名無しの(仮)ヒーロー
無理が通れば道理が引っ込む 4
「あの、私、まだ、将嗣の実家に行くなんて言っていないし、今、結婚を前提としたお付き合いをしている人がいます」
おかしな流れで突然の告白になってしまったが、コレだけは絶対に将嗣に伝えたい事だった。将嗣の田舎に行く話の盛り上がりをぶった切ろうとも、早めに行って置いた方が良いと思ったのだ。
将嗣を見ると悲しそうに眉根を寄せて、あやしていた美優をギュッと抱く。
将嗣にしてみれば、私が他の人と結婚するという事は、美優と会いにくくなる事と同じ意味だ。
親子を引き離すような事を私は言っているんだ。と始めて腑に落ちる。
「夏希ちゃん、今、そんな事言わなくてもいいじゃない? 恋人が出来て浮かれているのかも知れないけど、美優の事をちゃんと考えているの? 園原さんだって、御両親に孫を見せたいって普通の事を言っているだけだし、美優にとっても園原さんの御両親は唯一のおじいちゃん、おばあちゃんになるんじゃないの?」
紗月に言われて、返す言葉もなかった。
「紗月さん、あんまり夏希を責めないでやって、夏希と俺の関係が複雑になった原因は俺にあるんだ。夏希も良かったら前向きに田舎に行く事を考えてくれると嬉しい。もちろん紗月さんが一緒でも大丈夫だ。今日は帰るよ。じゃ、水曜日な」
「将嗣、私、無神経でごめん」
ボソッと呟いた。
「夏希は悪くないよ」
将嗣はそう言って美優を私に手渡し、私が顔を上げると悲しそうな顔で笑っていた。
玄関で将嗣を見送った後、部屋に戻ると紗月が私に向かって言う。
「夏希ちゃんがシングルマザーになるって聞いた時、相手の男コノヤローって思っていたけど、会ってみたら園原さんいい人だね。ねえ、なんで園原さんじゃ、ダメなの? 今、フリーなんだし、美優にとって本当のパパなんでしょう?」
「紗月が、相手の男コノヤローって思った頃には、もう、気持ちの整理がついちゃったからね……。気持ちって、難しいね」
腕の中にいる美優を見つめる。
神様とは器用なもので耳の形やおでこから目のあたりまで将嗣に似て、唇や鼻は私に似ている気がする。両親それぞれのパーツを器用に混ぜ合わせて出来ている。こういうよく似た部分を意識した時、血のつながりを感じる。
「ごめん、ちょっと言いすぎちゃったね。さっきの話さ、私、一緒に行ってもいいよ。その代わり週末絡めてね」
「将嗣の実家かぁ。結婚もしていないで子供連れて行ったら結婚させられそうで気が重いんだよね」
「まあ、世間一般的には、そうだよね。でも、会えるウチに会って置いた方が良いと思うんだよね。美優ちゃんにとっては、おじいちゃんおばあちゃんになるわけだし」
確かに、人の命の長さなんてわからない。後で会って置けば良かったと後悔してからでは遅いんだ。それに将嗣は、お父さんが病気療養中だと言っていた。
紗月が帰った後、元気に動く美優を眺めていると複雑な気持ちになった。
私にとっての幸せと美優にとっての幸せは違うものなのだろうか?
子供を産んだら子供の幸せを考えるのは大切な事だけれど、自分の幸せを追い求めてはいけないのだろうか?
やっと、気持ちが通じ合った恋を諦めないといけないのだろか……。
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