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恋の始め方間違えました。

森野きの子

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 翌日の目覚めは、思いの外、スッキリしていた。なんだか飲んで帰った翌日とは思えないくらい、体が軽い。昨夜、幻想に負けなくて良かった。

 シャワーを浴びて、着替えと化粧を済ませて、コーヒーを飲んで、いつもより少し時間をかけて歯を磨いた。今日から、夜の仕事を辞めて、先日お世話になったリンパドレナージュのお店でレッスンを受ける予定だ。あのあとネットで調べて、SNSで研修生を募集しているのを見つけた。レッスン五回十五万円で、基本的な手技を教えてくれる。やる気があれば、お店で実践を兼ねてお客様を充ててくれる。最初の一ヶ月はお給料はでないけれど、それ以降は歩合制で、お給料を貰いながら経験を積ませてもらえる。

 とにかく一歩を踏み出さなきゃ、前を向くことも、周りを見渡すこともできない。

 十時の予約に合わせて部屋を出た。午前中のうちに目的を持って出かけるのは久しぶりかもしれない。なんだか緊張する。こんなのは入社試験以来かもしれない。

 ふと、あの人の言いつけ通り行動している自分が可笑しくなる。本当に私ときたら、あの人次第。もう、どうしようもない。下手な考えは休むに似たり。このままでいよう。いつか、本当に思い出になるまで、恋心を忘れようとすることを忘れよう。諦めることを忘れよう。



 あの日、私に手技を施してくれたのは、リンパドレナージュサロン、ラベンダームーンのオーナーである望月紫さん。私より七つ歳上なのに、私より肌が綺麗でみずみずしい。まずは、服を着たまま、120分、オーナーの手技を受ける。その間に手技の手順と注意点を説明されて自分の肌で感覚を知り、実技が終わると、十五分の休憩をして、オーナーお手製のテキストを貰い、別室で先輩従業員の中里美幸さんから、一時間、アロマオイルの症状別の効能や効果、禁忌などの説明を受けた。半年に一度アロマテラピストの資格試験があるらしい。将来的に一応持っていてもいいんじゃないかと勧められ、オーナーお手製のテキストの他に、そこの認定アロマオイル辞典もついていた。学ぶことがたくさんある。新しい始まりがあるのだと再確認して、胸が弾んだ。ゆっくりと見えないはずの目の前が拓けていくのを感じた。

 昼過ぎにラベンダームーンをあとにして、駅ナカのコーヒースタンドでサンドイッチとコーヒーで昼食をとることにした。勉強と癒しの空間のおかげで、少し頭がぼんやりしているけれど、心地よい疲労感だった。来月にテラピストの試験が開催されるのを思い出して、テキストと辞書を開いた。けれど、頭が働かない。ほんの一杯アルコールを摂取した時のような、薄い膜一枚の感覚の鈍さ。

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