羽柴弁護士の愛はいろいろと重すぎるので返品したい。
16章:俺と彼女と彼女の父親【side羽柴】(3)
そしてそれを思い出して俺が気づいたことは、
あの時の刑事がみゆの父親で、女の子がみゆだったってこと。
みゆの父親は、俺に向かって、また、まっすぐに頭を下げた。
「なかなかお礼を言えなくて、申し訳なかった。だからきちんと言わせて。本当にありがとう……」
「そんな……」
自分はそんなこと、今まですっかり忘れていたのに。
するとみゆの父は目を細めて、きみはみゆを助けてくれた恩人だよ、と笑った。
その言葉に胸が痛む。
確かに自分はあの時、女の子を助けた。それがみゆだった。
助けたのは、下心も何もない、まっすぐな子ども心からだった。
でも、今は、どうだ。
彼女のことを無理やりにでも自分のものにしようとした結果が、これだ。
父のこともあったかもしれないが、どうして自分は不貞腐れたような、自分の怒りやストレスを他者にぶつけるような毎日を過ごしていたのだろうと恥ずかしくなった。
あの頃から考えると、自分はずいぶん変わってしまったような気がする。
「こちらこそ、すみませんでした……」
俺は思わず頭を下げる。
本当に謝るべきは俺だ。……そうせずにはいられなかった。「俺は……無理やり彼女に……」
最後まで言うより先、その言葉を切ったのはみゆの父親だった。
「今はさすがに……みゆも怖がってるし、きっとみゆ自身に罪悪感もある。だからここに顔も出せないんだと思う」
「はい。当たり前です……俺はそれだけのことを彼女にしようとしたんですから」
俺は頷いた。そんな俺にまっすぐみゆの父親は問う。
「そんなことをしようとしたのは、君がみゆに少なからず好意を抱いていたからだろう? ああやって毎日送ってきてくれて、タイミングなんていくらでもあっただろうに」
「……」
好意はもちろんあった。
彼女といると彼女をもっと知りたいと思ったのは確かだ。縮まらない距離に焦っていたのかもしれない。本心から頷いていた。
「好きです」
その時になって急に気付かされた。
入院してからずっと、いや、それより前からかもしれないけど、みゆのことばかり考えているのだ。
考えてみれば、あの時までも自分はちょっとおかしかった。みゆのことが、好きすぎたのかもしれない。
「君もまだ、自分で思っているより子どもだ」
みゆの父親は笑って続けた。
「だからね……もし、二人が大人になってもう一度会ったとき、このこともきちんと二人の中でこなせて……。きみも、みゆも、『ずっと一緒といたい』と思ったら……。その時は、みゆのことをきみに託すよ」
「……はい」
その言葉はきっと、未来への約束。
「そうなったらきっと亡くなった妻も喜ぶと思うしね。あれからずっときみにお礼を言いたがっていたんだよ」
みゆの父親は、安心させるように笑いかけてくれる。
そしてもう一度真剣な顔になると、
「だからもしあの子に対して、何か後悔しているなら……いつか胸を張ってあの子の前に現れることのできるくらいの人間になりなさい」
ときっぱりと言った。
その言葉に、自分が大人としてみゆの父親に対等に扱われたような気がした。
ごくりと息を飲み、その言葉を噛み締めながら頷く。
すると安心したように優しく笑ったみゆの父親は、
「これはね、あの子の父親として、僕がきみにあの子を託すための宿題だ。もちろん、途中で降りてもらっても構わないから。その時はさ、僕が最後まであの子を守るし、父親としてその覚悟はしてるから」
と言った。その言葉にどきりとした。
そのとき自分は……
いつか胸を張って、みゆを守れる存在になって、みゆともう一度会いたいと思った。
そして、いつかみゆと子どもを作って、自分もみゆの父親みたいな父親になりたいって、そんな風に思ったんだ……。
みゆの飛び蹴りで進路を変えた、と言ったのは半分本当で半分嘘。
みゆの父親と話して考えて、決めた部分も大きい。
そしてあの日から、女性に全く反応しなくなった自分だって、
