名無しの(仮)ヒーロー

海月三五

無理が通れば道理が引っ込む 3


「美優ちゃん、おいで、相変わらず可愛いなぁ」

 将嗣は、美優を抱き上げ膝の上に乗せあやし始め、美優も構われて楽しそうにキャッキャとはしゃいでいる。その様子をもうご勝手にの気持ちで眺めていた。

「へぇ、園原さん、ちゃんとパパしているんだ」と紗月が言うと
「にわかパパだけどね」と将嗣が笑う。

「園原さん、急にパパだって知ってどう思いました?」
 紗月ってば、なんて聞きにくい事をズバッと聞くのか、驚いたけれど聞いてみたいことでもあった。
 
「まさか夏希が俺の子供を産んでくれいたとは思ってもみなかったから、嬉しかったよ」
 と、将嗣はふわりと優しい笑顔で答えた。

「園原さん、いい人だね。わりとイケメンだし」

「美優パパとして合格?」

「うん、合格!」

 紗月と将嗣で勝手に合格を出して、だからなんだというんだ。

「で、今日の要件は?」
 と、私は将嗣に事務的に接する。

「今度の水曜日午後2時に弁護士さんの手配が付いたんだ。迎えにくるよ」

「えっ? それだけ? ラインのトークでも済んだのに……」

「夏希ちゃん、園原さんだって美優ちゃんに会いたかったんだよ。用事がないと会いにくいし、そんな事言わないの」
 と、紗月に窘められた。言われてみればそうなのかもしれない。

「紗月さん、ありがとう。美優ちゃんの顔が見たかったんだ」
 少し寂しそうに言う将嗣の言葉を聞いて、罪悪感が湧く。
 
 少なくとも将嗣は、美優の父親としての対応は、誠意を持って対応してくれている。
私は冷たすぎるのだろうか? そんな事考えていたら心に隙をついたように将嗣が例の話をし出した。

「夏希、田舎の両親に美優ちゃんを会わせる話考えてくれた?」

 ヤバイ、保留中の話を持ち出された。

「何? 夏希ちゃん、園原さんのご両親に会うの?」

 認知の話も約束通り進めてくれている訳で、セットでこの話も出るのは予想していたが、今日突然、将嗣がやってくるとは思ず、まだ答えが出ていなかった。

「……ごめん、まだ考え中」
 やんわり断れないか言葉を探していたが言葉が見つからずにいた。

「園原さんの田舎ってどこ?」
 紗月が将嗣にワクワクとした感じで話し掛けた。

「福島の会津地方だよ。観光も兼ねて2泊3日ぐらいで温泉宿に泊まってのんびり美味しいものでも食べたらいいかなって思っているんだ」

「温泉かー。いいねぇ」

「知り合いで、旅館やっている人がいて、その宿の離れが露天風呂付きでのんびり出来て最高なんだよ」

 ふたりの会話はテンポよく、旅行の予定でも立てているようにスルスルとプランが提示されていた。

「いいなぁ。部屋付き露天風呂がある離れの部屋かぁ。私も行きたいなぁ」
と、紗月が呟いた。

「紗月さんも一緒に行く?」
 
「いいの? 行こうかな?」

「えっ  何言ってんの?」
 私は、行くとは言っていない。二人でプランを勝手に立てて、何ならふたりで行ってくれても構わない。

「夏希ちゃん、楽しそうだし行こうよ」

「そうそう、みんなでワイワイ楽しもうよ。なっ! 夏希!」

「待って、待って、私、行くなんて言っていないよ」
なんでか、みんなで一緒にプランが推し進められていく。

 ああああああああ!(心の叫び)
 

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