名無しの(仮)ヒーロー
和を以て貴しとなす 6
「この世に生まれて初めての上げる産声、固く握った小さな手、未来へと受け継がれる命。その現場に遭遇して生きている事の大切さを改めて考えた。私は、生きているのに心を凍らせて死んだような毎日を送る自分を恥じた。心が動き出した私は、保留にしていた出版の話を受けて話を進めた。まさか、その本の表紙に指名した作家があの日の妊婦さんとは思わなかったけどね」
二人で顔を見合わせてふふと笑った。私の手を包む朝倉先生の手が熱い。
「夏希さんが必死に子育てをしているのを見て、いつもパワーを貰っていたんだ」
「翔也先生、すみません。私、自分に自信がなくて、翔也先生に似合わないんじゃないかとずっと思っていたんです」
私が不安を吐露すると、朝倉先生は優しい瞳で私を見つめる。
「夏希さんは、明るくて、頑張り屋さんで、愛情深くて、優しくて……」
と、恥ずかしくなる事を言い出した。
「朝倉先生!」
私は、アワアワと朝倉先生の言葉を遮ったけど、止めてくれない。
「恥ずかしがり屋さんで、照れ屋さん」
と朝倉先生は私を揶揄い、そして優しい目をした。
「呼び方が戻っているよ」
「……翔也さん」
私たち親子の事を身代わりだなんて朝倉先生は思っていない。
自分の自信の無さから勝手にネガティブ思考に陥って悪い考えに囚われてしまっていた。
「翔也さん。辛いお話をさせてしまいました。ごめんなさい。二人で解決していこうと言ってもらえて嬉しかったです」
「いや、もっと早くこの話をしておけば良かった。すまない」
そう言って、朝倉先生は私の頬に手を当て、唇に優しいキスを一つ落とした。
唇が離れた後、私は意を決して口を開いた。
「翔也さん、私もお話しておくことが、あります」
朝倉先生は頷き、私を見つめた。
「あの、先日、うちに来て頂いた時に会った人が美優の父親で、美優の認知の話が進んでいます」
ここまで言うと心拍数が上がっているのが自分でもわかる。先日、家の玄関先で朝倉先生と将嗣が会った時の事を思い出す。
「彼と付き合っていた時、彼が既婚者だって知らなかったんです。既婚者である事を知って直ぐに彼と別れました。その後に妊娠に気が付いて、授かった命を消してしまう事をしたくなかったから黙って美優を産んだのです。そうしたら美優の健診で区役所に行った時に偶然会ってしまって……。その後、月齢で付き合っていた時の子供だっていう話になったんです」
「それで、既婚者でありながら今も夏希さんに付きまとっているのか?」
「いえ、離婚したそうです」
朝倉先生は、ハァーと息を吐いた。
「夏希さん、人が良いから心配だよ」
「大丈夫ですよ。私も大人なんですから」
とは、言ったものの 先日、隙をつかれてキスをされた事を思い出し目が泳ぐ。
「美優ちゃんを盾にされたら断り切れない話が出てきそうだ」
と朝倉先生に言われ、ギクッ!とした。
田舎の両親に会わせたいという話が出ていて、断り切れていないからだ。
「あのー。実は……」
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