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恋の始め方間違えました。

森野きの子

68

 シャワーを浴びたあと、ベッドの上で携帯電話を握りしめ、頭の中で自問と言い訳で忙しい。仕方ない。卑怯だとわかっているけれど――。



 三回目のコールで繋がる。



「はあぁ? かける相手間違ってんじゃねーの?」

 電話口というより、さっきの延長。不思議なくらい益子は私に緊張させない。

「うるさい。益子のせいだからね」

「なにが」

 ちょっとトーンを落とした声色に優しさを感じる。

「私、真壁さんにヤリ捨て女って思われてるの?」

「いや、知らんけど、エロいことして付き合ってないならそーなるんじゃねーの? そんなに気になるなら本人に聞けよ。今ならまだ余裕で起きてるだろ」

「かけられない」

「甘えんな」

「違う。本気で」

「知るか。お前、脈なしだろうが飛び込みしてた現役時代思い出せ。根性見せろ。」

 部活の先輩でも言わない台詞。顧問かこいつ。でも、この素っ気なさが心地いい。

「もーやだ。スパルタ」

「日和ってんじゃねーよ」

「もーやだ。ほんと、やだ。」

「やだやだぐだぐだ言ってる暇あったら行動しろ。当たって砕けろ。玉砕したら焼肉くらい奢ってやるよ。紅蘭の」

 ほどよく飲んでしっかり食べたら一人二万五千円は固い焼肉屋の名前が出て、ちょっと気持ちが変わる。食べ物に釣られてる自分が情けない。

「上ミノと厚切りタン塩は絶対だからね!」

「はいはい。わかったわかった。つーか、甘える相手間違ってんぞ」

 ブツッ、と一方的に終了。でも、心の準備がまだ。深呼吸。電話するのにもこんなに勇気がいるのに、直接会いに来た真壁さんってすごすぎない? 私、電話だけでも震えてるのに。無理。無理だって。ヤリ捨てなんかじゃないですって電話で弁解してなんになるの。

 それで、声を聞いたら、絶対、欲情する。後腐れなくいきたい。割り切りたいのに。終わらせたいのに。



 全部、嘘。



 声を聞かなくても、思い出すだけで欲情する。後腐れありまくる。割り切れない。終わらせたくない。往生際が悪いのは重々承知。

 とっくに呆れられて、見限られたというのに、スーツ一式も捨てられないまま、クリーニング済みのビニールを被って押入れの中で吊るされている。

 電話なんて、かけられるわけがない。いや。かけたところで、もう出てくれるはずがない。電話を置いて、布団を被る。さあ寝よう。からだの奥に仄かな欲情が揺らいだけれど、目を閉じてやり過ごすことにした。文字通り、自らじゃ手に負えない。


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