名無しの(仮)ヒーロー

海月三五

労多くして功少なし 2

 
 都内を抜け東北自動車道に入り、途中トイレ休憩を挟みながら3時間程で会津若松に到着。古くからの城下町と言うだけあって、街は栄えている。

「どうする? 観光する? ここまで来たなら喜多方まで行ってラーメンでも食べるか。お昼だし」

「えっ、いいの?」

 前に言っていた、喜多方ラーメンのプランを実行してくれるとは思わず驚いている。すると紗月が声を上げた。

「やった! せっかく来たんだから行こうよ!」
 
「お姫様たちの仰せのままに」
 ニヤリと将嗣が笑った。

 若松市内からさらに車で30分ほど行くと喜多方市内に入る。道路には、観光用の馬車が走っていて、珍しい光景にいつかイラストの資料に使えるかもと、車内から写メを撮った。

 お目当てのラーメン屋さんに到着する。将嗣が私たちに向かってふわりと優しい笑顔を向けて言う。

「俺、美優ちゃんと待っているから二人で食べておいで」

「えっ?」

「ほら、お店混んでいるし、赤ちゃん向きじゃないから俺は美優ちゃんとお散歩デートしている。食べ終わったら電話して」

 確かに人気のラーメン屋さんみたいで、お店の外に数人の列が出来ていた。

「そんな、悪いよ。みんなで食べれるお店でもいいのに……」

「いや、せっかく福島まで来たんだから福島の美味しい物を食べてもらいたいの。俺は、いつでも食べれるんだから気にすんな」 
 と、頭をポンッと撫でられた。

「ありがとう」

「じゃ、お言葉に甘えて行ってきます」
 と、紗月が明るい声で言った。

「いってらっしゃい」

 将嗣の声が優しく聞こえ、紗月が将嗣に手を振りながら呟いた。

「園原さん、良い人だねぇ」

「うん、いい人だよ」
 私は複雑な思いで答えた。

「ねえ、あれから作家先生とはどうなったの?」

 紗月が好奇心いっぱいの瞳で私に訊ねてくる。どうなったもこうなったもラーメン屋さんの順番待ちにする話じゃないし。

「えっ、順調に付き合っているよ」

「なーんだ、続いているんだ」
 紗月は人の顔を覗き見る。
 いくら見られても私は、本当のことしか言っていない。
 むう。っと、頬を膨らませた。

「ごめん、怒らないでよ。園原さんいい人だから美優ちゃんのパパとして応援できたらなって思っていたんだ。夏希ちゃんには、余計なお世話だよね」
 とパンッと拝むように両手を合わせて謝った。

「まあ、将嗣の事は見直したけど、私の恋も温かい目で見守ってほしいなぁ」

 と言ったところで、順番が来て店内のカウンター席に案内された。
 メニューを見ると醤油ラーメンが中心でそれにトッピングがアレコレあるようだ。一番のオススメメニュー、ねぎチャーシューを注文した。

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