勇者パーティーから追放された召喚士~2000年間攻略されなかったダンジョンを攻略して、伝説の武器や生き物と契約して楽しくやってます。懇願してもパーティには戻りません

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追放されたけど、ギルドに向かう

「ここがギルドか!」

目の前にそびえ立つギルドを見上げて、興奮気味なラクス。

彼女が生きた時代にはギルドはなかったようで、ギルドの仕組みに終始感心していた。

「冒険者を組織化してするとは考えたモノだな!パーティーの斡旋、安全性の確保、クエストの受注で商売をするとは…考えたやつはキレ者じゃな」

「ほら、そんなところではしゃいでないで中に入るよ」

ギルドの扉を開けると、中は人でごった返していた。人大陸の魔大陸の間にある都市だからこその賑わいと言える。
あちこちから冒険者たちの声が響き、少し気圧されそうだ。

ラクスと一緒に受付へ向かう。

「すいません。クエストって何がありますか?」

ラクスと契約したことで食いぶちも増えたし、しばらくはこの街で路銀を稼がないといけない。

「現在のクエストはこちらになります」

凛とした話し方が印象的なを受付嬢が出てきた。僕よりも明るい金髪で、いかにも仕事ができそうな佇まいだ。

「ソロでの受注でしょうか?」

「あ、はい。ソロでの受注を–––」

「私も受けるぞっ!!」

隣で息巻いてるラクスを押しのけてお姉さんの視界に入らないようにする。見た目が人間と変わらないからと言ってラクスは魔族だ。一緒に受注する場合はギルドにステータスを申告する必要が出るので、それは避けたい。

