恋の始め方間違えました。
82
けれどその夜、真壁さんから連絡はなかった。
「――で。だからなんだよ。まだグダグダやってんのかよ。俺はFMラジオのパーソナリティじゃねえっつうの。恋愛相談なんかしてくんなよ」
オフィス街の駅近くの居酒屋で、座敷席に向かい合って、悪態をついたのは、益子だ。
「だってその日のうちに連絡くれるとおもうじゃない。それなのに、朝までなんにもない。メッセージがきたの、次の日の夕方だったんだよ」
「来なかったわけじゃねーんだからいいだろ」
と、面倒くさそうに言って、小鉢のコノシロの酢漬けをつまみ、富山の日本酒を飲む。
「でも、なんか、空白の時間が長すぎじゃない?」
「そんなのいつものことだろうがよ。つーか、探り入れんのに俺を呼び出すなや」
「ここは奢るから。だって他に話せる相手が益子しかいないんだもん」
「友達いなさすぎだろ」
「仕方ないでしょ、同級生なんて軒並み結婚してて忙しいんだから」
「は? 独身男ってバカにしてんのか、1番高い日本酒頼むわ。ちくしょう」
「してないし!」
私は烏龍茶をちびちび啜る。
「うーん。でもなあ、とりあえず会長とゴルフは行ってたぞ。織部のとこに来たメッセージってなんだ?」
「土曜日うちに来るって」
「ノロケかよ。はい解散」
一気にあおり、腰を上げようとする。
「待って待って。ねぇねぇ、益子はその議員のお嬢様見たことある?」
「元ミスキャンパスで読者モデルの?」
私の心に鋭利な刃物が突き立てられる。
「でた……」
「そういう系に好かれるよな。あの人」
益子は嬉しそうにニヤニヤしている。
「悪夢再びだろ。構えなくても大丈夫だって」
いいながら猪口に酒を注いでいる。
あっさり言ってくれるけど、もう溜息しか出ない。
「若くて綺麗な女の子の方がいいんじゃないの……? しかも議員のお嬢様なんてメリットしかないでしょ。ああ、もう。こんなふうに自分勝手にあの人を疑ってしまうのも嫌」
「まだグダグダ言って結婚してねーのなんなんだ? お前、真壁さんと結婚したくねえの?」
「したいけど、本当に私でいいのかって、怖いんだよ」
「案ずるより産むが易しっていうだろ。結婚なんて考えすぎたら出来ねえらしいぞ」
「そんなものかな?」
「らしいぞ。したことねーから知らんけど」
「なんか、私、いまいち踏ん切りがつかないんだよね」
「真壁さんが不安なら大抵の男だめだろ」
「そう、だけど……」
「そんなに迷ってんなら別れれば? で、俺が織部回収してやろうか?」
「は、またそういう適当なことばかりいう……」
「すまんすまん」
益子は笑っている。
「織部が腹くくるしかないだろ。で、百万くらいのダイヤの指輪買ってもらえば」
「そんなのいらない」
「いや、知らねーよ。とりあえず結婚してろ」
「でも……」
「何がでもだよ。いつまでちんたらしてんだよ。焦れったい通り越して殴りてーわ。人としてやらねえけど」
「丸くなったね。益子部長」
益子は悪態をつきながら私のとりとめのない話を聞いてくれる。
一人でグダグダ考えているとドツボにハマってしまうから、誰かに聞いて欲しかった。
真壁さんに対して、『初デートどうでした?』なんて軽口もきけないくらい弱っていた。
「――で。だからなんだよ。まだグダグダやってんのかよ。俺はFMラジオのパーソナリティじゃねえっつうの。恋愛相談なんかしてくんなよ」
オフィス街の駅近くの居酒屋で、座敷席に向かい合って、悪態をついたのは、益子だ。
「だってその日のうちに連絡くれるとおもうじゃない。それなのに、朝までなんにもない。メッセージがきたの、次の日の夕方だったんだよ」
「来なかったわけじゃねーんだからいいだろ」
と、面倒くさそうに言って、小鉢のコノシロの酢漬けをつまみ、富山の日本酒を飲む。
「でも、なんか、空白の時間が長すぎじゃない?」
「そんなのいつものことだろうがよ。つーか、探り入れんのに俺を呼び出すなや」
「ここは奢るから。だって他に話せる相手が益子しかいないんだもん」
「友達いなさすぎだろ」
「仕方ないでしょ、同級生なんて軒並み結婚してて忙しいんだから」
「は? 独身男ってバカにしてんのか、1番高い日本酒頼むわ。ちくしょう」
「してないし!」
私は烏龍茶をちびちび啜る。
「うーん。でもなあ、とりあえず会長とゴルフは行ってたぞ。織部のとこに来たメッセージってなんだ?」
「土曜日うちに来るって」
「ノロケかよ。はい解散」
一気にあおり、腰を上げようとする。
「待って待って。ねぇねぇ、益子はその議員のお嬢様見たことある?」
「元ミスキャンパスで読者モデルの?」
私の心に鋭利な刃物が突き立てられる。
「でた……」
「そういう系に好かれるよな。あの人」
益子は嬉しそうにニヤニヤしている。
「悪夢再びだろ。構えなくても大丈夫だって」
いいながら猪口に酒を注いでいる。
あっさり言ってくれるけど、もう溜息しか出ない。
「若くて綺麗な女の子の方がいいんじゃないの……? しかも議員のお嬢様なんてメリットしかないでしょ。ああ、もう。こんなふうに自分勝手にあの人を疑ってしまうのも嫌」
「まだグダグダ言って結婚してねーのなんなんだ? お前、真壁さんと結婚したくねえの?」
「したいけど、本当に私でいいのかって、怖いんだよ」
「案ずるより産むが易しっていうだろ。結婚なんて考えすぎたら出来ねえらしいぞ」
「そんなものかな?」
「らしいぞ。したことねーから知らんけど」
「なんか、私、いまいち踏ん切りがつかないんだよね」
「真壁さんが不安なら大抵の男だめだろ」
「そう、だけど……」
「そんなに迷ってんなら別れれば? で、俺が織部回収してやろうか?」
「は、またそういう適当なことばかりいう……」
「すまんすまん」
益子は笑っている。
「織部が腹くくるしかないだろ。で、百万くらいのダイヤの指輪買ってもらえば」
「そんなのいらない」
「いや、知らねーよ。とりあえず結婚してろ」
「でも……」
「何がでもだよ。いつまでちんたらしてんだよ。焦れったい通り越して殴りてーわ。人としてやらねえけど」
「丸くなったね。益子部長」
益子は悪態をつきながら私のとりとめのない話を聞いてくれる。
一人でグダグダ考えているとドツボにハマってしまうから、誰かに聞いて欲しかった。
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