恋の始め方間違えました。
67
「そうか……?」
「まさか、真壁さんに云われた?」
「あの人はそんなこと云わねーよ」
「だよね! よかった。でも、益子。ごめん。苦しめてごめんね。益子はなんにも悪くなかったよ」
「……織部だって優しすぎんじゃね?」
「いや、ほら、考えてみなよ。いい大人が自分の恋一つ儘ならないなんて。どうしちゃったの? いつものあんただったら、マシンガンみたいに、けちょんけちょんにディスってくるでしょ? さっきだって、なんだっけ、阪うぅん」
「阪上な。誤魔化せてねーよ。なんだよ、うぅんって。」
「阪上にまくし立てちゃって、なんてコイツ意地悪なんだろうってビックリしちゃった。」
「いや、なんか知らんけど、織部のことバカにしてるヤツがいたから、つい。でも相手が阪上でやりやすかったわー」
「やっさし~い。おかげで、スッとした。ありがとう」
「いや、別に。俺が勝手にやったことだし。つーか、若いツバメどーすんの」
「亡くなった友達の借金の連帯保証人になっちゃったんだって。彼、今不安で一杯で一人になりたくないんだって。それで、とても困ってたから、とりあえず貯金から五十万下ろして渡したの。」
「はぁぁあ? なんで金渡した? てか、まさか織部の部屋に居るのか?」
「ううん。私の部屋にあるのは愛した人の脱殻だけ」
「いや、なんそれ昭和歌謡? 寒いけど大丈夫? つーか、めっちゃ一人になってんじゃねーか。詐欺にしても杜撰すぎる」
「ねー。店にもこないし。明日は来ると思う。借金残り百万あるし。」
「……あ?」
「ん?」
「織部、あえて金渡した?」
「私、狡い女だったみたい」
「うるせえよ。昭和歌謡」
「ギリギリ昭和生まれですから。はぁぁあ。なんかもう自分が面倒くさくなっちゃった。あと腐れなく終わらせたいの。でも、救われたのは事実だから、なにもせずに別れるのは嫌だったの」
「それ義理堅いんじゃなくて、借りを作ったままでいるのが嫌なだけだろ」
「真壁さんが私にお金出すのすごい嫌なんだけど、私もおんなじことしてる。私はもっと悪質かも。」
「すべての悩みの大半は金で解決できるって昔の偉い人も言ってたぜ。まあ、こん中で一番金持ってる人が解決できない悩みを抱えてるんだけどな。どーすんの? 見殺し?」
ちょうどタクシーがアパートの前に着いた。財布から五千円出そうとすると、益子は支払いを済ませて、運転手に待っててもらうように告げて先に降りてしまった。
「なんで降りちゃうのよ」
慌てて背中を追いかける。
「話の途中だからだよ。どーすんのか訊いただろ」
「見殺しもなにも、私じゃ真壁さんの隣は歩けない」
「やっぱヤリ捨てすんじゃねーか。図星つかれて怒るなよ」
「ヤリ捨てじゃないって言ってんでしょ! バカ!」
「じゃあ、なんだよ? あの人は織部じゃなきゃだめなんだよ。わかってんだろ?」
「そんな、だって……」
「織部がそうしたんだよ。忠犬自称するなら、迷ってもちゃんとご主人様の元に帰れ。織部だって、あの人じゃないとだめなんだろ」
鼻の奥がつんとした。目頭が濡れていく。
益子の手がこっちへ伸びた。バチンと額に激痛。
「いった! なにすんのよ、あんた! 普通、ここでデコピンする!?」
「真壁さんに捨てられたら優しく慰めてやるよ。じゃあな。ツバメは適当に捨てとけ」
益子はニヤッと笑ってタクシーに戻っていった。
「そんな簡単にはいかないっつうの。」
Uターンをして、益子を乗せたタクシーが去っていく。いーっと歯を見せて見送った。
携帯が震えて、見てみると益子からのメールが来た。
『ブス』
「うっさいわ!」
なんだかやけに可笑しくなって笑ってしまった。
「まさか、真壁さんに云われた?」
