恋の始め方間違えました。
44
ギリギリ。本当にギリギリだった。約五分前の滑り込みセーフで私はコンビニのATMで五十万を下ろしていた。備え付けの封筒にごわついた札束を入れて周りを気にしながら、コンビニをでた。
また、小雨が降りだしていた。
濡れた闇に浮かび上がるファミレスに頬杖をついて携帯電話を操作する真くんが見えた。ひとりぼっちをもて余してふて腐れているみたいだ。もしかしたら、私といるときに携帯電話を出さないのは、彼の気遣いだったかもしれない。
真壁さんがいなくなって、職も失って、自分自身にも失望しながら、しぶとく生きてきた。砂を噛むような日々に現れたオアシスが、真くんだった。それなのに、私ときたら。
「ごめんね。お待たせ」
小雨に濡れたせいで、空調の効いた店内が少し肌寒い。真くんは私の姿にハッとして、携帯電話をしまった。
「だ、大丈夫? 涼子さん」
「うん。あのね、真くん」
私は手に持っていた封筒をテーブルに置いた。
「これ。足りないけど、少しでも足しにして? 今夜はどこかビジネスホテルでも泊まってゆっくりして」
「え……。涼子さんは……?」
「私は、ほら、アレだし、外泊は心許ないから……、ごめんね」
「そんな……」
「あの。私ね、この仕事始める前に色々あって、本当に何もかもうまくいかなくて辛かったの。そんなとき、真くんに出会って、あなたの優しさに救われたの。だから、そのお礼」
私は真くんに封筒を握らせる。卑怯にも、肝心なことを濁したまま。
「涼子さん……」
真くんは俯いたまま、小さく頷く。
「ね。私にできることをさせて?」
「じゃあ、尚更受け取れない。これを受け取ったら、僕は涼子さんへの気持ちを売ったことになる。こんなものの為にあの時貴女に声を掛けた訳じゃない」
胸がいっぱいになって、涙が込み上げてきた。そうだ。何を血迷っていたんだろう。
「ごめんなさい……。真くん。ごめんなさい……」
真壁さんは何でも持っている。あの人がその気になれば、孤独を癒してくれる相応の相手が見つかるはずだ。でも、真くんは、そうじゃない。
「涼子さんが謝ることなんてないよ」
「ううん。私、最低だ。ねえ真くん。やっぱりこれは受け取って。頑張って二人で借金返そう。私でよければ力になるから」
「涼子さん……」
「お母さんにも心配かけちゃだめだよ」
「……涼子さん」
真くんは両手で顔を覆い、机に突っ伏した。
「大丈夫……?」
真くんの肩が震えている。鼻をすすると、息を吐くように言った。
「ありがとう、涼子さん。本当にありがとう」
「泣かないで、真くん」
「ごめん。涼子さんの気持ちが嬉しくて」
「喜んでもらえてよかった」
前を向かなきゃ。少しずつでも。借金だって、二人で頑張れば、すぐに返せる。その頃には私と真くんの関係も少しは形作られているかもしれない。
また、小雨が降りだしていた。
濡れた闇に浮かび上がるファミレスに頬杖をついて携帯電話を操作する真くんが見えた。ひとりぼっちをもて余してふて腐れているみたいだ。もしかしたら、私といるときに携帯電話を出さないのは、彼の気遣いだったかもしれない。
真壁さんがいなくなって、職も失って、自分自身にも失望しながら、しぶとく生きてきた。砂を噛むような日々に現れたオアシスが、真くんだった。それなのに、私ときたら。
「ごめんね。お待たせ」
小雨に濡れたせいで、空調の効いた店内が少し肌寒い。真くんは私の姿にハッとして、携帯電話をしまった。
「だ、大丈夫? 涼子さん」
「うん。あのね、真くん」
私は手に持っていた封筒をテーブルに置いた。
「これ。足りないけど、少しでも足しにして? 今夜はどこかビジネスホテルでも泊まってゆっくりして」
「え……。涼子さんは……?」
「私は、ほら、アレだし、外泊は心許ないから……、ごめんね」
「そんな……」
「あの。私ね、この仕事始める前に色々あって、本当に何もかもうまくいかなくて辛かったの。そんなとき、真くんに出会って、あなたの優しさに救われたの。だから、そのお礼」
私は真くんに封筒を握らせる。卑怯にも、肝心なことを濁したまま。
「涼子さん……」
真くんは俯いたまま、小さく頷く。
「ね。私にできることをさせて?」
「じゃあ、尚更受け取れない。これを受け取ったら、僕は涼子さんへの気持ちを売ったことになる。こんなものの為にあの時貴女に声を掛けた訳じゃない」
胸がいっぱいになって、涙が込み上げてきた。そうだ。何を血迷っていたんだろう。
「ごめんなさい……。真くん。ごめんなさい……」
真壁さんは何でも持っている。あの人がその気になれば、孤独を癒してくれる相応の相手が見つかるはずだ。でも、真くんは、そうじゃない。
「涼子さんが謝ることなんてないよ」
「ううん。私、最低だ。ねえ真くん。やっぱりこれは受け取って。頑張って二人で借金返そう。私でよければ力になるから」
「涼子さん……」
「お母さんにも心配かけちゃだめだよ」
「……涼子さん」
真くんは両手で顔を覆い、机に突っ伏した。
「大丈夫……?」
真くんの肩が震えている。鼻をすすると、息を吐くように言った。
「ありがとう、涼子さん。本当にありがとう」
「泣かないで、真くん」
「ごめん。涼子さんの気持ちが嬉しくて」
「喜んでもらえてよかった」
前を向かなきゃ。少しずつでも。借金だって、二人で頑張れば、すぐに返せる。その頃には私と真くんの関係も少しは形作られているかもしれない。
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