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恋の始め方間違えました。

森野きの子

51

「あ。絶対嘘。謙遜しつつフェードアウトなさるおつもりですよね。わかってます。年増の処女なんてどうせゲテモノです」
「俺なんか三十後半のバツイチだぞ。新しい女もいないまま十年になろうかっていう。そんな男が居座っていいのか?」
「それがですね、真壁さん」
「なんだよ」
「お忘れですか。私の若い男の影」
「いや、忘れてない。いいじゃないか。あっちは若いんだから放流してやれば。」
「ふふ。彼と離れるわけにはいかないんです。言ったでしょう。私、欲張りなんです」
「ほう。ここでそれが利いてくるとはな。で、その彼と離れられない理由は?」
「それは、彼と私のお話なので」
 無言のまま彼が発した怒りのオーラで私の心臓が凍てつきそうだ。
「じゃあ、これだけ教えてくれ」
「何ですか」
「本命はどっちだ?」
「聞かなきゃわからないことですか? それ」
「もういい。どうせ俺は今夜限りの男だしな」
 可愛くてたまらなくなって、可笑しくなってきた。笑いが止められない。今まで知らなかった彼の内面がするすると披露されていく。
「意外とやきもちやきなんですね」
「お前、誤解の原因忘れたのか?」
「よくそれで前の奥さんに浮気されましたね?」
「後で身の上話を聞かせるよ。織部が爆睡するほど陳腐で退屈なヤツを」
「楽しみにしてます」
 都市高を降りてしばらく車を走らせて、商店街を見つけたので、すぐそばのコインパーキングに車を停めた。
 夕飯の献立を話し合い、通りがかりの鮮魚店の、刺し盛り承ります。の貼り紙にすっかり心を奪われてしまった。
 刺し盛りときたら、日本酒だ。鮮魚店のご主人に近くの酒屋さんを教えてもらって、北陸の日本酒一升とイタリア産のスパークリングワインと瓶ビール六本を購入して、お肉屋さんで地元銘柄の牛肉を使ったメンチカツを購入し、誘惑に負けて
店先のベンチで揚げたてのコロッケを二人で食べた。
 朝食は少しでも手作りをリクエストされたので、鮮魚店で鯵の干物と、八百屋さんでほうれん草と万能ネギを買った。
 商店街を堪能したので、刺し盛りが美味しいうちにと家路を急いだ。
 と言いつつ、私の本音は早く二人だけになりたい。もっと、私だけの彼を堪能したい。明日不慮の事故で死んでもいいと思えるくらい今を満喫しよう。遠慮なんかしない。躊躇わない。
 一人で踵の高いミュールに奮闘しない幸せを堪能しよう。少しの段差でも差しのべられる手を取りながら、涙が出そうになった。

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