羽柴弁護士の愛はいろいろと重すぎるので返品したい。

泉野あおい

4章:あの事件ととんでもない告白(5)

「あのとき、私、先輩に飛び蹴りして、全治3か月まで負わせて、先輩は受験も失敗したんでしょおおおおお!」
 私は泣きながら叫ぶ。「訴えるなら訴えてください! もう罪悪感に押しつぶされそうな12年間でしたぁああああ……!」

「ええっと……」
 先輩は困ったように頭を掻く。「とにかく、傷害罪は時効10年。とっくに時効は成立しているよ。それに俺はみゆを訴える気なんて毛頭ない」
「でも……」
「十分、あの時のキスで償いは成立してるし」
 先輩は優しい声で言って私の頭をなでた。その優しいしぐさにまた泣きそうになる。



「それに受験は……あのときの『飛び蹴り』でね、決意できたことがあって……。つまり、もともと俺は経営方向に行くはずだったんだけど……自分のいきたい分野に進もうって決めたんだ」

 普通ならとてもいい話だ。私がきっかけで行きたい進路を選び取っただなんて……とてもいい話。
 ただし、『飛び蹴り』の件さえなければ……。


「俺はね、感謝してる。みゆのおかげだよ?」
「おかげって……。でも、さっき『あれからちょっと困ったことになったけど』って言ったじゃないですか……!」

 私はふと先ほどの発言を思い出し、先輩に言う。やっぱりあの飛び蹴りのせいで、何か困ったことになったのは間違いないようだ。


「……あの頃さすがにみゆに話せなくて。あの時よりはみゆが大人になってるから言うけど……」
「はい」

 ごくり、と唾を飲んで先輩の顔を見る。これから何を言われるんだ。
 でも加害者の私はそれを聞かなきゃいけない、そんな気持ちだけが私をそこに立たせていた。



「俺ね、あの事件までは、正確にはみゆを好きになるまでは……他の女の子と遊んでたわけ。学生だったし、若かったし、性欲も旺盛だったしで……」
「は、はい……。なんとなくそんな噂は聞いておりました」

 やけに丁寧語になる。やっぱり先輩はそういう事は早かったようだ。

「まぁ、でもね、あれから……、みゆの『飛び蹴り』で入院した日から……、魅力的な身体をした女性に会っても、全然反応しなくなっちゃったんだよね」

 先輩はそんなことをさらっと言う。

(……あ、あいべっきゅあぱーどぅん?)

 一回で意味が分からない。いや、何回言われても全く意味不明だ。


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