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恋の始め方間違えました。

森野きの子

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「上手ね」
 つられて少し笑う。
「実は、部屋に取り立てが来てて、できれば涼子さんの部屋にいけないかな?」
「え。私の部屋?」
「……だめ、だよね。こんなやつと関わったら、涼子さんの部屋も危なくなっちゃうもんね」
 私の貯金が七十万と少し。あとーー。ふとハンドバッグの中を思い出したけれど、やっぱり、真壁さんのお金を真くんに使うのはさすがに気が咎める。
「真くん、あの、少しなら私、協力できるよ」
 家賃や光熱費の引き落としを考えたら貯金を全額とはいかないけれど、一部なら出してもいい。私は、認めたくない事実だけれど、後ろめたさをお金で誤魔化そうとしている。真くんに救われていたくせに、真壁さんを忘れられなかった自分の愚かさを。言い出せない卑怯さも、お金で誤魔化そうとしているにすぎない。
 そんなことも知らず、真くんは子犬のような眼差しを不思議そうに向けた。
「え、どうして?」
「どうしてって、だ、だって、真くん、困ってるんだよね?」
「いやだ。いらない」
「でも……」
「そんなことより、不安なんだ。涼子さん。このままバイバイは嫌だよ。一緒に、横に寝てくれるだけでいい。どこかで、朝まで一緒にいて」
 真壁さんに揺れてるくせに。そんな中途半端な自分が嫌で真くんから離れようとしたくせに。
 でも放っておけない。そうだ。真壁さんは身を引いてくれた。いつまでも過去に囚われてうだうだしてちゃだめ。
「涼子さん?」
「……ごめんなさい」
 駄目だとわかっているのに、私には真壁さんを見限ることも、真くんを見捨てることもできない。
「涼子さん。どうしちゃったの?」
「ちょっと、待っててくれる?」
「ど、どこかにいくの?」
「トイレ。実は急にアレになっちゃったみたいで。コンビニで買ってきたいの。すぐ戻るから」
「え。あ、う、うん」
 バッグを持って席を立つ。真くんは面食らって、呆然と私を見送った。


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