恋の始め方間違えました。
55
お風呂から上がって、バスタオルで水気をとり、互いにラフな格好に着替えて、飲むことにした。
「まだ明るいな」
「だいぶ日が延びましたね」
冷凍庫から瓶ビールとスパークリングワインを出して一本は食卓に、残りは冷蔵庫にいれた。
テレビをつけてみたけど興味が湧かず、ラジオをかけた。マジックアワーにアンニュイながらも透明感のある女性ボーカリストのボサノヴァに近いスムースジャズが流れる。そのあとは、やるせないほど甘美なバンドネオンが奏でるアルゼンチンタンゴ。どちらからともなくキスをして、終わりが来るのを忘れたみたいに舌を絡めた。
「大丈夫か?」
激しい行為の後、彼は優しく労りながら訊いた。私は頷く。
「どうして昨夜キスと愛撫のあと、お金を?」
「他の男の部屋に行くって泣きそうになりながら言っただろう。なんだって金を挟めばビジネスだ。仕事だったと思えば、少しはお前の気が楽になるんじゃないかと思ったんだ」
「そんな……。ごめんなさい。私、自分のことばかり……」
「他に男がいるとわかっていながら衝動を抑えられなかった俺も悪い。なんだかはっきりしない間柄みたいだったし、奪ってしまおうと思った。でもそれで果たして織部が幸せなのかと思うと、一度引くべきだと思った。でも、どのみち、嫌な思いをさせてしまったことに変わりないな。悪かった」
「真壁さんは優しすぎます。私のこと叱って下さい」
「じゃあ、いかないでくれ」
真壁さんに力強く抱きしめられ、胸がいっぱいになる。けれど、このままじゃだめだ。
「ごめんなさい。真壁さん」
ぐっと我慢して愛しい胸を押し返す。
「なんだよ。これでもだめなのか?」
真壁さんは呆れた声で落胆した。
「だめなんです。私にはプランがあるんです」
「どんな?」
私は笑って見せた。
真壁さんには戻らない。真くんとは始めない。
黙っている私を諦めて、真壁さんはため息混じりに訊いてきた。
「そもそもお前たちは付き合ってるのか?」
「それが、はっきり付き合おうとかいう話はしたことはないんです。キスもセックスもないですし、いわばプラトニックな関わりで、連絡先も知りません。まあそんな感じだから真壁さんとこうしてるんですけどね」
「不埒な女だな」
呆れたような、褒めるような、不思議なニュアンスだった。
「もう一度風呂に入って、飯、食おうぜ」
「真壁さん、体力すごすぎません?」
「いや、もうしばらく時間経たないと使い物にならないぞ」
「それじゃなくて」
「せっかくの刺し盛りに日本酒だぞ。それに、ベッドで陳腐で子守唄みたいに退屈な身の上話を聞かせる約束だろ」
「そうでした。それを聴くまで眠れない」
手を引いてもらい、立ち上がって歩こうとしたとき、両足の間がひどく粘ってぬめるのがわかった。破瓜の血なのか淫らな体液なのか。まだ、内側に居座る異物感も生々しい。労るように体を流してもらい、私も同じように返した。一線を越えるとはよくいったもので、キスも愛撫も躊躇いがなくなった。愛おしくて、ただ、ひたすらに繰り返される。
『あの人だってただの男だぞ?』
いつかの同僚が言っていた言葉が、鼓膜に蘇る。
「まだ明るいな」
「だいぶ日が延びましたね」
冷凍庫から瓶ビールとスパークリングワインを出して一本は食卓に、残りは冷蔵庫にいれた。
テレビをつけてみたけど興味が湧かず、ラジオをかけた。マジックアワーにアンニュイながらも透明感のある女性ボーカリストのボサノヴァに近いスムースジャズが流れる。そのあとは、やるせないほど甘美なバンドネオンが奏でるアルゼンチンタンゴ。どちらからともなくキスをして、終わりが来るのを忘れたみたいに舌を絡めた。
「大丈夫か?」
激しい行為の後、彼は優しく労りながら訊いた。私は頷く。
