勇者パーティーから追放された召喚士~2000年間攻略されなかったダンジョンを攻略して、伝説の武器や生き物と契約して楽しくやってます。懇願してもパーティには戻りません

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追放されたけど、女の子を解放する

無機質で巨大な空洞。目の前に浮かぶ巨大な結晶は薄緑の光をわずかに発しながら、中空に漂い続ける。その中には作り物かと思うほど美しい少女が眠っている。不思議と白銀の長髪をもつ彼女に目が離せない。

『おい』

ダインのひと頃で我に返る。首を左右に振り、雑念を払う。

「この子はいったい…」

女の子も気になるけど、それ以上に結晶が保有している魔力が異常だ。あまりにも強大な魔力の奔流に飲み込まれそうになる。

『こりゃ封印だな…それも、とびっきり昔のモノだ。間違いなく現代の魔法とスキルじゃ解除不可能だ』

封印…。そんな魔法やスキルがあるとは聞いたことあるけど、本物を見たのは初めてだ。

「見たところこの部屋には、この結晶しかないね」


『てことはこの封印を解かない事にはダンジョンの攻略は不可能って事だろうな』

ため息が出る。明らかに攻略不可能なダンジョンだ。ここまでの道中はさほど難しくはなかったけど、最後にこんな障害があるなんて予想外もいいところだ。

『タス…ケテ…』

「うん?」

わずかだけど、女の子の声が聞こえた。

「ダイン、今の声聞こえた?」

『あぁ、はっきりとな。間違いねぇ、目の前の嬢ちゃんは俺たちに助けを求めてるぜ』

『タスケテ……』

悲痛な声が脳内に響く。彼女の声で心の奥が震わされる。理由はわからない。だけど–––。

「彼女を助けよう。僕たちのためじゃない。彼女のために、この封印を解くんだ」

『とんでもない悪者かもしれねぇぜ?』

「それでもいい。女の子に助けを求められているんだ。助ける理由なんてそれだけで十分だよ」

けらけらと笑うと、ダインから黒く魔力が溢れ出す。

『それでこそ相棒だ。お前の方がよっぽど勇者らしいぜ』

嬉しいようで嬉しくないような…。

僕はグランみたいにどんな魔物を倒せる力はない。だけどダインや契約しているみんなの力を借りれば、きっと違った方法で困った誰かを救えるはずだ。

『この封印を解く方法教えてやる』

「え、そんな方法あるの!?」

確かにダインは現代の魔法やスキルでは解けないと断言したはずだ。

『俺様をなめるなよ。どれほど強力な封印と言っても、結局は魔力で出来てんだ。あとは分かるだろ?』

–––そうか。確かにそれなら可能性はあるかもしれない。

「ダインの能力で封印そのものを魔力に分解して吸収する」

解除というよりは、無効化に近いかもしれない。どれほど複雑な封印が施されていても、ダインなら可能性はある。

『やることは決まった。あの嬢ちゃんを長い眠りから開放してやろう』

「うん!」

目の前に浮かぶ結晶を見上げる。

どうして彼女がこんな場所で眠っているのか、僕にはわからない。本当に封印を解いてしまっていいのか、様々な考えが脳裏を過ぎる。

雑念を振り払い、ダインを構える。

ダインから漆黒の魔力が吹き荒れる。ここまで来るのに数多の魔物を狩り続けたおかげで、ダインには膨大な魔力が蓄積されている。

「全力で行く!結晶への攻撃に全ての魔力を転化、現界できるギリギリまで魔力を使い切って!」

『おうさ!』

目の前の水晶の魔力を押し返すほどの魔力奔流。荒々しくもどこか美しい漆黒の魔力が満ちる。次の瞬間、吹き出した魔力がダインへ結集し始める。高密度に圧縮した魔力による攻撃力の強化。

『準備は整った、行けワートッ!』

一歩踏み出し、全力でダインを結晶に向かって振り下ろす。
鉄壁な手応え。僕の攻撃を全く受け付けないような感触がダインから伝わってくる。

「いっけぇぇえええ!!」

ダインから膨大な魔力が吹き出し、吹き出した魔力が結晶の封印を凄まじい勢いで削っていく。削られた結晶の魔力はダインへ吸収されていく。

魔力循環。ダインから放出された巨大な魔力が結晶の魔力と同化し、凄まじい勢いで取り込まれる。

–––ピシッ

結晶にひびが入る。結晶に入った巨大な裂け目は徐々に広がっていき…。

「ハァァ!!!」

ダインを振り下ろしきる。もう両手には鉄壁のような手応えはない。
結晶には巨大な裂け目がいくつも入り、大量の魔力がダインへと取り込まれていく。そして–––砕け散った。

「危ない!」

慌てて結晶の真下へと駆け寄り、魔力が降りしきる中、彼女を抱きとめる。

「……ん」

「よかった、気がついたんだね」

とりあえず息はしているようで安心した。

「…ここ…は」

「とりあえず、少し休んでいて。このダンジョンも限界みたいだ」

結晶を砕いた瞬間からダンジョンに綻びが生じ始めた。壁には亀裂が入り、僅かながら地響きが起きる。

「ダイン、魔力の補充は終わった?」

『おう。あの結晶とんでもない魔力貯めてやがったな…魔力で胸焼けしそうだぜ』

剣なのにゲップしてる…人間よりも人間っぽいな。

彼女を抱き抱える前に服を被せておく。流石に全裸で抱き抱えるのはこっちが恥ずかしい。上着をかぶせて、彼女を抱き抱える。

「よし、脱出だ」

そうして、僕たちはダンジョンを後にした。







脱出すると、ダンジョンは跡形もなく消えていた。

攻略されたダンジョンは消滅するけど、こんな消え方をするダンジョンは初めてだ。様々な意味で特殊なダンジョンだったのだろう。

眠っている彼女を木陰に休ませて、一息つく。

「なんとか無事に脱出できたね…」

『お、嬢ちゃん目覚めたみたいだぜ』

慌てて彼女に駆け寄る。

「ここは…?」

「目覚めたみたいだね。ここは君が封印されていたダンジョンの跡地だよ」

彼女は不思議そうに僕の顔を眺める。
相当長い間封印されていたみたいだし、理解が追いついていないのだろう。

「そうか…私は開放されたのか…」

彼女は何かを思い出すかのように、どこかを見つめている。

「貴様の名は?」

どうやら少しずつ意識が回復してきたようだ。目に光が灯り、表情から僅かながら彼女の性格が読み取れてくる。

「僕はワート、ワート・ストライド。君は?」

「私は…そうだな…私の名はラクス・アイデンベール」

ラクス…。美しい彼女にぴったりの名前だ。アイデンベールってどこかで聞いたことある名前だ。

「貴様、どうやって私の封印を解いたのだ?」

「うん?この武器を使ったんだ」

腰に携えたダインを見せる。

途端、彼女は目を見開き、僕の腕を掴み取った。

「まさか召喚のスキルを持っているのか!?」

「う、うん…そうだけど」

次の瞬間–––唇が柔らかい感触に覆われる。

足元に魔法陣が構築され、僕たち二人を包み込んでいく。そして…。

「これで私はお前のものだ、ワート」

これが僕のファーストキスだった。

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