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恋の始め方間違えました。

森野きの子

63

「ユカリちゃん。ここ、よろしく。このテーブルの分、俺につけて。じゃー、阪上さん。こいつはお邪魔でしょうから、私が連れていきます」

 と、私の肩を軽く叩いて促す。

「席案内してよ。俺の顔見えたら、阪上さん、酒がまずくなっちゃうから、遠めで」

 歩きながら益子が云う。

「違う男とまたエロいことするんですか~?」

 結愛ちゃんの皮肉たっぷりの甘ったるい甲高い声が追いかけてきた。益子が振り返る。

「若さもあって、おっぱい半分出してても安い酒しか入れてもらえないの、悔しいね? なんで安い酒しか入れて貰えないかわかる?」

「はあ? 黙れおっさん」

「おっさんとババアはほっといて自分のお仕事したら? 今夜はおじさんが奢ってあげるから好きなだけ飲みな?」

「キメェんだよ!」

 結愛さんの怒声を背中でかわして、益子は私に耳打ちする。

「語彙少なさすぎだろ。俺より少ないよ?」

「あんた、なにしてんのよ。どうすんの、超ぶちギレじゃない」

「なんかしてきたら終わるのはあっちだ。っつうか、あんた。うちの常務とエロいことしたんスか、織部さん」

「はぁぁあ? 訊く?」

「いや、遠慮させて頂きますけど。で、なにしてんスかね?」

 奥のソファ席、真壁さんの時とは違う場所に案内すると、先に腰を下ろした益子が見上げてくる。

「え。なにって?」

「え。じゃねーよ。ばーか。こんな店で四年以上もいるわりに、チーママにすらなれてないとかありえねえ。ただのヌシかよ。思考停止したまま化石になってんじゃないのか、お前。その上、まーだ真壁さんとぐだぐたしてんの?」

「そうね。最近やっと動き出したかな。真壁さんとも」

 終わったんだけど。とはなんとなく言いづらかった。

「遅すぎるわ」

「ごもっとも。なに飲む?」

「やっぱ一発目は生だな。織部は?」

「私も頂いていい?」

「いいよ。」

 ビールを取りにいくとなると、どうしてもあの席の前を通らなくちゃならない。緊張する。ほんと変わらない。なんなの、コイツ。口は悪いし、喧嘩っ早い。でも、正直、おかげでめちゃくちゃスッとした。さーて。気合い入れよ。

「凛花さん、なに持ってきますか?」

 桧山くんが愛想のない表情と声ながら私のところに来てくれた。

「あ、とりあえず生二つ。大ジョッキで」

「うぃっす」

 間延びした返事ながら、桧山くんの動きは機敏だった。すぐにビールが運ばれて、とりあえず益子と乾杯する。

「おつかれー。」

 と、ジョッキをぶつける。

「真壁さんから聞いて来たの?」

「真壁さんに言われて来たに決まってんだろ」

「いつの間に益子まで忠犬に?」

「そりゃ、お前。こんなこと頼めるのはお前しかいないって頭下げる前に懐からぶ厚い封筒だされちゃね。そらぁもう二つ返事よ」

「清々しいわ」

「いや、嘘。さすがに受け取れねーよ。俺もお前のこと気にしてたし。でも、俺が出る幕じゃなかっただろ。なんの助けにもなれなかったヤツが。つーか、真壁さんのメンタルくそやば。どーすんのアレ」

「どこまで知ってるの?」

「織部の居場所。あと、なに? 店内プレイだっけ。」

「し、して、ない、し」

「はいはい。つーか、おたくら何年費やすの? 来世に持ち越し? おめー次バッタだったらどーすんの? 次回も人間だと思うなよ。厚かましい」

「なに目線よ、うっさいな」

「もーマジで真壁さんいなくなってお前いなくなって俺がどんだけ苦労してきたか知らねーだろ。バチ当たれよもう。三人で仕事してたとき、俺、マジでめちゃくちゃ楽しかったんだぜ。なのにあんなんなってさー」

 深いため息をついて項垂れる。

「ま。もう過ぎたことだな。とりあえず織部が生きててよかった。」

 自分の前腿に肘をついてこちらを見る。

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