「あの人はそんなこと云わねーよ」
「だよね! よかった。でも、益子。ごめん。苦しめてごめんね。益子はなんにも悪くなかったよ」
「……織部だって優しすぎんじゃね?」
「いや、ほら、考えてみなよ。いい大人が自分の恋一つ儘ならないなんて。どうしちゃったの? いつものあんただったら、マシンガンみたいに、けちょんけちょんにディスってくるでしょ? さっきだって、なんだっけ、阪うぅん」
「阪上な。誤魔化せてねーよ。なんだよ、うぅんって。」
「阪上にまくし立てちゃって、なんてコイツ意地悪なんだろうってビックリしちゃった。」
「いや、なんか知らんけど、織部のことバカにしてるヤツがいたから、つい。でも相手が阪上でやりやすかったわー」
「やっさし~い。おかげで、スッとした。ありがとう」
「いや、別に。俺が勝手にやったことだし。つーか、若いツバメどーすんの」
「亡くなった友達の借金の連帯保証人になっちゃったんだって。彼、今不安で一杯で一人になりたくないんだって。それで、とても困ってたから、とりあえず貯金から五十万下ろして渡したの。」
「はぁぁあ? なんで金渡した? てか、まさか織部の部屋に居るのか?」
「ううん。私の部屋にあるのは愛した人の脱殻だけ」
「いや、なんそれ昭和歌謡? 寒いけど大丈夫? つーか、めっちゃ一人になってんじゃねーか。詐欺にしても杜撰すぎる」
「ねー。店にもこないし。明日は来ると思う。借金残り百万あるし。」
「……あ?」
「ん?」
「織部、あえて金渡した?」
「私、狡い女だったみたい」
「うるせえよ。昭和歌謡」
「ギリギリ昭和生まれですから。はぁぁあ。なんかもう自分が面倒くさくなっちゃった。あと腐れなく終わらせたいの。でも、救われたのは事実だから、なにもせずに別れるのは嫌だったの」
「それ義理堅いんじゃなくて、借りを作ったままでいるのが嫌なだけだろ」
「真壁さんが私にお金出すのすごい嫌なんだけど、私もおんなじことしてる。私はもっと悪質かも。」
「すべての悩みの大半は金で解決できるって昔の偉い人も言ってたぜ。まあ、こん中で一番金持ってる人が解決できない悩みを抱えてるんだけどな。どーすんの? 見殺し?」
ちょうどタクシーがアパートの前に着いた。財布から五千円出そうとすると、益子は支払いを済ませて、運転手に待っててもらうように告げて先に降りてしまった。
「なんで降りちゃうのよ」
慌てて背中を追いかける。
「話の途中だからだよ。どーすんのか訊いただろ」
「見殺しもなにも、私じゃ真壁さんの隣は歩けない」
「やっぱヤリ捨てすんじゃねーか。図星つかれて怒るなよ」
「ヤリ捨てじゃないって言ってんでしょ! バカ!」
「じゃあ、なんだよ? あの人は織部じゃなきゃだめなんだよ。わかってんだろ?」
「そんな、だって……」
「織部がそうしたんだよ。忠犬自称するなら、迷ってもちゃんとご主人様の元に帰れ。織部だって、あの人じゃないとだめなんだろ」
鼻の奥がつんとした。目頭が濡れていく。
益子の手がこっちへ伸びた。バチンと額に激痛。
「いった! なにすんのよ、あんた! 普通、ここでデコピンする!?」
「真壁さんに捨てられたら優しく慰めてやるよ。じゃあな。ツバメは適当に捨てとけ」
益子はニヤッと笑ってタクシーに戻っていった。
「そんな簡単にはいかないっつうの。」
Uターンをして、益子を乗せたタクシーが去っていく。いーっと歯を見せて見送った。
携帯が震えて、見てみると益子からのメールが来た。
『ブス』
「うっさいわ!」
なんだかやけに可笑しくなって笑ってしまった。
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