実はそれがそんなに『困ったこと』とは思ってなかったんだ。
きっと、みゆに会えば……みゆに対しては、違う。
そんな確信に似た思いがずっと自分の中にあったから……。
あの時の刑事がみゆの父親で、女の子がみゆだったってこと。
みゆの父親は、俺に向かって、また、まっすぐに頭を下げた。
「なかなかお礼を言えなくて、申し訳なかった。だからきちんと言わせて。本当にありがとう……」
「そんな……」
自分はそんなこと、今まですっかり忘れていたのに。
するとみゆの父は目を細めて、きみはみゆを助けてくれた恩人だよ、と笑った。
その言葉に胸が痛む。
確かに自分はあの時、女の子を助けた。それがみゆだった。
助けたのは、下心も何もない、まっすぐな子ども心からだった。
でも、今は、どうだ。
彼女のことを無理やりにでも自分のものにしようとした結果が、これだ。
父のこともあったかもしれないが、どうして自分は不貞腐れたような、自分の怒りやストレスを他者にぶつけるような毎日を過ごしていたのだろうと恥ずかしくなった。
あの頃から考えると、自分はずいぶん変わってしまったような気がする。
「こちらこそ、すみませんでした……」
俺は思わず頭を下げる。
本当に謝るべきは俺だ。……そうせずにはいられなかった。「俺は……無理やり彼女に……」
最後まで言うより先、その言葉を切ったのはみゆの父親だった。
「今はさすがに……みゆも怖がってるし、きっとみゆ自身に罪悪感もある。だからここに顔も出せないんだと思う」
「はい。当たり前です……俺はそれだけのことを彼女にしようとしたんですから」
俺は頷いた。そんな俺にまっすぐみゆの父親は問う。
「そんなことをしようとしたのは、君がみゆに少なからず好意を抱いていたからだろう? ああやって毎日送ってきてくれて、タイミングなんていくらでもあっただろうに」
「……」
好意はもちろんあった。
彼女といると彼女をもっと知りたいと思ったのは確かだ。縮まらない距離に焦っていたのかもしれない。本心から頷いていた。
「好きです」
その時になって急に気付かされた。
入院してからずっと、いや、それより前からかもしれないけど、みゆのことばかり考えているのだ。
考えてみれば、あの時までも自分はちょっとおかしかった。みゆのことが、好きすぎたのかもしれない。
「君もまだ、自分で思っているより子どもだ」
みゆの父親は笑って続けた。
「だからね……もし、二人が大人になってもう一度会ったとき、このこともきちんと二人の中でこなせて……。きみも、みゆも、『ずっと一緒といたい』と思ったら……。その時は、みゆのことをきみに託すよ」
「……はい」
その言葉はきっと、未来への約束。
「そうなったらきっと亡くなった妻も喜ぶと思うしね。あれからずっときみにお礼を言いたがっていたんだよ」
みゆの父親は、安心させるように笑いかけてくれる。
そしてもう一度真剣な顔になると、
「だからもしあの子に対して、何か後悔しているなら……いつか胸を張ってあの子の前に現れることのできるくらいの人間になりなさい」
ときっぱりと言った。
その言葉に、自分が大人としてみゆの父親に対等に扱われたような気がした。
ごくりと息を飲み、その言葉を噛み締めながら頷く。
すると安心したように優しく笑ったみゆの父親は、
「これはね、あの子の父親として、僕がきみにあの子を託すための宿題だ。もちろん、途中で降りてもらっても構わないから。その時はさ、僕が最後まであの子を守るし、父親としてその覚悟はしてるから」
と言った。その言葉にどきりとした。
そのとき自分は……
いつか胸を張って、みゆを守れる存在になって、みゆともう一度会いたいと思った。
そして、いつかみゆと子どもを作って、自分もみゆの父親みたいな父親になりたいって、そんな風に思ったんだ……。
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