【人生回帰目録】レッドマン

Yazy

#2 趣味と勧誘

男の趣味は「ブログ」だった。

企業勤めの際も、通勤中や退勤後、そして休日も熱心にブログを執筆していた。

PV数は1万PVと多くはなかったものの、それでも読んでもらえていることに嬉しさを感じていた。

しかし会社を退職してからはめっきりブログを書かなくなった。

今思えば、ブログへのモチベーションは多くの人に読んでもらえる「嬉しさ」より、企業に勤めていたストレス…いや、このまま自分は一生企業勤めで終わってしまうのかという現実逃避の気持ちで書き続けていたのかもしれない。

もちろん退職後も何記事かブログに投稿した。

しかし以前のようにブログのネタが思いつかない。

投稿した記事も、以前より文字数が少なくなっている。

今までは自分語りが多かった記事も、退職後に書いた記事は買ってきたコンビニ弁当のレビューばかり。

そのうちバカバカしく感じて、更新が滞った。

こんなことをするくらいならゲームをしていた方がマシだと判断したのだ。






そして今、男はコンビニで弁当を眺めていた。

一番安い海苔弁当にするか、安いが海苔弁当より高い鮭弁当にするか、悩んでいた。

男は思った。
今日から求人活動を再開する記念として、少し高めの鮭弁当にしようと。

そして鮭弁当を選び、レジへ。

購入を済ませた後に求人誌を何枚かいただき、帰宅しようとした…

謎の女性「すみません、ちょっといいですか?」

男「…え?」

コンビニに出る間際、知らない女性に話しかけられた。

年齢は20代半ば。スーツで身を進んでいるショートカットの線の細い女性だ。

謎の女性「お仕事をお探し何ですか…?」

男「えぇ…まぁ…」

女性の意図が分からず、とりあえず返事をする。

男の体は半身になっており、重心は帰路の方を向いている。

一瞬、逆ナンを期待したが…男はモテた経験はないし、女性経験すら無い。

女性に話しかけるのさえ抵抗があるヘタレであった。

謎の女性「もしかして…いまお金に困っていますか…?」

男「え?あぁ…はい」

男は訝しむ。なんなんだ、この女は。こんなところで金に困っているかを聞いて、何がしたいんだ。仕事でも紹介してくれるのか?

謎の女性「もし良かったら…お仕事を紹介したいのですが、いいですか?」

男は驚いた。まさか仕事を紹介したいと言われるとは…多少の期待と想定はしていたが、その通りに来るとは。

だが同時に怪しむ。なぜ自分に?何か企みがあるのか?どんな目的で?もしかして犯罪か?

謎の女性「突然すみません…一応、自分はこういう者で…今、とある仕事に協力してくれる人を探しているんですよね」

そう言って、女性は名刺を取り出した。名刺には「株式会社ハイパーテクノロジー研究所」と記されている。聞いたことのない企業だ。そして彼女の名前は「江南アキ」というらしい。

江南アキ「こちらが求人の詳細で…一応、一回の仕事で報酬が約20万円ほどになっています」

男「20万円!?」

そういって受け取った用紙にも、報酬20万円の記載があった。ただ仕事内容は詳しく書かれておらず、調査協力の依頼と記されているだけだった。

江南アキ「えぇ…それだけ難しい仕事で…でも仕事内容はそれほど難しい訳じゃないんです。ただ中々引き受けてくれる人がいなくて…」

男「それで、どうして自分を…?」

江南アキ「求人誌をお待ちでいらしたので、お仕事をお探しなのかと思って、たまたま声をかけさせて頂きました。もしご興味がおありでしたら…」

プルルルル
着信音が響いた。どうやら彼女の携帯からのようだ。

江南は慌ただしく携帯を取り出し、はい、はいと数回言い、携帯を切った。

江南アキ「申し訳ありません。会社に呼び出されてしまって…興味がおありでしたら、先程お渡しした名刺に私の電話番号が書かれているので、そちらにおかけください」

そう言って、江南は立ち去った。

呆然とする男。
あまりの突然の出来事に、脳味噌の処理が追いつかないでいた。

それもそのはずだ。
一回の仕事をクリアすることで貰える報酬が「20万円」。是が非でもやりたいが、知らない会社で、仕事内容が不明で、報酬が高すぎる。危険な仕事か?または法律を犯すような仕事か?

何人も断っていると聞く…
それなのに自分に出来るとは思えなかった。

だが…
久しぶりにブログのネタが閃いた。

仕事の話を聞きに行くだけでも、どんな仕事か知れて、ブログのネタになる。本当に久しぶりに、ブログを執筆するモチベーションが湧き上がった。

帰路への足取りは軽かった。
明日、早速電話をかけ、仕事の話を聞きに行く。そしてそのヤバそうな仕事の話をブログに投稿する。

久しぶりに気持ちが明るくなれた。
明日はいい日になりそうだ。それもそうか…明日は自分の誕生日だ。最高の誕生日…最高の26歳を迎えられそうだ。

男は有頂天だった。
仕事が決まったわけでも、お金が何とかなるわけでもないのに。明日が楽しみで仕方なかった。

男「今日は…満月か」





江南アキ「上手くいくでしょうか…?」

江南は運転席に座る男に話しかけていた。2人は車に乗っており、運転席に座る男もスーツを着ていた。年齢は30代前半だが、見た目は20代と間違えられてもおかしくないくらい若い見た目だ。江南の態度から見て、男の方が上の立場だろう。

不安げな彼女に、男はやや自信のある声色で返す。

謎の男「問題ない。報酬20万円、仕事内容は不明確。さらに聞いたことないような会社に、突然女性に話しかけられた。ブログが趣味の彼にとって、どれも唆られるようなことばかりだ」

江南アキ「ですが…報酬20万円は非現実的では?」

男はニヤッと笑った。

謎の男「実際、20万円分の仕事を請け負うんだ。これは彼の適正を計るテストでもある」

江南は、男の笑みを訝しげに見つめる。

江南アキ「テスト…もしそのテストに不合格したら…?」

謎の男「決まってるだろ?」

男はエンジンをつけた。

謎の男「その時は…彼を殺す」

車が走り出す。走り出してからしばらくして、小雨が降り注いだ。もう満月は見えない。

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