名無しの(仮)ヒーロー
雨降って地固まる 4
次の日になってもホワホワとした気持ちのまま、病室で暇を持て余していた。
左手を高く掲げて、薬指にあるピンクダイヤモンドの指輪を眺める。自然と口元が緩み一人でニヤニヤしてしまう。
綺麗にキラキラ輝くダイヤモンド。「高そう~」と思わず口から言葉が出た。
いかんせん、由緒正しき庶民なので、つい下世話な事を考えてしまう。
だけど、考えてみれば、病院で保管は危ない。検査とかで指からはずなないといけない時もあるはず……。
今日、美優の引き取りに朝倉先生が来るから、理由を言って預かってもらって、今は指に嵌めておくのが一番安全だな、と思った。
コンコンとドアをノックする音が聞こえて「はーい」と返事をすると将嗣が美優を連れて入ってきた。
「おはよう」と声を掛け合い、美優を抱かせてもらう。
赤ちゃん特有の甘い香りが、私を幸せにさせる。
「美優~!」と言って、親バカ丸出しで顔を”へにゃ”っと崩して、会えなかった時間を埋めるように抱きしめた。
「将嗣は、夜は寝れた? 子守で疲れたんじゃない?」
「実は、まま~、って、ひと泣きしないと夜寝ないんだよ」
将嗣は、眉尻を下げて頬をポリポリと掻きながら言いにくそうに告白した。
「えっ? もしかして、ずっと?」
「やっぱり、ママが恋しいんだろなぁ。にわかパパじゃ、ダメみたい」
「美優~」もう一度、抱きしめて、頭を可愛い可愛いとナデナデしてると
「指輪……」と、将嗣が小さく呟いた。
眉根を寄せて、私の手を見つめる将嗣になんて声を掛けたらいいのか……。
「将嗣」
私が声を掛けるとビクッと跳ねたように私を見た。
「あいつと結婚するのか?」
と私の左手に光る指輪に視線を落とす。
「ん、ごめん」
将嗣の視線を追って俯いた私の視界が歪みだし、ポトリと涙が落ちた。
「ずるいよ。お前が泣くなんて……」
「ごめん」
今までの将嗣との出来事が走馬灯のように駆け巡り、胸が詰まって短く返事をするのが精一杯だった。腕の中にいる美優だって将嗣がいなければ、この世にいなかったはずだ。
自分の選択が、将嗣を悲しませることだってわかっていた。けれど、いざ目の当たりにして胸が詰まる。
「ごめん」
こんな言葉しか出ない。美優を抱いた手に力が籠る。
将嗣は、何も言わず私と美優を見つめていて、その間、私たち三人の空間の時が止まっているように感じた。
将嗣が、大きく息を吐き出すと、再び時間が流れ出す。
悲し気に揺れる瞳を向けられ、胸が締め付けられたが、言葉がみつけられずにただ見つめ返した。
将嗣が、もう一度、深呼吸をして私を呼んだ。
「夏希……」
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