恋の始め方間違えました。
42
真壁さんのマンションの浴室で一人で泣いた自分と重なり、さらに胸が苦しくなった。真くんを一人にできない。一人残される辛さを知っていたはずなのに。
「嫌だよ、涼子さん」
真くんは震える声でいい、崩れるように突っ伏した。
「ごめんね、涼子さん」
ひとしきり泣いたあと真くんは目尻を拭い、小さく呟いた。
「ううん。私が悪いの」
「なんか、泣いたりして恥ずかしい。言わない方がいいこといっちゃった。引いたよね」
「ううん。そんなことないよ」
「でも……、なにかあった? 客に嫌がらせされたんじゃないの?」
「ちがうよ。そんなんじゃない……」
胸の中に大きな鉛が沈んだみたいに苦しい。私はなんて悪人なんだろう。私が思っていた以上に真くんは私を思ってくれていた。私は心のどこかで真くんを疑っていた。連絡先を教えてくれないのも、深入りされたくないからだと思っていた。
「そっか。よかった」
涙で濡れた赤い目を少しだけ細めて微笑む。
「ごめんね。真くん」
「謝られるの、怖いよ。涼子さん。きっとよくないことが起こってるんでしょ?」
真くんは私の手を握る。私は握り返すことも引き抜くこともできない。よくないこと。確かによくないことを私が起こしている。あの人を拒めないどころか、流されている。
「……ううん。ないよ。大丈夫」
「本当に? 涼子さんはそばにいてくれる?」
後ろめたさから答えられない。
「それより、真くんの方が辛そう。私の、せいだよね……。ごめんなさい」
「……ううん。涼子さんまで、いなくなっちゃったら……」
視線を下げ、心ここにあらずといった様子で呟く。
「どうかしたの? なにかあったの? 真くん」
真くんはうつむいたまま、実は、と震える声で切り出した。
「最近、友達が、死んじゃったんだ」
「えぇ?」
「すごく仲がよかったやつで、今通ってる資格の専門学校で知り合って……。なかなか試験に受からないから、なんか、ノイローゼみたいになっちゃって、アルコール中毒にもなってて、普段はとてもイイヤツなんだけど、いつの間にか借金とか作ってて……」
真くんは大きく息を吐き出すと両手で顔を覆った。
「……名前だけって約束で、おれ、保証人になっちゃったんだ……」
サァーッと血の気が引いた。自分のことじゃないけれど、結構なショックだった。
「えっ、いくら?」
「百、百五十万……。言ったら、涼子さんに軽蔑されそうで言わなかったけど、おれんち、母子家庭で親には頼れないし、おれもまだバイトで実家から学校に行ってるし……」
「軽蔑するわけ、ないじゃない」
真くんは顔をあげて私を見る。
「母さんも夜の仕事でおれを育ててくれたんだ」
「ご苦労なさったのね。私なんかとは大違い」
「そうだね。涼子さんみたいにきれいじゃなかった」
真くんはうっすら涙の滲んだ目を細めて、くしゃっと笑った。
「嫌だよ、涼子さん」
真くんは震える声でいい、崩れるように突っ伏した。
「ごめんね、涼子さん」
ひとしきり泣いたあと真くんは目尻を拭い、小さく呟いた。
「ううん。私が悪いの」
「なんか、泣いたりして恥ずかしい。言わない方がいいこといっちゃった。引いたよね」
「ううん。そんなことないよ」
「でも……、なにかあった? 客に嫌がらせされたんじゃないの?」
「ちがうよ。そんなんじゃない……」
胸の中に大きな鉛が沈んだみたいに苦しい。私はなんて悪人なんだろう。私が思っていた以上に真くんは私を思ってくれていた。私は心のどこかで真くんを疑っていた。連絡先を教えてくれないのも、深入りされたくないからだと思っていた。
「そっか。よかった」
涙で濡れた赤い目を少しだけ細めて微笑む。
「ごめんね。真くん」
「謝られるの、怖いよ。涼子さん。きっとよくないことが起こってるんでしょ?」
真くんは私の手を握る。私は握り返すことも引き抜くこともできない。よくないこと。確かによくないことを私が起こしている。あの人を拒めないどころか、流されている。
「……ううん。ないよ。大丈夫」
「本当に? 涼子さんはそばにいてくれる?」
後ろめたさから答えられない。
「それより、真くんの方が辛そう。私の、せいだよね……。ごめんなさい」
「……ううん。涼子さんまで、いなくなっちゃったら……」
視線を下げ、心ここにあらずといった様子で呟く。
「どうかしたの? なにかあったの? 真くん」
真くんはうつむいたまま、実は、と震える声で切り出した。
「最近、友達が、死んじゃったんだ」
「えぇ?」
「すごく仲がよかったやつで、今通ってる資格の専門学校で知り合って……。なかなか試験に受からないから、なんか、ノイローゼみたいになっちゃって、アルコール中毒にもなってて、普段はとてもイイヤツなんだけど、いつの間にか借金とか作ってて……」
真くんは大きく息を吐き出すと両手で顔を覆った。
「……名前だけって約束で、おれ、保証人になっちゃったんだ……」
サァーッと血の気が引いた。自分のことじゃないけれど、結構なショックだった。
「えっ、いくら?」
「百、百五十万……。言ったら、涼子さんに軽蔑されそうで言わなかったけど、おれんち、母子家庭で親には頼れないし、おれもまだバイトで実家から学校に行ってるし……」
「軽蔑するわけ、ないじゃない」
真くんは顔をあげて私を見る。
「母さんも夜の仕事でおれを育ててくれたんだ」
「ご苦労なさったのね。私なんかとは大違い」
「そうだね。涼子さんみたいにきれいじゃなかった」
真くんはうっすら涙の滲んだ目を細めて、くしゃっと笑った。
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