「どうして昨夜キスと愛撫のあと、お金を?」
「他の男の部屋に行くって泣きそうになりながら言っただろう。なんだって金を挟めばビジネスだ。仕事だったと思えば、少しはお前の気が楽になるんじゃないかと思ったんだ」
「そんな……。ごめんなさい。私、自分のことばかり……」
「他に男がいるとわかっていながら衝動を抑えられなかった俺も悪い。なんだかはっきりしない間柄みたいだったし、奪ってしまおうと思った。でもそれで果たして織部が幸せなのかと思うと、一度引くべきだと思った。でも、どのみち、嫌な思いをさせてしまったことに変わりないな。悪かった」
「真壁さんは優しすぎます。私のこと叱って下さい」
「じゃあ、いかないでくれ」
真壁さんに力強く抱きしめられ、胸がいっぱいになる。けれど、このままじゃだめだ。
「ごめんなさい。真壁さん」
ぐっと我慢して愛しい胸を押し返す。
「なんだよ。これでもだめなのか?」
真壁さんは呆れた声で落胆した。
「だめなんです。私にはプランがあるんです」
「どんな?」
私は笑って見せた。
真壁さんには戻らない。真くんとは始めない。
黙っている私を諦めて、真壁さんはため息混じりに訊いてきた。
「そもそもお前たちは付き合ってるのか?」
「それが、はっきり付き合おうとかいう話はしたことはないんです。キスもセックスもないですし、いわばプラトニックな関わりで、連絡先も知りません。まあそんな感じだから真壁さんとこうしてるんですけどね」
「不埒な女だな」
呆れたような、褒めるような、不思議なニュアンスだった。
「もう一度風呂に入って、飯、食おうぜ」
「真壁さん、体力すごすぎません?」
「いや、もうしばらく時間経たないと使い物にならないぞ」
「それじゃなくて」
「せっかくの刺し盛りに日本酒だぞ。それに、ベッドで陳腐で子守唄みたいに退屈な身の上話を聞かせる約束だろ」
「そうでした。それを聴くまで眠れない」
手を引いてもらい、立ち上がって歩こうとしたとき、両足の間がひどく粘ってぬめるのがわかった。破瓜の血なのか淫らな体液なのか。まだ、内側に居座る異物感も生々しい。労るように体を流してもらい、私も同じように返した。一線を越えるとはよくいったもので、キスも愛撫も躊躇いがなくなった。愛おしくて、ただ、ひたすらに繰り返される。
『あの人だってただの男だぞ?』
いつかの同僚が言っていた言葉が、鼓膜に蘇る。
「恋の始め方間違えました。」を読んでいる人はこの作品も読んでいます
-
【完結】政略結婚のはずですが?~極甘御曹司のマイフェアレディ計画~
-
13
-
-
あの瞬間キミに恋した
-
5
-
-
婚約破棄されましたが、エリート副社長に求愛される。
-
15
-
-
ノーティーダーリン〜エッチな夢から始まる恋ってアリですか!?〜
-
10
-
-
【完結】あなた色に染まり……ません!~呉服屋若旦那は年下彼女に独占宣言される~
-
9
-
-
半世紀の契約
-
8
-
-
社長は身代わり婚約者を溺愛する
-
8
-
-
私の身体を濡らせたら
-
2
-
-
年下の上司
-
26
-
-
オタクと元ヤクザが結婚したら…
-
4
-
-
【完結】【短編】相支相愛~空自整備士を愛情メンテいたします~
-
3
-
-
ハリネズミのジレンマ
-
4
-
-
カモフラ婚~CEOは溺愛したくてたまらない!~
-
13
-
-
世界が色付くまで
-
4
-
-
【完結】極秘蜜愛結婚~キセイジジツからはじめません、か?~
-
13
-
-
互いに堕ちるその先に
-
12
-
-
あなたの虜
-
4
-
-
誘惑の延長線上、君を囲う。
-
19
-
-
忘却不能な恋煩い
-
19
-
-
そもそも付き合ったのが間違いでした
-
30
-
コメント