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恋の始め方間違えました。

森野きの子

54

「悪い。大丈夫か?」
「もちろん、大丈夫です」
 額に唇が押し当てられた。
 ちょうど、お風呂が沸いたのを器械がアナウンスしてくれた。
「お先にお風呂どうぞ」
「せっかくだからここは一緒に、だろ」
「そうですね」
「今回はもう突き放したりしないから」
「はい」
「あ。俺が突き放される番か」
「あら。人聞きの悪い。最後までお楽しみいただきますよ?」
 ふ、と力ない微笑が返ってくる。
「ハンガー、お持ちしますね」
 靴を脱いで部屋に上がり、衣類用のラックから空いているハンガーを持って、玄関から入ってすぐ右側の浴室と対面側のトイレを教える。唯一のこだわり、風呂場とトイレが別。
 スパークリングワインと瓶ビールを冷やしておきたいので、と先に入っていてもらった。上がった頃にはなるべく冷たいようにと瓶ビールを二本冷凍庫に入れて戻ると、曇りガラスの扉越しに揺れるシルエットと、やけに耳につくシャワーの水音にドキドキした。スーツとネクタイは吊るされて、脱いだ下着類は足元にまとめられている。今のうちに洗って干しておいたら明日には乾いているかもしれない。カッターシャツはアイロンをかければ。ワンピースを脱いだところで洗濯物の準備をしていると、ドアが開く音がした
「悪い。カミソリないか?」
 流れ込んできた熱気と湯気がじっとりとまとわりつく。目に飛び込んできた彫刻みたいに逞しい裸体に思わず赤面した。
「女性用でも大丈夫でしょうか?」
「多分問題ないと思う」
 洗面器の流しの下から新しい丁字カミソリを出して手渡した。
「あの、カッターシャツ、家の洗濯機で洗ってアイロンかけても大丈夫ですか?」
「有難いけど、気にしなくていい。手間だろ」
「そんなことないです」
「そうか? 悪いな。にしても女物の下着ってすごいな。服を脱いでもドレスみたいだ」
 と、雑ながらも私のお気に入りのランジェリーを誉めて(?)くれた。
 一大決心をして洗面台でメイクを落とし、浴室に入る。裸よりスッピンを見られるほうが抵抗があるっていうのもおかしいのかもしれない。でも、僅差でスッピンのほうが恥ずかしい。
「冷た。お前体冷えすぎじゃないか」
 背後から覆い被さるように包まれ、うなじに唇が触れた。
「織部の匂いだ」
 きつく抱きしめられ、肩に口づけられた。歪な羞恥心は打ち消されて、再び喜びで胸がいっぱいになる。満たされてばかりで、溢れた想いが目からこぼれ落ちた。

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