羽柴弁護士の愛はいろいろと重すぎるので返品したい。

泉野あおい

11章:もしかして先輩の愛は重いのかもしれない(3)

 先輩はベッドサイドのペットボトルの水を私に渡すと、
「次の土曜は、一樹がメシいこうって言ってたよね」
と言う。

 私はそれをごくりと喉に流し込む。水が枯れた喉に心地よい。
 そして口を開いた。

「はい。時間とか場所は?」
「うん、また俺から連絡する」

 そして先輩は何かを思い出したように眉を下げて、

「それで、残念な話しなんだけど……明日から土曜まで俺が出張でさ、みゆに会えないんだよね……」

と心底寂しそうに言ったのだった。

 でも、私は、えぇ! と言って、思わず目を輝かせそうになった。

 だって、この一週間、考えてみたら酷かった。先週の金曜から何度も先輩に会ったのも良くなかった。そのたびに何度も抱かれて、私の身体はもう限界だ。足もがくがくだし、正常な判断力もどんどん鈍っていく。

 だからこそ、先輩の出張報告に内心かなり喜んでしまった。これは、私のせいではない。


 そんな私を見て、先輩は訝し気に眉をよせた。そして明らかに不機嫌なオーラが先輩から発せられる。

「え? 何その反応……」
「い、いや、なんでもないです」
「心なしか喜んでない?」
「まさか!」

 そう言ったけど、声が裏返った。
 また先輩が不機嫌そうに眉を寄せる。


「みゆ?」

 名を呼ばれて背中に冷や汗が流れた瞬間、世界がまた反転した。
 金曜から見続けてる先輩の家の寝室の天井と、先輩の顔が交互に見える。

「ちょ、なんですか!」
「まだ俺の愛が伝わってなかったのかなぁって思っただけ」
「イヤ、だから十分に伝わって……んんっ!」

 また強引なキスに驚いて先輩を見ると、先輩は当然のように舌を差し入れてきた。

「せ、先輩っ」

 そのまま、キスは首筋に、胸に落ちてくる。
 暴れても先輩はまったくやめてくれることはなかった。

 そしてまっすぐ私を見つめると、

「やっぱ帰るのは夜ね。みゆがこの一週間、他の男なんて目に入らないほど俺のこと覚えていられるようにしとかないと」

ときっぱりと言う。


(もう正直、男も、愛情もこりごりですーーーーー!)

 そんな言葉は、言葉にならない自分の声によってかき消されることになる。


そしてその時、
私ほんのり気づき始めていた。

いや、これまでも気付いていたけど、
できるだけ見ないふりをしていたのかもしれない。


―――先輩の愛って、なによりも重いんじゃないかってこと。

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