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恋の始め方間違えました。

森野きの子

52

「ありがとうございます。すごく重かったでしょう」
「袋がやぶけなくてよかった」
 私は刺し盛りの包みとお肉屋さんの惣菜が入った袋、真壁さんはお酒類を全部持ってくれていた。荷物をトランクに積む。トランクの中には空の発泡スチロール箱が入っていたので、そこに生物を冷たい瓶ビールと倒れないように詰め込む。
「今も結構お野菜頂いたりするんですか?」
「最近は農家さんだけじゃなくて、趣味の家庭菜園を始める人も増えてきたから、ちょくちょく貰う」
「へえ。それで自炊なさったりするんですか?」
「最近コールドプレスジューサーを買った」
「わあ。女子力高ーい」
「仕方ないだろ。買わされたんだ。毎回修行僧になったつもりで飲んでる。時々本気で吐くような組み合わせもあるからな」
「果物とか蜂蜜とか入れてもですか?」
「その手があったか。プロテインと混ぜると本当に味覚の拷問みたいな時があるんだ」
 真顔で淡々と話すのがツボで余計に笑ってしまった。
「そういえば、男性物のルームウエアがないので、買いにいきましょう。下着と靴下も。せっかくだからプレゼントさせてください」
「二度目はないのにか?」
「いらなかったら捨ててください」
「どうしてそう俺を拒もうとするんだ」
「拒んでません」
 真壁さんは私の目から心の中を探ろうとしているけれど、嘘なんてない。
「そんなに見つめて、キスでもしてくれるんですか?」
「じゃあ、そうする」
 私の顎を指先で軽く掴んで唇を啄む。一度、二度。トランクとブロック塀の間で、真壁さんは表通りに背を向けて私を隠してくれた。
「さっきコロッケ食ったの、失敗だったな」
「ちょっと油っぽくて躊躇しますよね」
「美味かったけどな。キスの味までコロッケじゃ」
 格好がつかないと笑い合う。 
 今後この人以上に誰かを好きになることはない。
 私はもう後悔しないように、したいようにしているところ。真壁さんに抱かれて想いを遂げてさよならする。
 どん底の日常を癒してくれた真くんにお礼をしてさよならする。
 そしてお店を辞めて新しい職場を探す。生計が成り立つ目処がつくまで実家に頭を下げて泣きつこう。

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