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恋の始め方間違えました。

森野きの子

72

 幸せを感じてる場合じゃない。もし、真くんが今夜現れなかったらどうしよう。連絡のしようがない。それとも彼の方が自然消滅を望んでいたりして? それはさすがに虫がいい。いずれにせよ中途半端なままは嫌だから、話をしたい。もうなんか浮かれてるけど、いい感じに仲良くなった相手がいるのに、昔の好きな人が現れて焼け木杭に火がついて二股かけてる駄目女なのよ。私は。

 どっちとも付き合わないつもりだったのに、真壁さんに絆されちゃって、真くんと離れようとしてる最低な人間。あああ。最低なのはわかってるけど、あの人だけは別格だ。あの魅力に抗えない。匂い。顔。身体。声。手、指。仕草。儚さ。強さ。弱さ。色気。優しさも強引さも、上品さから垣間見得る猥雑さ、なにもかも。あああ。好き。好き。見悶えるくらい愛おしい。もし、真壁さんが失脚して全財産失って借金背負ったって全然ついていける。あの人と結ばれる人生なら、もうこれ以上望まない。

 あのまま真壁さんが現れなければ、真くんと付かず離れず、たゆたうような関係でいられたのかもしれない。でも、きっとどこか満たされないままだった。

 でも、もう現実は二股の最低女なわけで。

 一度だけ思いを遂げたらそれでいいと思いきったんだけど、切れることもできなかった。

 重い足どりで出勤して、ホルターネックの黒いロングドレスに着替えて化粧をしていたら、結愛ちゃんが入ってきた。

「さ、い、あ、く~。」

「ご、め、ん、ねぇ?」

 鏡越しにキッと鋭く睨みつけられる。漫画だったらバチバチッと電撃が走ってる。

「ババアが調子乗ってんなよ」

「そのババアも今日で最後だから、あと数時間我慢して頂けます?」

 口紅を紅筆で引きながら、応える。

「はあ? ババアだからって上から言うな」

 結愛ちゃんはピンクのフワフワとした可愛らしいミニドレスに着替えて、ロッカーについている鏡でパールピンクのグロスを塗る。

 黙っていれば可愛らしい女の子なのに。

 私は化粧を終えて、髪を上げようと、自分のロッカーに行き、ピンやゴムを探した。

「言ってませんけど。むしろ、年齢関係なく人と人のコミュニケーションにおける最低限の礼儀くらいお持ち頂けませんか? お嬢様」

 と、隣を覗きこむと、結愛ちゃんが叫んだ。

「おちょくってんじゃねーよ!」

 バシッと頬に痛みが走る。やだ。なにこの娘、本当になんでこんなに。

 なんて、考えながら私の手も彼女の頬をめがけてしなっていた。

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