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恋の始め方間違えました。

森野きの子

50

「狭くて古いところだから恥ずかしいのですが、一応人が住むところですよ」
 真壁さんはチラッと住所を見る。
「あ。ここ、広尾さんの次男さんのとこじゃないか。長男さんのアパートはうちが建てたけど、こっちは違うんだよ」
「え。なんですかそれ。怖いんですけど」
「伊達に仕事してないよ、俺。それにこれ、道一本挟んで向こうだぞ。知ってるって」
「私は知りませんでした」
「そりゃ織部が入社する前の話だし、仲介業者も違うしな」
「そういう話ではないんですけど……。あ。着く前にスーパーに寄ってもらっていいですか」
「いいけど。あれ。そういやお前、葬式って言ってなかったか」
「そうなんです。ラグジュアリーなホテルで私の純潔を弔って頂こうかと思ったんですが、やめました。私は欲張りなので、お金だけじゃ満足しないってことを思い知らせて差し上げます」
「へえ。なにをするつもりだ?」
「まず、真壁さんとしたかったことをします。食材買って、家で料理して一緒にごはん食べて、お風呂沸かしてゆっくりして、同じベッドに入るんです」
「そんなことでいいのか?」
「そんなこと? この上なく親密な関係じゃないとできないことですよ? 貴方、私の好きな人ですよ? 特別じゃないですか。なに言ってるんですか」
「いや、悪い。泣けてきた」
 というと運転に支障がでない程度に目頭に手を当てた。
「え。私の発想、そんなに憐れまれるほど貧相ですか?」
「そうじゃない」
 真壁さんは短く否定したきり、黙りこんだ。でも私は構わず続けることにした。
「そして、真壁さんを抱き枕にします。もちろん、セックスもお願いしますね。回数は真壁さんにおまかせします。そして、二人で疲れて眠るんです。目が覚めたら起きて、朝ごはんを作って、一緒に食べて、会社に向かう貴方を見送って、おしまい。これが今回のプランです」
「どのへんが欲張りなんだ? それとも罠か? 言っておくが俺だって枕営業はしたことないからな。期待するなよ」
「やだやだ。わかってないんですね。これだから資本主義の奴隷は」
「いや、どういう罵りだよ」
「わからないんですか? 惚れた相手が自分のために時間と心と身体を消耗してくれるんですよ? これほどの贅沢がありますか? たとえ身体は売っても心はそうはいかないでしょう?」
「お前、びっくりするぐらい処女だな。今までよくぞご無事で」
「すっごいバカにしてますね。え、嘘。むしろドン引きされてます?」
「してないしてない。こんなバツがついた男でいいのか」

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