサギを探しに行った」
「黄金のウサギ…」
ワートとウサギ。カナミの中でウサギと戯れているワートが現れる。将来一緒に過ごす時のペットはウサギがいいかもしれない。
「ウサギと言っても魔物なんだけどね。王都で高額で懸賞金がかけられていてね。それを狙って昨日ダンジョンに向かったよ」
「昨日…ということは今日はギルドに来ていないのね?」
「そうなるね。彼の宿は受付のエリナが聞いたらしいから、あとで聞くといいよ」
———受付のエリナ…この女もあとでチェックした方がいいかもしれないわね。
嫉妬深いカナミであるが、彼女自身、ワートを縛りつける気は一切ない。ただ、自分とワートの幸せな生活に入り込む邪魔者を把握しておく必要があるとは思っているに過ぎない。
「それと依頼だけど、それは追って僕から連絡するよ。今はワートくんを探したいでしょ?」
「気遣い感謝するわ」
少しネルソンの事を見直したカナミは、聞き忘れている事を思い出した。
「そのワートと一緒にいる女って何者?パーティーを組むならギルドカードあるはずよね」
「いや、パーティーじゃないみたいだよ。あくまで彼はソロみたいだ」
その一言に安堵の息をつく。パーティーじゃなければ、どのみちすぐに別れることになるだろう。
「ただ、気になったことがあってね…僕のカンだけど、あの子、魔族だよ。それも超上級のね」
ネルソンの一言でカナミは察した。
———また貴方、厄介ごとに首突っ込んだのね…。
ワートがパーティーを追放されて今日で10日目。
カナミは10日かけて魔大陸から人大陸に戻ってきた。今は魔大陸との交流地点街リードのとある宿に居を構えていた。
「魔大陸でワートが助けた男に行き先を聞いておいて正解だったわ」
勇者パーティーを自ら抜け出した彼女は、まずワートに命を救われた男、ハインツの元へと向かった。
ハインツを締め上げ———もとい、質問したことでワートの行き先が人大陸であることを知った彼女は、得意の魔法をぶっ放しながら魔大陸から人大陸へ渡った。
「きっとワートのことだし、一人で寂しがってるに違いないわ!すぐに合流してあげないと」
すでにカナミの脳内にはワートと合流した後の想定は完成している。合流後の行程は以下の通り。
1. 合流する
2. 二人で生活する
3. 結婚する
4. 子供は4人
5. 末長く幸せに暮らす
「完璧!」
端から考えれば完全にアホなのだが、彼女の脳内では完璧な方程式に基づいて算出された狂いようのない計算結果なのだ。
元来彼女は聡明で冷静な性格だ。勇者パーティーでも主に作戦立案、後方からのパーティー陣形の指示などを行っていた。そう、彼女は優秀なのだ。ワートのことになると、少し本能というか、本音的なものが溢れるだけ…なのだ。
「この街に着いてワートがする事といえば、確実にギルドでのクエスト受注かギルドカードの更新———もしくは面白そうな話を聞いてダンジョンにいくかね…」
カナミの脳内には完璧なワートが構成されているため、彼の行動、思考がほぼ全て筒抜けになっている。
「とりあえずギルドに向かうしかないわね」
彼のことを思いながら、カバンを手に宿を後にした。
リードの街は冒険者の街であり、魔大陸との接点にもなる交流都市だ。そのため、魔大陸産の特殊な武器や防具、そのほかにも人族と魔族の文化が微妙に混ざり合い独自の文化を形成している。
賑やかな街中では様々な露天があり、至るところで客引きが行われている。
カナミがギルドに向かっていると、幾つもの家屋が破壊されており、その修繕現場に遭遇した。
「何かが突き抜けたみたいに壊されてるわね…ちょっとあなた。ひどい荒れようね、魔物でも街中に入ったの?」
「ギルドから人が吹っ飛んできたらしいですよ」
破壊現場のすぐ横にあった露天商の女の子がそう答えた。
「なんでもギルドに迷惑をかけていた冒険者が小さな女の子に吹き飛ばされたみたいです」
「吹き飛ばすにしても、こんなに飛ぶものなの…?」
ここからギルドだと500mくらいは距離がある。何が起きたのかわからないが、とりあえず分かることは吹き飛ばされた男が生きてはいないことだろう。
「ありがとう」と伝えて、ギルドへと足を進める。
———相変わらず、人が多い街は視線が鬱陶しいわね…
カナミが街中を歩くと、すれ違う男達はほぼ必ず彼女に振り返っていく。男性だけでなく、女性も彼女に釘付けになる。
カナミは美少女である。それもとびっきりの。
彼女もそのことは理解しているし、利用している。整った顔は人生を有利にすることくらい幼少期には気がついていた。
しかし、どんな顔であろうとワートに気に入ってもらえなければ意味がない。ワートに気に入ってもらえるなら、どんな醜い顔にだってなるし、悪魔にだって魂を売る。