「ソロでの受注でよろしいんですね?」

何やら騒いでいるラクスを抑えながら、肯定の返事をする。

「ソロの場合はご自身のランクよりも二段階低いクエストを受けて頂く決まりとなっております。失礼ですが、お客様のランクを確認させて頂いてもよろしいでしょうか」

お姉さんにギルドカードを渡して、ギルドランクを確認してもらう。

ギルドランクは個人とパーティでG〜Sランクまで存在しており、そのランクに応じてギルドでの優待やクエストの受注ができる。

「お客様–––ワート・ストライド様でございますね。個人ランクはCランク、パーティーランクは…Aランク–––」

そこまで言うとお姉さんは何やら固まってしまった。すごい勢いで頭を下げると、

「勇者様パーティーの方でございましたか!ご無礼を働き申し訳ございません!今すぐ別部屋でのご案内を–––」

「いやいや!やめてください、そんなお声で!周りに聞かれたら…」

大量の視線を感じて後ろを振り向くと–––。

『おい、聞いたか。あのガキ、勇者パーティーだってよ』

『勇者パーティーってあれか、魔人討伐の任務でこの辺りに来てるっていう』

最悪だ。

本当に最悪だ。

こういう注目のされ方が一番嫌いなのに…。そもそも勇者パーティーもう辞めてるし…。

「ぁ、あの…もう、勇者パーティーは…」

ギルドカードの更新をお願いしよう。早く修正してもらって、一旦帰ろう。ややこしい事になる気がして仕方ない。

大きな足音を立てながら、こちらに向かって誰かが近づいてくる

「おい、ガキ!お前、勇者様御一行なんだってな…さぞかし強いんだろうなぁ?」

『あいつ…新人狩りのプレスだぜ…』

『自分が受注するクエストが減らないように、有望そうな新人を潰して回ってるって噂の男か?』

プレスと呼ばれた大男は手に巨大な戦斧を持ち、鎧に身を包み、ゲスじみた笑みを浮かべている。

「いやぁ、僕はもう勇者パーティーは…」

こんなところで騒いで目をつけられたくない。下手したらこの街でのクエストの受注ができなくなるだけでなく、街から追い出される可能性もある。

穏便に済ませる方が賢明だろう。

「そう小さくなるなよ。仲良くしようぜぇ」

「っ!?」

プレスは僕の肩に手を置くと、強力な握力で力をかけてくる。ここで痛がって舐められるのも愚作だし、問題も起こしたくない。穏便に–––。

「貴様、私の契約者に何をしておる。ね」

ラクスの声が聞こえたと思うと、プレスの姿が–––消えた。
次の瞬間、ギルドに巨大な音が響く。ギルド中の人間が音の方向を向くと、壁に巨大な人型の穴が空いている。

「ラクスっ!?」

プレスの体は、穴の向こう家屋数軒を突き抜け、もはやどこまで飛んで行ったのかわからない。というか、生きているのかも定かではない。

「存外もろいのぉ。あの程度の蹴りで姿が見えなくなるとは」

ラクスの笑い声だけが木霊する。

プレスが受けた仕打ちを見て、誰も声を上げることができなかった。全員、目の前にいる少女が超常の存在であることを本能で感じ取ったのかもしれない。

「こりゃ、派手にやったねぇ」

沈黙を破るように男性の声がギルドに響いた。

「ギルドマスターっ!」

受付のお姉さんは我慢の限界だったのか、ギルドマスターと呼ばれた男性へ駆け出した。

「おっとっと、どうしたんだいエリナ?」

一々、言うことがキザなこの男がギルドの長なのだろう。彼が来たことで場も落ち着きを取り戻している。

「プレスにはこっちも困っていたから、別に君たちを怒りに来たわけじゃないよ。むしろ感謝したいくらいさ。彼には良い薬だろう」

「生きていればの話じゃがのぉ?」

「大丈夫だよ。見た目通り頑丈さは折り紙付きさ」

よかった、とため息をつく。本当に死んでいたら、嫌な奴でも目覚めが悪い。

「君の名前は?」

先ほどまでラクスを見ていたギルドマスターは突然、僕の方に視線を切り替えた。

「ワートと言います」

「ふむ…確か勇者パーティーに似た名前の子がいたはずだけど、君のことかな?」

「はは…もう勇者パーティーは辞めましたけど、僕のことですね」

やっぱりあのパーティーにいただけで知名度は上がるんだな…。実際のところ戦闘にはほぼ参加していなかったし、僕個人については知られていないはずだ。

「君のことはよく知っているよ、カナミちゃんが君のことばかり話すんだ」

「カナミが…」

グランに言われて勢いでここまで来たけど、カナミ怒ってるんだろうなぁ…。絶対に次会ったらすごく怒られるよ…。

「僕の名前はネルソン。このギルドでギルドマスターをやっているよ。よろしくね…それは良いとして、随分、強い仲間を連れているんだね?」

ネルソンさんは僕から視線を切り、ラクスへと戻す。その眼差しはどこか鋭い。

「我が名はラクス。よろしくだぞ、ネルソンとやら」

ラクスとネルソンさんの間に立って入る。どこかこの人は信用できない。

「おっとっと、怖い怖い…そんなナイトがいたら、手を出したくなっちゃうねっ!」

彼は瞬時に懐からナイフを取り出すと、僕の首元狙って刺突をくり出す。

–––【契約召喚】フラガラッハ

初めからそこにあったかのように、僕の手元に小剣が現れる。フラガラッハで刺突の軌道を僅かにずらし、彼の側頭部目掛けて蹴りを入れる。

「おっと」

僕の攻撃を難なく躱すと、彼は一歩後退して僕から距離をとる。

魔力を活性化させ、いつでもスキルを使用できる状態にする。相手がギルドマスターと言えど、ラクスもいるし、対等以上に戦える。

「その気ならこっちも全力で–––」

「うそうそ!そんな気はないよ!」

ナイフをポイっと後ろに放り投げ、ネルソンさんは降参と両手をあげた。

「信用できません」

「後ろの子の力はさっき見たからね。君の力を見たかったんだ。それにしても見たことないスキルだねぇ?物を移動させるスキル?剣を作り出すスキル?」

なんなんだこの人…。襲ってきたり、他人のスキルを観察してきたり、彼が考えていることが全く予想できない。

「ネルソンさん、またいつもの癖出てますよ!他所の人のスキルを推測するのは失礼だってあれほど言ったじゃないですか!」

「いやぁだってエリナ。一瞬で武器が出てきたんだぜ、俺も長い間冒険者やってるけどあんなスキル–––」

「そんなこと知りません!さっさと仕事に戻ってください!」

受付嬢のエリナさんに一通り怒られると、ネルソンさんは肩を落としてどこかに行ってしまった。

エリナさんは見たこともない角度で頭を下げると、

「本当に申し訳ございません!今日あったことは全て我がギルドの落ち度です。なんでもお申し付けください。誠心誠意謝罪させていただきます」

「い、いや。こっちだって悪い部分もあったので…」

ラクスがやり過ぎたことは事実だし。あのギルドマスターに関しては謎だけど…僕だって剣をむけてしまった。

エリナさん曰く、平常時は頼りになるギルドマスターらしい。

「珍しい冒険者やスキルを見ると、すぐに攻撃してその反応を確かめたいと言う変な人でして…」





一通りエリナさんの謝罪を受け入れて、ギルドカードの再発行をお願いする。

「パーティーの欄はリセット致しましたので、これで今日のようなことはないかと…」

「ありがとうございます」

受付を後にして、机に突っ伏して昼寝をしているラクスに呼びかける。

「ほら、ラクス帰るよ」

「ふぁー、終わったのか?長かったのぉ」

「ごめんごめん。でもこれで、ギルドでクエストを受注できるよ」

「ほほぅ。ではクエストを受注するのか?」

「いや、面白い話を聞いたんだ、明日はダンジョンに挑もう!」

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