羽柴弁護士の愛はいろいろと重すぎるので返品したい。

泉野あおい

17章:注がれる愛が重すぎる(2)

 次に目を覚ました時はもうすっかり明るくなっていた。
 隣に先輩がいなくて、不安できょろきょろすると、スマホをもって先輩が戻ってくる。

「さっきね、みゆのお父さんから電話あった。無事、容疑者が捕まったって」
「そっか、よかった……」

 容疑者が捕まったのには安心したけど、全然よくなかった。
 だって、先輩と一緒にいられるのも、これまでってことだから。


―――どうしよう。離れたくない。

 そんな思いが身体を駆け巡って、泣きそうになる。


 すると、先輩は私の前に来ると、真剣な顔で、小さな箱を私に差し出した。
 そしてそれを開けると、

「みゆ。俺と結婚してほしい」

とはっきり告げる。
 中には見たことのある指輪が光っていた。


―――これ、最初に先輩が渡してきた指輪。


 私、今、これを『重い』だなんて思ってない。

「……っ」

 それを見ていると、勝手に涙があふれてくる。この指輪で、嬉しくて泣くなんて考えてもなかった。


 先輩は私の頬を撫でると、

「みゆ、嫌だった? また焦らせたかな……」
「ごめんなさい、ちがうの」

 私は首を横に振る。「嬉しくて」


 先輩が息をのむ音がはっきり聞こえた気がした。

「今、わかった。私、先輩と離れたくない。離れない方法が『結婚』なら、結婚したい」
「ほ、ホント……?」
 先輩の声が上ずる。「っていうか、本物のみゆ?」


「どういう意味ですか」
「そんなことみゆが言うの、信じられなくて」
「本物です」
「まだ2年たってないよ?」
「いいです」
「知ってると思うけど、俺の愛は『重い』よ」


 先輩は言う。
 私はその言葉に思わず笑うと、

「仕方ないです。諦めます」

とまっすぐに言った。
 目が合うと、先輩は嬉しそうに笑う。

「それはみゆらしい。やっぱりほんもののみゆだね」

 だから、本物だと言ってるでしょうが。私だって、自分で自分が信じられない。
 もうこんなにも好きになってるなんて。

 そう思って先輩を見ると、先輩は愛しそうに目を細めて私を見ていた。


 先輩があれだけ何度も愛の言葉をささやいてくれて。

「私はね……」

 先輩は私のことも、私のペースも大事にしてくれた。
 なのに私はいつまでも先輩に甘えてばかりで……。

 私だって、先輩とずっと一緒にいたいから。
 先輩の速く走るペースに自分の足をあわせてみたくなったんだよ。


「先輩のこと、好きなんです。大好きです」


 それを聞いた先輩が、嬉しそうに顔をくしゃ、と綻ばせると、私もうれしくなる。

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