———ワートに気に入ってもらえないと意味がない。それが彼女の自分への本心である。だから美容にだって気を使うし、彼のタイプになろうとする。
「ワートに会いたい」
自然とそう出た。
いつも彼に会いたいし、いつも彼と一緒にいたい。常日頃からそう考えている彼女であるが、ふと、ワートの事を考えたせいで我慢していた思いが溢れた。
ここ1年は毎日彼と一緒にいたのに、10日も会えないなんてカナミにとっては死活問題であり、我慢ならない事柄だ。
「誰に会いたいだって?もしかして僕のことかな?」
「貴方なわけないでしょ、ネルソン」
ギルドへの道中、背後から軽薄な笑みを浮かべた男が現れた。
「久々の再会なのに、相変わらずツレないなぁカナミは」
カナミは、ネルソンの相変わらずの笑みには嫌気がさすが、ワートの情報を得るためにグッと我慢した。
———こいつはこれでも、ギルドマスターよ。何か情報を持っているはず。
「もしかしてワート君をお探しかな?」
「———ッ!?ワートを見たの!?」
思わず大声が出てしまったことに気がつき、慌てて口をつむぐ。知らない人に見られるのは、まだ我慢できるが、軽率口軽男ネルソンに見られたことが恥ずかしい。
「相変わらず彼の話のときは可愛い反応するねぇ。いいよ、情報をあげるから、とりあえずギルドへ向かおう」
ネルソンの提案にうなずき、彼とギルドへと向かった。
ギルドマスター室へ通され、ソファーに腰掛ける。
「貴方本当にギルドマスターだったのね…」
「失礼だなぁ、これでも仕事は真面目にやっているんだよ」
ギルドマスター室はこれまでの歴任者が使用しており、それなりの歴史を感じさせる。壁いっぱいの本に、古い壁掛け時計が印象的だ。
「それで早くワートの情報を教えてちょうだい」
時間がないのよ、とイライラした様子でネルソンにカナミは迫った。
ただでさえ、お人好しのワートだ。この10日で降って湧いたような女に懐かれて惑わされる可能性がないわけでもない。
———早く合流して私が守らないと。
この感情を一般的に嫉妬というのだが、彼女は元来の優秀さから自分が嫉妬していることに気がついていないようだ。
「教えるのはいいけど、何もタダで教えるなんて言ってないよ…?僕のお願いを聞いてくれるなら教えてあげても———」
「いいから、さっさと教えなさい」
カナミの我慢の限界も近いようだ。膨大な魔力がギルドを包み込む。
「いいのかい、そんな態度取って。彼、女の子と一緒にいたよ?」
「———え」
カナミの動きが止まった。
明らかに予想外の衝撃だったようで、ネルソンはここまで戸惑うカナミへの驚きと、興味深さを覚えた。
「僕からの依頼を受けてくれるなら、ワート君の情報を可能な限り渡そう」
「———やるわ」
即答。ネルソンはニヤリと笑うと、
「勇者パーティーの大魔導師にそう言ってもらえて嬉しいよ。でもいいのかい、依頼の内容を聞かなくても?」
「いいわ、なんだってやるわよ。その代わり早くワートの情報を教えて、特に一緒にいた女について教えて」
目がすわっているカナミに軽い恐怖を覚えたネルソンは、これ以上引き延ばすのは下作だと判断した。
「ワート君は今、ダンジョンに潜ってるよ。今、町で噂の黄金のウサギを探しに行った」
「黄金のウサギ…」
ワートとウサギ。カナミの中でウサギと戯れているワートが現れる。将来一緒に過ごす時のペットはウサギがいいかもしれない。
「ウサギと言っても魔物なんだけどね。王都で高額で懸賞金がかけられていてね。それを狙って昨日ダンジョンに向かったよ」
「昨日…ということは今日はギルドに来ていないのね?」
「そうなるね。彼の宿は受付のエリナが聞いたらしいから、あとで聞くといいよ」
———受付のエリナ…この女もあとでチェックした方がいいかもしれないわね。
嫉妬深いカナミであるが、彼女自身、ワートを縛りつける気は一切ない。ただ、自分とワートの幸せな生活に入り込む邪魔者を把握しておく必要があるとは思っているに過ぎない。
「それと依頼だけど、それは追って僕から連絡するよ。今はワートくんを探したいでしょ?」
「気遣い感謝するわ」
少しネルソンの事を見直したカナミは、聞き忘れている事を思い出した。
「そのワートと一緒にいる女って何者?パーティーを組むならギルドカードあるはずよね」
「いや、パーティーじゃないみたいだよ。あくまで彼はソロみたいだ」
その一言に安堵の息をつく。パーティーじゃなければ、どのみちすぐに別れることになるだろう。
「ただ、気になったことがあってね…僕のカンだけど、あの子、魔族だよ。それも超上級のね」
ネルソンの一言でカナミは察した。
———また貴方、厄介ごとに首突っ込んだのね…。
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