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神島古物商店の恋愛事変~その溺愛は呪いのせいです~

大江戸ウメコ

プロローグ

 残暑の残る九月、うっすらと西日が差しこむ蔵の外ではヒグラシが切なげな声をあげていた。家主のいなくなった古民家。その離れにある蔵に冷房などついているはずがなく、むわっとした熱気が埃に混じって、むき出しの肌を撫でる。
 けれども、熱さの理由は残暑のせいだけではない。

「はぁ、立花りっか。可愛い……愛してます」

 固い板張りの床に私を押し倒して、熱に浮かされたような顔で保科ほしなくんが何度も口づけを落とす。汗にまみれたシャツは彼の手によってめくれ上がり、熱気に肌がさらされている。

「ぅん……はっ、保科くんっ、あっ、正気に戻って!」

 彼の身体を押し返しながら、私は必死に声をかけた。
 人の来ない蔵でふたりきり。床に押し倒され、あわや貞操の危機といった様子だが、私と保科くんはただの仕事上の先輩後輩で、断じてこのように甘い恋愛関係ではない。それどころか、仕事仲間としてもそこまで良好な関係ではなかった。
 保科くんは、口を開けばとにかく毒舌。私にちくりと言わなければ気がすまないのかというくらい、態度が冷たい男なのだ。
 ――それなのに。

「立花、口、開けて下さい、もっと」
「ぅっ、んんんんんっ!」

 またしても唇が重なる。ぬるりと生暖かい舌が入り込んできて、私の口内を蹂躙した。
 密着した身体が、重なる吐息が、たまらなく熱い。
 すぐ近くにある保科くんの熱を宿した目が、とろんと甘い。
 くちゅくちゅという舌が絡まる水音を聞きながら、私は心の中で悲鳴を上げた。

 誰か、お願いだから保科くんを正気に戻して!

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